都会島のミラージュ 作:寺田憲史(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 都会島のミラージュ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 少年(中高)
  • 初出 : 1992年9月21日~10月2日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 寺田憲史
  • 演出 : 千葉守
  • 主演 : 朝井翔

何かに急き立てられるかのようにたどり着いた街・ニューヨーク。
しかし、予備校を入れると8年近く勉強してきた英語は全く通じない。
そして、到着早々に、荷物の全てと有り金の半分を盗まれてしまった。
日本でのぬるま湯の生活に慣れきった自分にとって、確かにここでは人が冷たかった。
それでもやっとたどり着いたマンハッタンの夜景は、俺の目には手招きしているように優しく映った。

昔、父さんが殺されたニューヨーク。
今日からここでの生活が始まる。


本作品「都会島のミラージュ」は、多くのアニメ作品の脚本を手がけた寺田憲史さんのオリジナル脚本によるラジオドラマです。
放送されたNHK-FMのラジオドラマ番組「青春アドベンチャー」は四半世紀に及ぶ長寿番組ですが、本作品は第11作目の作品にあたり、長い歴史の中ではごく初期の作品にあたります。

初期のオリジナル脚本

前身番組である「サウンド夢工房」や「アドベンチャーロード」、「FMアドベンチャー」と比較した場合の青春アドベンチャーの大きな特徴の一つが、オリジナル脚本の作品が比較的多いことです。
本作以前にもオリジナル脚本の作品として「ブラックホール」(第7作目)がありますが、そちらは1回15分間完結のオムニバス形式ですので、本作品が青春アドベンチャー初の原作のない長編作品になります。
なお、寺田憲史さん原作の作品としては、すでに「ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔道士~」(1996年)を紹介済みですが、そちらはちゃんと原作小説(ゲームのノベライズ)があります。

自分探しにアメリカへ

さて、内容の紹介に映りますと、本作のタイトルに入っている「都会島」はいうまでもなく、ニューヨーク・マンハッタン。
主人公の山野恭平がニューヨークを訪れたところから物語は始まり、ニューヨークで生活していく姿が描かれます。
恭平が何のためにニューヨークに、しかも長期滞在を目的としてやって来たのかのは、作中では明確には描かれていません。
しかし、学校に通うでもなく、やりたい仕事があった訳でもなく、はたまた日本にいられなくなる犯罪を犯したわけでもないようですので、一言で言えば「異国の地での自分探し」というヤツでしょう。

ニューヨークの日本人コミュニティ

とはいっても本作の場合、主要な登場人物の大半は現地で暮らす日本人であり、舞台は現地の日本人コミュニティです。
この辺、恭平自身が日本料理屋に集まる日本人に対して「こいつら何のためにこの街で暮らしているんだろ」と毒づいている割には不徹底ではあるのですが、日本人社会とは言っても、「潜った日本人」つまり不法滞在者であり、彼らを通してアメリカ社会の現実に触れるという点では、やはり単なる旅行者以上の体験をしていることは確かです。

アメリカの現実

ここでいう「アメリカの現実」とは、例えば犯罪の多発、貧富の格差、人種差別、LGBT(性的マイノリティ=レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)、薬物問題、そしてそれらをすべて飲み込むアメリカ社会の懐の深さといったところでしょうか。
特にLGBT、というかゲイを正面から描いているという点では、青春アドベンチャーの長い歴史でも数少ない作品だと思います。
あっそういえば「BANANA FISH」もありましたね。
両方とも舞台がアメリカというのがらしいところではあります。

人生には明確なゴールはない

何はともあれ、アメリカ社会の実態とそこで懸命に生きる「潜った日本人」を通じて、恭平が少しずつ成長していく過程が描かれている…ような、いないような。
明確なゴールがあるストーリーではないのですが、先ほど書いた「こいつら」発言から感じられる恭平のイタさ(みんなそれぞれ事情がある=来たくて来ている人間ばかりではない、ということに気が付かないほど彼は若い)や空回りぶりを含めて、まさに「青春」アドベンチャーな作品ではあります。

米国で歌手デビューのHIROKOさん

さて、主人公の山野恭平を演じるのは俳優の朝井翔さん、らしいのですが、検索してもあまり情報はなく、どのような方かは判然としません。
ご存知の方がいらっしゃいましたらご教示ください。
また、ヒロインのミチを演じたのは歌手のHIROKOさん。
NHK-FMの帯ドラマではアドベンチャーロード時代の「女王陛下のアルバイト探偵」以来の出演だと思います。
HIROKOさんの来歴は「女王陛下のアルバイト探偵」の記事で詳しく書きましたが、子役をされた後に渡米し、アメリカで歌手としてデビューされた方だそうです。
もちろん本作のヒロイン・ミチのように不法滞在をしていたわけではないと思いますが、英語のセリフが多いという面だけではなく、歌やダンスが得意だという共通点を含めて、ミチを演じるのにうってつけの方だったと思います。

お姫様役より生き生き

実際、特別に演技がうまいという訳ではないですが、「女王陛下のアルバイト探偵」でのミオ王女役よりも、よほど生き生きと演じているように感じます。
なお、コラボというほど大げさなものではありませんが、本作品は第2回・第5回・第10回以外の回のエンディング曲にHIROKOさんの以下の曲が使用されています。

  • 第1回・第8回 : So Right
  • 第3回 : And Yet
  • 第4回 : Footloose And Fancy Free
  • 第6回 : Pride And Joyana
  • 第7回 : Blue Me A Kiss
  • 第9回 : Love Is You

甲斐田ゆきさんも英語が堪能

さて、ヒロインのミチに英語を喋れる方をあてているだけではなく、それ以外のキャストについても作品の舞台を意識した方がちゃんと選ばれています。
準ヒロインともいうべき、恭平憧れの彼女、コロンビア出身のルース・ミラーを演じたのは、後にアニメ「HUNTER×HUNTER」のクラピカ役で有名になる声優の甲斐田ゆき(かいだ・ゆき)さん。
ルース・ミラーは全く日本語のセリフがない役ですので最初は外国人の方が演じていると思ってしまったほどの甲斐田さんの英語ですが、甲斐田さんは都立新宿高校卒業後アメリカの大学に留学した経験があるとのことで納得です。
それにしてもルース・ミラー、可愛いよなあ。
胸が大きく性格の明るい南米美人と聞くと、押し出しの強いキャラクターを想像して、ちょっと引いてしまう部分もありますが、自分を押し付けてくるようなアクの強さはなく、気が回っていい子ですよね、彼女。
この物語での結末には納得いかないものもありますが。

甲斐田さんと言えば「元中学生日記」

なお、甲斐田さんはこの作品の何と27年後に同じ青春アドベンチャーの「元中学生日記」でも印象的な役を演じることになります(そういえばこの役もLGBT関連ではあります)。
「元中学生日記」ではこの間のキャリアを反映して声優として円熟した演技を披露されています。

英語を話せる日本人を使う細やかさ

また、ミチのルームメイトのケイトもすべてのセリフが英語の役ですが、こちらも英語が堪能でNHK教育テレビの「英会話 トーク&トーク」にも出演経験があるフリーアナウンサーの高田景子(たかだ・あきこ)さんをキャスティングしています。
本作品の出演者紹介を改めて聴いてみると、外国人の名前が一つも出てきません。
映画製作・配給会社であるトゥエンティ・ファースト・シティの名前がコールされるので、端役については外国人を使っているのだと思いますが、甲斐田さんや高田さんのようにきちんと英語が使える日本人の役者さんを使っているのがさすがだと思います。

コドク共有

さて、最後に一つご紹介。
“cakes”というサイトで、寺田憲史さんが「コドク共有」という小説を書いていらっしゃいます。(2023/5/10注:cakesのサービスが終了したようです)
アニメ制作会社で働く若者を主人公にした物語のようですが、そのACT3-6のタイトルが「都会島のミラージュ」。

(外部サイト)https://cakes.mu/posts/9349

もちろんストーリー上のつながりはないのですが、このラジオドラマの脚本あるいはニューヨークという都市に対して寺田さんが何らかのこだわりを持っているのかも知れませんね。


【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。


コメント

  1. 名無しさん より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    たまたま目にした古いドラマの出演者さんの名前を検索したら、このブログに辿り着きました。
    YouTubeにあります、「映画みたいな恋したい」のトパーズの回(サムネイルは本田理沙さん)の動画です。
    少しファンになったので、今後も情報が増える事を祈ってます。

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