帝都誘拐団 原作:加納一朗(アドベンチャーロード)

格付:A
  • 作品 : 帝都誘拐団
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : A
  • 分類 : 推理
  • 初出 : 1990年1月8日~1月19日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 加納一朗
  • 脚色 : 松本守正
  • 音楽 : 天上昇
  • 演出 : 上野友夫
  • 主演 : 木下秀雄

明治22年、ある日の夕刻。
樋口奈津は、思い詰めた表情で身投げをしようしている15、6歳の少女に出会った。
事情を聴いてみると、少女は外出中に、奉公先の幼い娘を見失ってしまい、主人にひどく叱責されたという。
奈津から口添えを依頼された文明新聞社の社主・前沢天風は、少女と伴に少女の奉公先に向かうが、そこで行方不明の娘がまだ帰っていないことを知らされる。
気になった天風は帝都中の行方不明者の情報を集め始めるが、その結果、少なくと22人の女が理由なく行方不明になっていることを知る。
繁栄を謳歌する帝都・東京の裏側で何が起こっているというのか。



本作品「帝都誘拐団」は、明治期の東京都を舞台とした加納一朗さんによる「開化殺人帖」の1作を原作とするラジオドラマで、NHK-FMのラジオドラマ番組「アドベンチャーロード」で放送された作品です。

加納一朗さん原作作品

「開化殺人帖シリーズ」は本作品の前に「にごりえ殺人事件」がラジオドラマ化されています。
その他、加納さんの作品は「ホック氏の異郷の冒険」と「浅草ロック殺人事件」がアドベンチャーロードでラジオドラマ化されていますが、私はこれらの作品については断片(各々、最終話と他に1話ずつ)しか音源を持っていないので、当ブログでは紹介できずにいます。
いつか全部を聴いてみたいものです。

明治時代の新聞記者+刑事

さて、本シリーズは、発行部数500~700部の小新聞である文明新聞社の社主・前沢天風と、警視庁の中条(ちゅうじょう)小警部という江戸っ子コンビが、文明開化の東京を舞台に殺人事件の謎を解くシリーズです。
ラジオドラマ化された上記2作品の他にも、原作小説には「開化殺人帖―懲役人源治の復讐」なる作品もあるようです。
前作「にごりえ殺人事件」では、樋口奈津こと、後の樋口一葉(演:横田砂選(よこた・さえり)さん)が、探偵役として冴えた推理を見せましたが、本作では樋口奈津の出番は少なく、基本的には天風・中条の二人が謎を解いていきます。

樋口奈津こと樋口一葉

ただ、樋口奈津の出番がないわけではなく、本作でも時折登場し、鋭いところを見せてくれます。
樋口一葉が後に作家活動僅か14カ月で24歳にして夭折したという史実を知る身としては、「なっちゃん」と気安く呼ばれる彼女が、せめて作中だけでも闊達で幸せそうにしているのを嬉しく感じました。
また、歴史上の人物という点では、勝海舟(演:斎藤隆さん)が重要な役どころとして登場するのも読者サービスとして嬉しいところです。

数少ない本格推理作品

さて、本作品、一応ジャンルは「推理」に分類しましたが、本格的な謎解きをメインにした作品ではありません。
そもそも、青春アドベンチャー系列の番組における本格的な推理ものとしては「二の悲劇」や「放課後はミステリーとともに」程度しかありません。

様々な要素

この作品は、推理ものとしてのプロットの良さではなく、明治の世相を描いた一種の時代小説的なニュアンスの強い作品です。
また、天風自ら敵のアジトと思われる船に潜り込むあたりは探偵小説的、犯人一味から銃撃されたりするあたりはアクション小説的といっても良いかも知れません。
ただ、薩長土肥(官軍)に占拠された江戸、という明治期の東京の一面を背景とした物語はそれなりに興味深く、最後まで飽きずに聴くことができました。
意外と聞きごたえのある作品です。

前作から引き続きの出演者

さて、本作品の主要な出演者は、揃って前作「にごりえ殺人事件」から引き続き登板しています。
具体的には、前沢天風役の木下秀雄さん、その妻かよ役の松阪隆子さん、中条小警部役の青砥洋(あおと・よう)さん、そしてナレーションの川久保潔さんなどが、不動のメンバーです。
黒柳徹子さんと同じ東京放送劇団(NHKの専属劇団)第5期の木下秀雄さんは「ドールズ~闇から来た少女」でも主演されています。

東京放送劇団

アドベンチャーロードでは主役はゲスト俳優?に譲り、東京放送劇団の方は脇を固める布陣の作品が多いのですが、本作品を演出した上野友夫さんの作品では木下さんを主役として多用しており、上記の「ドールズ」のほか、「ホック氏異郷の冒険」、「逢う時はいつも殺人」などで主演されています。
なお、残念ながら木下秀雄さんは2014年3月8日に82歳でなくなられているそうです。

上野ファミリー

また、スタッフは、アドベンチャーロードで一大勢力をつくっていた?この上野友夫ファミリーの方々。
上野さん演出作品では、大野哲郎さん、久保田圭司さんまたは松本守正さんが脚色を担当することが多かったのですが、「開化殺人帖」シリーズは松本守正さんでした。
そして上野さん演出作品で忘れてならないのは、なんと言っても天上昇(てんじょう・のぼる)さんの音楽。
本作品でもレトロな名調子ですぐに天上さんの音楽とわかります。

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