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月下花伝 時の橋を駆けて 原作:越水利江子(青春アドベンチャー)

  • 作品 : 月下花伝 時の橋を駆けて
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2017年1月8日~1月12日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 原作 : 越水利江子
  • 脚色 : 山谷典子
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 青山美郷

2か月前、おじいちゃんが亡くなった。
道場主だったおじいちゃんがいなくなった道場はいつもひんやりしたままだ。
私の取柄と言ったらおじいちゃんから習っていた古武術だけ。
同じ姉妹でも、女優をしている美人の姉とは比較にもならない。
でも、学校をやめる決意はした。
今日からは自分の力で何かをしてみせる。
でも何をしたらいいのかわからない。
だから、毎日、おじいちゃんの残した古い未編集の映画ばかり見ていたのだけど。
そのフィルムに移っている新撰組の沖田総司を見ているうちに不思議なことが起こったのだ…



いやーこれ、「タイムスリップもの」ではないですねえ。
いえね、放送前に本作品「月下花伝 時の橋を駆けて」をtwitterで「タイムスリップもの」として告知しちゃったんだけど、私の勘違いでした。
関係者の皆さま、すみません。

沖田総司は登場するけど

本作品、主人公が幕末に行くわけでもありませんし、沖田総司が現代にタイムスリップしてくるわけでもない。
というか厳密には実在の人物である沖田総司は登場しない。
いえ、「沖田総司」は登場するのですが、歴史上の人物である沖田総司ではなく、映画の役として演じられている沖田総司という、ちょっと変わった扱い。
青春アドベンチャーでいうと、ずいぶん昔の作品ですが、成井豊さん原作の「サンタクロースが歌ってくれた」に登場する「芥川龍之介」や「江戸川乱歩」が同じような趣向でした。
なお、本作品で「土方歳三役の役者」を演じている丸山厚人さんは2018年10月の「武揚伝」では本当の土方歳三を演じることになります。

映画界を描く内幕もの

という訳で、本作品、もちろんフィルム上の登場人物が現実の世界に現れるというのは十分、ファンタジーではありますが、SF的な展開は全くありません。
作品の主な舞台は京都の映画界。
京映・太秦撮影所というのは言うまでもなく、東映・京都撮影所の言い換えなのでしょう。
主人公の秋飛(あきひ)はその世界に飛び込むことになるのですが、そこでの裏方さんとのやり取りや、出演を巡るドロドロした内幕が意外と濃厚に描かれていきます。
そして、ストーリー自体も、将来に対する漠然たる不安を持つティーンエイジャーの成長を堅実に描く、予想以上に地に足のついたものでした。

でも新撰組は効いている

青春アドベンチャーでは、こういった現代の世界にファンタジーが滑り込んでくる系統の話、結構多いのですが、「家守綺譚」とか「幻想郵便局」とかいった良作を除くと、個人的にはいまひとつピンとこない作品が多いジャンルです。
ただ、本作品はやはり「沖田総司」が効いている。
新撰組という誰もが知る悲劇のストーリーを援用することにより、全くのオリジナルのファンタジーのような浮世離れを防ぎ、作品にえもいわれぬ切ない雰囲気を加えているように感じます。

川田瑠夏さんの穏やかな音楽

そして、この雰囲気を決定づけているのが川田瑠夏さんの穏やかなオリジナル音楽。
「晴れたらいいね」、「つばき、時跳び」とも似た優しい曲調で、本作品全体の雰囲気はこの音楽で決定づけられているといってもよいと思います。
全5話と短いながら、全体的に視聴後感の良い、聴きやすい作品に仕上がっていると感じました。

主演は青山美郷さん

さて、話を出演者に移しますと、本作品の主役である秋飛(あきひ)を演じているのは女優の青山美郷(あおやま・みさと)さん。
2011年夏のソニー・ミュージックアーティスツ主催のオーディションで選出された現在23歳の方で、2015年のFMシアター「夏の午後、湾は光り、」に主演されていますが、青春アドベンチャーには(恐らく)初出演で初主演です。
この青山さんと、姉の春姫(はるひ)を演じる、演劇集団キャラメルボックスの原田樹里さん(「晴れたらいいね」主演)がメインの出演者。

新撰組の配役は充実

このほか、「沖田総司」役の安西慎太郎さん(2017年の「帝冠の恋」の熱演が印象的!)、「山南敬助」(本作品では「さんなん・けいすけ」)役の細見大輔さん(「いまはむかし~竹取異聞~」・「旅猫リポート」主演)、「土方歳三」役の丸山厚人さん(「エド魔女奇譚」で徳川吉宗を演じていましたね)と、あまり出番は多くないのですが、新撰組メンバーはなかなか充実しています。


本記事は本ブログにおける500番目のラジオドラマの紹介記事になりました。
後日、記念の特集記事も作りたいと思いますので、そちらもご覧ください。


Hirokazu

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