白銀騎士団 -高貴なる亡霊- 原案:田中芳樹、脚本:菊地百恵(青春アドベンチャー)

格付:C
  • 作品 : 白銀騎士団 -高貴なる亡霊-
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : C+
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 2025年2月24日~3月7日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原案 : 田中芳樹
  • 脚本 : 菊地百恵
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 相葉裕樹

エドワード7世治世下のイギリス・ロンドン。
フィッツシモンズ家の当主ジョセフは、イギリス貴族社会の最下層・貧乏な準男爵ながら、知る人ぞ知る裏の顔を持っていた。
それは白銀騎士団(シルバー・ナイツ)を率いて、日ごと夜ごと人ならざる敵を退治していること。
大英帝国の闇の英雄サー・ジョセフ。その名は遠く東洋・日本まで鳴り響いている…かはともかく、実態はやはり貧乏な準男爵。
たったふたりの従者に愚痴を言われ、勝気なメイドに小言を言われながら、逆玉を夢見つつ今日も奇妙な依頼を受けるのだが。


2022年に放送された田中芳樹さん原作の「白銀騎士団 シルバー・ナイツ」の続編が本作品、田中芳樹さん原案の「白銀騎士団 -高貴なる亡霊-」です。

原案扱い

ここでご注意いただきたいのは田中芳樹さんの位置づけが、前作では「原作」、本作品では「原案」であること。
つまり本作品に原作小説はなく、前作の設定を基につくられた、菊地百恵さんによるオリジナル脚本の作品ということになります。
実はこの関係は同じ田中芳樹さんのヴィクトリア朝怪奇冒険譚ですでに実現しています。
ヴィクトリア朝怪奇冒険譚では原作のある3作品に続き、青春アドベンチャーオリジナル脚本の「黒十字の魔女」が制作されています。
なおその他「原案」表記のある作品は以下のとおりです。

激レア!「原案者」がいる青春アドベンチャー作品の一覧
【特集:青アド・ポーカー35】「原案」があるラジオドラマの一覧2021年は多かったNHK-FM青春アドベンチャーで放送されるラジオドラマは、大きく小説・漫画等の「原作」がある作品と、それがないオリジナル脚本の作品に分かれます。前者は「原作:...

シェアーズワールド

もともと田中芳樹さんは自作の世界を他の作家さんが展開することに寛容な方で、頓挫した作品の続編を他の作家に任せた作品(KLAN、紅いバラなど)、設定を共有した別ストーリーを他の作家に書いてもらったいわゆるシェアーズワールドの例(七都市物語、灼熱の竜騎士など)が多数あります。
そういえば上記のシェアーズワールド2作には、本作品の次に放送される「天涯の砦」の原作者の小川一水さんも参加されています。

怪異と戦う影の戦士?

さて本作でサー・ジョセフが率いる「白銀騎士団」は人ならざるを存在を狩る存在なのですが、実は前作でのシルバー・ナイツが倒した敵は必ずしも怪異とはいえないものでした。
今作こそゴーストバスターズたる白銀騎士団の本領発揮!となると思ったのですが…
確かに幕間では「人の顔をしたオオコウモリ」を倒していたりシルバーナイツの活動をしていることにはなっているのですが、本作品のメインとなる事件はファンタジー色は薄い(正確にはファンタジー要素はあるがゴーストハントはしていない)。
考えてみるとヴィクトリア朝怪奇冒険譚の方が理不尽な魔物がバリバリ登場する作品だったので、それとバランスを取るためにあえてファンタジーではなくアクションもの的あるいはサスペンス的にしているのかもしれません。
ちなみに各回のサブタイトルは以下のとおり。

  1. 始まりは舞踏会
  2. 日本からの訪問者
  3. 危険な正体
  4. ゴースト
  5. 伯爵家の呪い
  6. 謎の日本庭園
  7. 囚われの少年
  8. 秘められた恋
  9. 結界
  10. 守るべきもの

誰に訴求する作品?

ただアクションあるいはサスペンス的にした結果、作品のジャンルがあいまいになった側面は否めません。
正直、アクションものほどワクワクする展開が続くわけではなく、サスペンス作品ほどドキドキする展開が続くわけでもない。
もちろんホラーものというほど怖くもなく、ファンタジーというほど意表を突かれる要素もない。
なんとなく始まった事件が予定調和に終わってしまった。それが正直な感想です。
これはどういうジャンルを期待している人に向けた作品なのだろう?

田中節も不発

レギュラーの登場人物は主役のサー・ジョセフ(演:相葉裕樹さん)、従者その1・中国人の李(演:原田優一さん)、従者その2・インド人のゴーシュ(演:神農直隆さん)、そしてメイドのアイルランド人アニー(演:瑞生桜子さん)で、この辺のバラバラな人種構成と社会矛盾が渦巻く20世紀初頭のイギリスという舞台背景が絡み合って進むのが本作品の特徴ではあります(日本人の登場も人種差別にからめるという意味はあった)。
ただこの辺の問題提起もとってつけたような感じを受けざるを得ず、風刺色は強くない。
田中芳樹さんの初期作品では、ヤン・ウェンリー(銀河英雄伝説)、竜堂始(創竜伝)、ナルサス(アルスラーン戦記)といった主要登場人物たちが吐く、社会批判に近い皮肉に満ちた警句が魅力なわけですが、そうした水準には至ってはいません。
まあそもそも田中さん原作ではないのですが。

4人のメインキャラクターと出演者

結局、出演者目当ての方にしか訴求しない作品になっている気がします。
確かに主演の5人を演じた役者さんはそれぞれ魅力的。
まず相葉さんは声に特徴がありとても聞きやすくオーディオドラマ向きです。
FMシアター「ボブガール、チャリボーイ」、青春アドベンチャー「雨のスケッチブック」などにも出演されていますが、やはり本シリーズは「悠久のアンダルス」のような外連味のある作品に映えます。
そして原田優一さんと神農直隆さんは明らかに役にあわせた声を出し、それっぽい演技をされているのが印象的。
番組終わりの出演者の自己紹介の時と口調は明らかに違います。
作品中では原田さんというより「李」、神農さんというより「ゴーシュ」なのです。
主人に対していつも辛辣で8割方は粗略に扱いつつも、2割程度はきちんと愛情をもって接しているあたり良く表現していると思います。

魅力的なゲストキャラがいない

ただ特にシリーズものが輝くのは、メインキャラだけではだめで、ゲストキャラを輝かせる魅力な出演者が不可欠。
例えば、ぱっとしないシリーズの中で目の覚めるような演技をみせてくれた「髑髏城の花嫁」の中川晃教さん。
シリーズの他の出演者とは明らかに異質な存在感でこの1作だけ違う雰囲気の作品にした「白狐魔記 天草の霧」の緒方恵美さん。
実際のルックスとは大違い(失礼!)なイケボで度肝を抜いた「BANANA・FISHパート2」以降の古田新太さん。
本作でも川口竜也さんなどミュージカル界の大物が配されているのですが、いまいち機能していなかったのが残念です。

やはり初期作品を

とはいえこれを脚本のせいにするのもどうかと思います。
正直、設定というか原作にそれほど力がない気がします。
やはりこちらでもマヴァール年代記を推していますが、田中芳樹作品をやるならば初期作品を!
原案でやるなら「七都市物語」なんかも面白いと思います。ただしある程度ちゃんと戦争を書ける脚本家さんにお願いすることが前提ですが。


【田中芳樹原作・原案の他の作品】
青春アドベンチャーでシリーズが3つもオーディオドラマ化されているのはこの人だけ!
田中芳樹さんの関連の記事の一覧は以下のとおりです。

青春アドベンチャー系列の番組における田中芳樹さん原作・原案作品などの記事一覧
1988年アドベンチャーロードで「西風の戦記 ゼピュロシアサーガ」がラジオドラマ化されて以降、多くの作品が多くのディレクターの手でNHKにてオーディオドラマ化されてきた小説家・田中芳樹さん。その関連記事の一覧がこちらです。

【パクス・ブリタニカの時代を舞台にした作品】
大英帝国の最盛期である19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした作品を整理しました。
ヴィクトリア朝から第1次世界大戦の勃発するジョージ5世時代まで。
あの作品とこの作品の設定年代の順番は?こちらをご覧ください。


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