白銀騎士団 シルバー・ナイツ 原作:田中芳樹(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 白銀騎士団 シルバー・ナイツ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 2022年11月7日~11月18日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 田中芳樹
  • 脚色 : 菊地百恵
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 相葉裕樹

1905年冬。
衰退期に入りつつあった大英帝国の首都ロンドンでは、夜ごと得体のしれない怪物が跋扈していた。
貴族社会の末端に属する準男爵サー・ジョセフ・アーネスト・フィッツシモンズは、異国人の従者とともに、人ならざる怪物に立ち向かう裏稼業に従事している。
今回の依頼人は南アフリカから来たサー・グレゴリー・ケントという人種差別主義者。
彼と家族は、“幽霊”と呼ばれるボーア人の黒魔術師から生命を狙われているというのだが…



田中芳樹さんは「銀河英雄伝説」、「アルスラーン戦記」などで有名な作家で、NHK-FMのオーディオドラマの歴史でも非常に多くの作品が原作として採用されています。
本作品「白銀騎士団 シルバー・ナイツ」は、「アルスラーン戦記」が2005年に再開される際に発刊された週刊宝石の別冊に掲載された短編をベースとして、2022年に発刊された単行本が原作です(この辺の詳しい経緯は外部サイトをご参照ください)。

最近の原作?

大傑作「銀河英雄伝説」を始めとして田中さんは初期の作品に良作が多いのは否定できないところだと思います。
NHK-FMでラジオドラマ化された作品についても「西風の戦記」(1988年)、「カルパチア綺想曲」(1994年)、「夏の魔術」(1997年)などは良作でした。
今回の原作は2005年と2022年という微妙な時点。
どうでしょうか。

登場しません

舞台は20世紀初頭のイギリス・ロンドン、テーマは怪物退治。
…と聞くと青春アドベンチャーファンであれば気になるのが同じ田中芳樹さん原作のヴィクトリア朝怪奇冒険譚との関係でしょう。
ニーダムやメープルが再登場するかもと期待した方がいらっしゃるかもしれませんが、時系列的にはこの作品はヴィクトリア朝怪奇冒険譚の概ね50年後であり登場しません。
…50年。ギリギリ登場できないこともないですね、メープルでもおばあちゃんになっちゃうけど…
???そういえば、直接、作品に登場しないけどフィッツシモンズ家の最高権力者は大叔母さまらしいのですが、まさかね。

設定年代が近い作品

まあ、それを言いだしたらきりがないですね。
「カルパチア綺想曲」の舞台も本作品の17年前ですのでジョーやジェラードが登場してもおかしくない。
というかそもそも青春アドベンチャーではこの時代の英国を舞台にした作品が数多く放送されています。
一番、設定年代が近いのは1906年を舞台にしたエセル・リナ・ホワイト原作のサスペンス作品「らせん階段」。
当時のイギリスは産業革命で得た力をもとに世界帝国を築き上げ、従来のヨーロッパ的な価値観から外れた多くの文物が流入していました。
つまり科学文明とエキゾチックな文化、理性と迷信が混在していた時代であり、冒険の舞台として最適なのかもしれません。
貧富の格差の拡大が著しい時代であったことを踏まえれば教訓的な話も作りやすいともいえます。
この辺の作品群の時系列的な関係は別記事にて整理しています。

主人公はプロ

さて、同じ怪異に立ち向かう主人公達でも、ヴィクトリア朝怪奇冒険譚ではあくまで巻き込まれた素人なのに対し、本作品ではプロの怪異ハンター。
グチが多いヘタレな準男爵サー・ジョセフもいざという時には果断な判断力を見せますし、その従者、中国人の李とインド人のゴーシュも腕自慢。
李を演じる原田優一さん(「輪廻転Payうた絵巻」のター役で弾けていましたね)と、ゴーシュを演じる神農直隆さんの声もその印象を強めています。

でも今回の事件って…

そのため、この3人が怪異をばっさばっさと倒していきます…といいたいところですが、前半はキャラクターや時代背景の紹介的な部分もあり、やや大人しい展開。
そして、後半における騎士団の活動内容も(ネタバレなるので詳しくは書けないのですが)怪異ハンターとはいえない。
どちらかというと私設治安機関…というか桃太郎侍では?
そもそも銀の弾丸はどこに行ってしまったのだろう…
また、主人公サー・ジョセフのキャラクター造形もやや中途半端に感じました。
普段は従者に頭が上がらないヘタレだけでどもいざという時は…というキャラクターはギャップの大きさとヘタレの時の愛嬌や真摯さ重要だと思います。
しかし本作品のサー・ジョセフはこの両方とも不足気味です。

締めは重要

ただ、これらの気になった点も最終回で随分持ち直した印象があります。
怪異より現実の社会問題寄りになったストーリーラインも、ウインストン・チャーチルに仮託された田中芳樹さんらしい辛辣なセリフも含め、悪くない印象でしたし、少しコミカルな締め方もサー・ジョセフの人間味や騎士団のおかしさをよく表していると思います。
サー・ジョセフ、李、ゴーシュそしてアニーの4人だけの騎士団の活躍には続きが期待したくなる楽しさがあると感じました。
…とはいえ個人的にはなんとなく満腹感が足りない感は残りました。
それは石川由依さんの「おじさまっ」がないせいではないかという気もしなくもありませんが、それは言っても仕方がないですよね。

斜陽の英国

さて、本作品で主人公サー・ジョセフを演じているのは「レ・ミゼラブル」などのミュージカルで活躍されている俳優の相葉裕樹さん。
紺碧のアルカディア」に出演された時も声に個性がありオーディオドラマ向きだなと感じましたが、本作では堂々の主演です。
また、世話焼きでちょっと口やかましいヒロインのメープル…じゃなくてアニーを演じるのは瑞生桜子さん。
いままでかなり多くの青春アドベンチャーに出演されていますがヒロインは初めてじゃないかな。
ところでこのアニー、「アイルランドの完全独立と婦人参政権を実現するまでは自分は死なない」と言っているのですが、本作品はこのアイルランド問題のほか、粗筋でもちょっと出てきたボーア戦争、印象的に登場するチャーチルなど、「鷲が舞い降りた」と重なる要素が多いと感じました。
「鷲が舞い降りた」の舞台は本作からさらに40年くらいあとなのですが、同じ問題を引きずっているあたりに、この時期の英国の斜陽を見る思いです。


【田中芳樹原作・原案の他の作品】

※VHA=ヴィクトリア朝怪奇冒険譚


【パクス・ブリタニカの時代を舞台にした作品】
大英帝国の最盛期である19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした作品を整理しました。
ヴィクトリア朝から第1次世界大戦の勃発するジョージ5世時代まで。
あの作品とこの作品の設定年代の順番は?こちらをご覧ください。



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