夜市 原作:恒川光太郎(FMシアター)

格付:AA
  • 作品 : 夜市
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : AA+
  • 分類 : ホラー
  • 初出 : 2015年10月24日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 原作 : 恒川光太郎
  • 脚色 : 原田裕文
  • 音楽 : 菅谷昌弘
  • 演出 : 佐々木正之
  • 主演 : 梅舟惟永

夜市は岬の森にて開かれる。
素晴らしい商品が並ぶことだろう。
夜市には北の風と南の風に乗って多くの商人が現れるからだ。

だから一緒に夜市に行かないか。
夜市ではどんなものでも手に入れることができる。
そう、人間の「才能」であろうとも。人間の「寿命」でさえも。

あれから何年たったのだろう。
あの…夜市で弟を売った、あの日から。
風のにおいと日の光の具合と、影のでき方。
鳥や虫、草花、生き物たちの気配でそれがわかる。
今宵、再びの夜市の夜だ。



NHK-FMは2015年、恒川光太郎さん原作の作品を2作品ラジオドラマにしました。
ひと作品目が、帯ドラマ枠である青春アドベンチャーで6月に放送された「スタープレイヤー」。
そしてもうひとつの作品が12月に単発ドラマ枠であるFMシアターで取り上げられた、この「夜市」です。

評価の高い良作

「スタープレイヤー」も続編のラジオドラマ化が待望される人気作でしたが、この「夜市」は当ブログが2015年に実施したリスナーによる「FMシアター年間人気投票」で堂々の一位を取った作品です。
本作品は第12回日本ホラー小説大賞を受賞した作品でもありますが、受賞やリスナーの評判に偽りのない、谷山浩子的なファンタズムと独特の土俗的な気味の悪さ、そして健全な人間賛歌をあわせもった良作です。

かなり圧縮したストーリー?

しかし、それにしても思うのは、中篇とはいえ小説1冊をラジオドラマにするのに、FMシアターの50分枠は短すぎる。
特に本作品は、人外の存在が行きかい、想像もできないものが売り買いされる別世界「夜市」という特殊な場が舞台。
まず、この世界に入り込むのにどうしても時間が必要で、どうしたって不利です。
実際、本作品も(原作未読のため推測ですが)熊野氏(演:竹志重松収さん)の2度目の夜市訪問はかなり省略されているように感じました。

無駄のない展開

しかし、それらを踏まえても、作品全体の雰囲気づくり、先を聞きたい気にさせる展開の巧妙さなどは聞くに値するレベル。
時間がない中で無理矢理詰め込んだのか、裕司の部屋の荷物が整理済みであることや、野球部の話、バイクで夜市に行くことなど、冒頭の内容がほとんどすべて伏線になってしまっているのはご愛敬ではありますが、逆に言えば無駄のない展開になったともいえると思います。

中川晃教さんはいつも好演

そして訥々と語りかけるような往住裕司(とこずみ・ゆうじ)役の中川晃教さんの演技。
NHK-FMにおける中川さんのベストアクトは「また、桜の国で」のレイだとは思いますが、本作品もなかなかです(当時32歳の中川さんに20歳のフリータの役はやや無理がありはしますが)。
…って、キャストの並び順を見ると、本作品の主演は山室いずみを演じる梅舟惟永(うめふね・ありえい)さんなんですね。
梅舟さんも「金魚姫」でのインパクトは強烈なのですが、本作品では中川さんに比べるとさすがに影が薄いです。

余韻のある締め

あとはオチさえよければ格付けAAAと行きたかったところで、いずみがらみでもう1回どんでん返しがあってよかったようにも感じましたが、現在の形でも、余韻を残しつつ、それなりにきれいに終わっているのは確か。
これはこれでよい終わり方だと思います。


(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2015年のリスナー人気投票で第1位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。



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