夜露姫 原作:みなと菫(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 夜露姫
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : 伝奇(日本)
  • 初出 : 2018年6月4日~6月15日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : みなと菫
  • 脚色 : 丸山智
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 美山加恋

時は平安、後三条帝の御代。
優しい父・中納言の庇護のもと晶子姫(あきらこひめ)は毎日を伸び伸びと過ごしていた。
しかし、帝から預かっていた名笛「虚空」を盗まれた父・中納言が心労のために他界したことを契機に、晶子の人生は一変してしまう。
日々の方便に事欠き、屋敷も破れ放題。
その有様は盗賊が空き家と勘違いしてしまうほど。
しかし、どん底の状態で晶子は一念発起。
「虚空」盗難の犯人を見つけ、父の名誉を回復することを決意する。
そのためには手段を選ばないことを覚悟した晶子は、世間から姿を消し、「夜露」(よつゆ)と名前を変え、盗賊団・狭霧丸の一統に加わるのだが。



本ラジオドラマ「夜露姫」は、講談社児童文学新人賞を受賞してデビューした「みなと菫」さんのデビュー作を原作とする作品です。
さすが、畠中恵さんの「しゃばけ」など、ブレイク前の多くの作品を先物買いすることに成功している青春アドベンチャー、未来を見据えた先行投資に余念がありません。
まあ、単なる先物買いに終わってしまい、ブレイクしない作家さんも多いんですけどね…

平安ファンタジー?

さて、本作品は平安時代を舞台とした、一種のファンタジー作品です。
最近は少ないのですが、過去まで遡れば「鬼の橋」、「夢源氏剣祭文」、「風神秘抄」など平安時代を舞台にしたファンタジー作品は、青春アドベンチャーで意外と多く制作されています。
「鬼」や「陰陽道」といった和風ファンタジー要素を取り込みやすい時代なのかもしれません。
といっても、本作品のファンタジー要素は、主人公たちが「隠形の術」を使うことくらいで、これだって体術の一種と解釈することができなくはありません。
また、終盤の大芝居も、個人的には「ついに『幻術』的なファンタジー要素が出てきたか」と思ったものの、よく聞いていると、ちゃんと種も仕掛けも説明されますので、超常的な要素は本作全体でほとんどなかったといってもよいかも知れません。

ライトな雰囲気

ただ、だからといって、お堅い「歴史もの」という雰囲気が全くないのも本作品の特徴。
主人公の晶子=夜露は、ほとんどコバルト文庫風といってもいい感じの現代っ子で造形されていますし、後三条帝の気さくさや貴族達の立ち居振る舞い・男女関係などはかなり現代的。
作品のテーマはおそらく少女の成長物語であり、社会の矛盾に言及する部分はあるものの、晶子の行動動機が父親の名誉回復というあくまでプライベートなものであることもあり、世の中の変革に関わっていくような歴史もの的なストーリーにはなりません。
また、狭霧丸が夜露を呼ぶ「びっくりお目目」(瞳が大きいこと?)って、当時の基準では美人なのか?などという思いもよぎりますし、聞いていて歴史をなぞっている感は全く受けないのです。
そもそも、貴族の姫君が盗賊になって、忍者のように屋根の上をポンポン飛び回るあたりかなり荒唐無稽。
そんなこんなを踏まえて、本ブログでは「伝奇」に分類してみたのですが、だからといっておどろおどろしい展開があるわけではないので、その辺はご安心を。
基本的には若い女の子を主人公とした健全な成長ストーリーです。

美山加恋さん主演2作目

さて、本作品の主人公は美山加恋さんが演じる晶子と、鯨井康介さんが演じる狭霧丸(さぎりまる)こと橘基忠(たちばなのもとただ)。
美山さんは2017年の「つばき、時跳び」に次いで2度目の青春アドベンチャー主演。
2018年4月からはTVアニメ「アイカツフレンズ!」のメインキャラクター(蝶乃舞花)を演じるなど声優としての経験も増してきた美山さんですが、青春アドベンチャーでも、もはや「蒼のファンファンーレ」の朝倉あきさんと並ぶヒロイン女優になりつつあります。

男性出演陣

一方の鯨井さんは2017年の「帝冠の恋」のプロケシュ少佐が印象的ですが、本作品ではついに準主役を獲得。
本作品の魅力の半分は狭霧丸の魅力といってもいいほどの熱演です。
その他、父・中納言を演じるのはミュージカル俳優の石川禅さん。
石川さんは、当ブログが2016年末に実施した「青春アドベンチャーに出演して欲しい俳優」で2票が入ったのですが、「白狐魔記 元禄の雪」以来の凱旋(?)出演になりました。

最終回はほぼエピローグ

本作品を聴いていて、「盗んだ笛を自宅で堂々と吹いちゃうってどうなのよ」とか「押し入る家の見取り図なんて重要なものを随分とあっさりと入手できたなあ」(忠臣蔵だとそれだけで一幕できるのに)とか「なんで左大臣邸を荒らすと今後は貧者救済事業をしなくてよくなるの?」とか「最初から最後まで隠形の術を使えば見つからないのでは」とか「押し入った後は一切無言なはずなのになぜみんなべらべらとしゃべっているのだろう」とか、色々つまらないシナリオの粗を考えてしまう自分が嫌になってしまうのですが、第9話で最終回といってもいいくらいに話をまとめて、最終回は完全エピローグに使う展開、私は結構好きです。

川田瑠夏さんの音楽と美山加恋さん

なお、本作品の音楽を担当しているのは、「月下花伝 時の橋を駆けて」についで2018年2作品目の担当となる川田瑠夏さん
なぜか美山加恋さん出演作品への参加が多く、イメージが密接に結びついています。
また、本作品は笛(龍笛)がキーアイテムになっており、その部分は横笛奏者の「あかる潤」さんが演奏されています。
公式サイト(外部リンク)によれば、「笛名人の中納言、その娘、チャラ男君な少納言とそれぞれ吹き分け」を意識したとのことです。
改めて聞き返したくなってきました。


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