- 作品 : ほぞ
- 番組 : FMシアター
- 格付 : AA-
- 分類 : 家族
- 初出 : 2020年7月11日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 水城孝敬
- 演出 : 東山充裕
- 主演 : 和田正人
「ほぞ」とは、家具の板と板をつなぐときに作る突起のこと。
「ほぞ」と「ほぞ穴」を上手く作ることができれば釘を使うよりも丈夫な家具が作れる。
夫の基一(きいち)は腕のいい指物師で、職人らしく人間関係に不器用なところもあったけど、ほぞをつくる名人としてお得意さまからの信頼が厚かった。
そんな夫がある時から納期を忘れるようになった。
それだけではなくお得意さまの顔も。
指物の作り方も。
そして妻である私の顔や名前さえも。
落ち込む夫は、指物が作れなければ自分はただの用なしだ、という。
でも私は知っている。彼は少なくとも私にとって用なしではないことを。
評価の高い作品
今回は2020年7月にFMシアターで放送され、同11月に再放送された「ほぞ」を紹介します。
元々本作品は2019年度「創作ラジオドラマ大賞」の佳作作品をラジオドラマ化したものなのですが、こんなに早いタイミングで再放送されたのは令和2年度文化庁芸術祭参加作品に選ばれたから。
さらに言うなら本ブログにて実施した2020年のFMシアター/特集オーディオドラマの人気投票で得票数第1位(「君を探す夏」と同数)、同時に実施した脚本コンクール受賞作(過去6年対象)の人気投票でも第1位となった作品です。
さぞかし良い作品なのだろうと思って聴いてみたのですが…
いいじゃないですか、これ。
エキサイティングな冒険ものを求めている当ブログ管理人ですので、格付けとしては上記くらいが限界ですが、とても感じの良い作品でした(ちょっとアクが少なめですが)。
過激さに頼らない
冒頭の粗筋からわかるとおり、本作品は記憶を失っていく男を描いた作品で(明言されていませんが若年性アルツハイマーかな?)です。
生老病死は人生の大問題ですので、日常を舞台にした作品であるに関わらず、叫んだり暴れたりといったシーンが売りだったり(評価の高い「エンディング・カット」ですらその傾向あり)、あるいは逆に極度の鬱展開になりがちなのですが、本作品は終始控えめ。
このような品がいいけど地味な作品に評価が集まるなんて皆さんなかなかの選択眼です。
病気物って基本的に見る側、聴く側が苦しくなるような展開になりますし、変に嫌味なキャラクターがでてきてそれをさらに加速させる作品まである中、本作品は関係する少数のキャラクターの姿を丁寧に描くだけで終始している。
丁寧な心理描写
特に、主人公・基一と妻・タエの置かれている状況は客観的にみると絶望しかないのですが、そこに希望(決して好転するという意味での希望ではないけど)があると感じられるのがよいところ。
実際50分しかないFMシアターの枠でできることは限られています。
本作品はもちろん大作ではないし、傑作かもよくわかりませんが、描き切らないエンディングや、医事考証・指物考証・風俗考証の設定を含めて、枠の範囲でできることを丁寧にやっていると感じました。
特に指物考証は指物実演とも言っていますので作中の指物の作業音は本物なのだと思います。
優しい声と演技
本作品の視聴後感が悪くないのは主人公2人が基本的にとても優しい「いいひと」だということも大きいと思います。
そして、それに大きな影響を与えていると感じるのが、主演のおふたりの声と演技。
ふたりとも本当に誠実そうなんですよね。
基一を演じた和田正人さんはワタナベエンターテイメントの若手男性男性俳優集団D-BOYSのメンバー。
D-BOYSのメンバー・元メンバーの出演作としては、「ゴー・ゴー!チキンズ」(加治将樹さん、足立理さん、中村昌也さん、山田悠介さん)、「精霊の守り人」(大久保祥太郎さん、ただし子役時代)などを紹介済みです。
和田さんご自身は「ほかの誰でもないアヤコ」にも出演されています。
また、セリフの量から実はこちらが主役と言っても良いくらいのタエを演じたのは伊藤歩さんは当ブログでは初紹介。
多くの映画で評価を受ける女優さんなのですが、放送時40歳なんですね。
タエの設定年齢を考えば年齢相応ではあるのですが、とても若い声に感じました。
(補足)
本作品は、当ブログが実施した2020年リスナーアンケートの得票数1位に輝きました。
詳しくは別記事をご参照ください。
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