神々の山嶺 原作:夢枕獏(特集オーディオドラマ)

格付:AA
  • 作品 : 神々の山嶺
  • 番組 : 特集オーディオドラマ
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 冒険(山岳海洋)
  • 初出 : 1998年4月29日~5月2日
  • 回数 : 全4回(各回40分)
  • 原作 : 夢枕獏
  • 脚色 : 高谷信之
  • 音楽 : 渡辺俊幸
  • 演出 : 江澤俊彦
  • 演出 : 永島敏行

チベットではサガルマータ、ネパールではチョモランマ、そして英語名はエベレスト。
1993年6月、この神々の名前を持つ山の頂を目指した日本の登山隊を待っていたのは、2名の死者をだしたうえので敗退という最悪の結果であった。
登山隊に参加したカメラマン深町誠は、失意の中、それでも支払わなければならない登山の借金の返済のため、カトマンズに残って写真を撮り続けていた。
そして現地人の店先で売られていた、ある古いカメラに気がつく。
それは1924年に、初のエベレスト登頂を目指して帰らなかった名登山家ジョージ・マロリーが、エベレストに持って行ったものと同形式のカメラであった。
それが本物のマロリーのカメラであれば、エベレスト登山史上最大の謎 -マロリーはエベレスト初登頂に成功していたのか- が判明するかもしれない。
興奮してカメラを持ち帰った深町だが、彼の目の前に羽生丈二(はぶ・じょうじ)が現れることによってミステリーは一層深まっていく。
羽生丈二。
かつて日本のトップクライマーでありながら日本山岳界から忽然と姿を消した異端の登山家。
マロリーはエベレストに登頂していたのか、そして、羽生丈二はこのカメラとどういう関係があるのか。
ふたつのミステリーを追う深町の旅が始まった。



夢枕獏さん原作の山岳ミステリーを原作とするラジオドラマです。
夢枕さんといえば伝奇小説や格闘小説などのケレンミのある娯楽小説で有名です。
でも、作家になる前に山小屋で働いていた経験もあるそうで、本格的な山岳冒険小説を書くのもごく自然な流れです。
この「神々の山嶺(いただき)」の原作は、近年の山岳小説の傑作として知られており、写実的な作風で有名な谷口ジローさんの画で漫画化もされています。

良作が多いジャンル

さて、青春アドベンチャー系の番組で、クライミングや登山が重要な要素となる作品としては、既に「脱獄山脈」、「北壁の死闘」、「垂直の記憶」を紹介済みです。
そのほか、ふたりの部屋時代には「ザイルのふたり」なんて作品もあったようですが、残念ながら、私は聴いたことがありませんし、今となっては聴くことはほとんど不可能に近いと思います。

ラジオドラマ以外でも

一方、ラジオドラマ以外のジャンルをみると、まず小説の世界では、本作の原作のほか、古典とも言える井上靖さんの「氷壁」、谷甲州さんの「遙かなり神々の座」、新田次郎さんの「孤高の人」、真保裕一さんの「ホワイト・アウト」など、ちょっと記憶を辿っただけでも多くの名作が思い出されます。
また、漫画についても、最近完結した作品だけを見ても、時代設定を大胆に現在に移した坂本眞一さんの「孤高の人」や、毎回のように人が死ぬのに荒んだ雰囲気がまったくない石塚真一さんの「岳 みんなの山」など、多くの良作が生み出されています。
「垂直の記憶」の記事でも書きましたが、私は全くクライミングの経験がなく、そもそもそんな根性は持ち合わせていないのですが、どういう訳かこのジャンルの作品を鑑賞するのは大好きです。
上に書いたものはどの作品も、胸が熱くなる良作だと思います。
山岳冒険ものを未体験の皆様、是非、聴いてみて(読んでみて)下さい。

登山界の永遠のミステリー

さて、本作品は、冒頭で紹介したふたつのミステリーを解き明かすために、深町が日本とネパールを旅することにより進んでいきます。
途中、回想シーンなどで登山のシーンが挟まりますが、本格的な登山シーンは、第4回の放送を待たなくてはいけません。
深町が、そして羽生が、どのような冒険に臨むのか、全てを超えたふたりがどこに辿り着くのか、それは聴いてのお楽しみと言うことにしましょう。

羽生の心中

ただ、本作品は羽生の偏執的なまでの山への情熱(そこに山があるからではない、オレがここにいるからだ!)と、極限状態で精神的に追い詰められていく様子が、やや原作より弱いと感じました。
羽生の山での精神状態は最後のメモでは描かれていますが、それ以前のシーンでは今ひとつです。
江守さんが執拗に独白するようなシーンがもう少し多くても良かった気がします。
とはいえ、この辺はラジオドラマとしてのボリューム上の限界もあると思いますし、それほど大きなマイナスではありませんでした。

無茶なお願いだが

また、ちょっと残念なのは物語のラスト。
実は、本作品が放送された翌年、何と現実世界においてマロリーの遺体が発見されました(ただしカメラは見つからず)。
それを受けて、原作の文庫版では現実と整合するようにほんの少しだけラストが変更されています。
また漫画版はラストにやや長めのおまけがついたようです。
本作品のラストも良いのですが、その後まで描いている漫画版のラストもなかなかのようです(後日読みました。追記をご参照ください)。
本作品の放送タイミングからはあり得ないのですが、漫画版のラストのバージョンも聴きたいなあと思います。

考えられた出演者

本作品の出演は、主役の深町役が永島敏行さん、そして羽生役が江守徹さんです。
永島敏行さんと江守徹さんですよ!
NHKのこの作品に対する気合いが窺えます。
槍ヶ岳、北岳、富士山等に登山経験のある野村真美さんがヒロインの岸涼子を演じているのも意図的なのかも知れません。

特集オーディオドラマとは

また、気合いと言えばこの作品は放送形態も独特でした。
本作品は「特集オーディオドラマ」と銘打って放送されています。
このような名称が付く場合、通常、本来FMシアターが放送される土曜日の枠を使って(多くの場合は時間を拡大して)放送されるのですが、本作品はそうではありません。
水曜日から土曜日の4日間連続で各40分で放送されているのです。
主として平日の夜に帯ドラマとして放送されている点からいえば、青春アドベンチャーの変形とも考えられます。
実際、実質的に帯ドラマでありながら通常放送用の番組名を使用しなかった作品(「いつか猫になる日まで」や「サラマンダー殲滅」)もたくさんありますし、なかには「アルジャーノンに花束を」のように30分枠で放送された作品もあります。

通常枠にプラスして制作

では青春アドベンチャー系の特番かというとそうでもありません。
実は、本作品が放送されている期間中、青春アドベンチャーもFMシアターを休止されず、並行して放送されていたのです。
4月29日から5月1日の3日間は青春アドベンチャーの「天使のリール」が、5月2日はFMシアターの「野原の小道」が通常どおり放送され、その後の時間帯である23時15分から別にこの作品が放送されていたのです。
今となってはなかなか考えられない充実したラジオドラマの放送ラインナップです。
当時が羨ましいです。

ハードな作品が多いスタッフ?

本作品のスタッフは、脚色が高谷信之さんで、演出が江澤俊彦さんです。
高谷さんと言えば「摩天楼の身代金」、「長く孤独な狙撃」、「サラマンダー殲滅」等のハード作品が多い印象です。
江澤さんも「最後の惑星」、「着陸拒否」、「鬼の橋」、「魔術師」などハードな作品が多いイメージがあります。
本作品はそのおふたりが組むに相応しい作品ではありますが、実はもうひと作品、このおふたりが組んだ作品を見つけてしまいました。
これが何と花井愛子さん原作の「夢の旅」。
花井愛子さんと言えばティーンエイジャー向けの少女小説で有名な方であり、「夢の旅」も、かなりあまーいお話しだった記憶があります。
意外ですね。

さてさて、イモトアヤコさんのマナスル登頂プロジェクトにかこつけて、登山系の作品を2作品連続で紹介しました。
何はともあれ、イモトさんには無事に帰ってきて欲しいものです。



【追記】2014/4/21
谷口ジローさんの手により漫画化された漫画版「神々の山嶺」を読みました。
結論からいうとラジオドラマ版だけではなく、原作小説よりも良いと感じました。
山岳小説はラジオ向き、というのが私の持論ではありますが、谷口さんの絵の圧倒的な描写力には脱帽です。
しかも全5巻でボリュームが十分。
ラジオドラマ版の最大の不満点は登山シーンが少ないことなのですが、漫画版では全5巻をかけて、羽生や長谷、マロリーや深町の登山をげっぷが出るほど入念に書いています。
はっきり言って傑作だと思います。
ただ、原作と異なるラストシーンだけは人によって評価が分かれるかもしれません。

【追記】2016/3/21
「神々の山嶺」が、2016年3月に「エヴェレスト 神々の山嶺」として映画化されました。
出演は、岡田准一さん、阿部寛さんほか。
詳しくはこちらをご覧ください。

【追記】2017/5/3
本年2月11日に谷口ジローさんが亡くなられていたようです。
ご冥福をお祈りいたします。

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