- 作品 : タイムライダーズ
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : タイムトラベル
- 初出 : 2017年4月3日~4月21日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : アレックス・スカロウ
- 脚色 : 小松與志子
- 音楽 : 山本清香
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 吉永拓斗
1912年、沈みゆくタイタニック号Eデッキに老人の声が響き渡る。
「君の命は残り4分。答えろ、生き延びたいか。さあリアム、決断の時だ。私に付いてくるならこの手を掴め。」
2011年、ボストンから西海岸へ向かう旅客機の中で老人はマディに語り掛ける。
「数分後、この旅客機の乗客全員が死ぬ。だが、君だけ生き延びることを選択できる。さあ手を握り給え、早く。」
沈みゆく豪華客船から、墜落する旅客機から、ムンバイの業火の中から、メフィストフェレスに手をひかれて3人の若者が集まった。
彼らの新しい人生の舞台として用意されたのは2001年9月10日。
翌日に起きる「あの事件」があまりに人々の記憶に鮮烈に残ったために、逆に人々の記憶から抜け落ちてしまった、その前日。
本ラジオドラマ「タイムライダーズ」は、イギリスの作家アレックス・スカロウの少年少女向けのタイムトラベルファンタジー?を原作とする作品です。
新シリーズスタートか?
原作小説は、日本語版だけでも「タイムライダーズ」、「タイムライダーズ 紀元前6500万年からの逆襲」、「タイムライダーズ 失われた暗号」の3作品が発表されていますが、母国イギリスでは合計9作品(完結)の長編シリーズなのだそうです。
昨年2016年末に「元禄の雪」で藤井靖さんの「白狐魔記」が完結したのですが、それに代わる真銅健嗣さんの新シリーズの始まり…だったらいいな。
タイムトラベルの魅力がたっぷり
さて、本作品は典型的なタイムトラベルSF、それも主人公たちがいわゆる「タイムパトロール」役になる古典的なSFです。
この種の作品は星の数ほどあるわけで、本作品の2作品前に制作された「つばき、時跳び」もタイムトラベルものでした
しかし、ごく狭い世界を舞台とした「つばき、時跳び」とは異なり、本作品は、有名な事件が再現されるわくわく感、歴史が改変され世界が変わってしまう緊張感、それに時間移動を利用したトリックなどを主体とした王道のタイムトラベルものです。
緊張感のある演出
ただ、シリーズものの第1作という位置づけから、序盤を「タイムライダーズ」結成までのエピソードに割かざるを得ず、本編の冒険は中盤以降となります。
そのためか、冒険の舞台となるのは第2次世界大戦末期と比較的身近であり、スケール感はあまりありません。
ただ逆に身近であるが故の緊張感もあり、タイムパトロールものらしい手に汗握る作品になっています。
演出面でも、小松與志子さんのナレーションが全くない脚本を、セリフと効果音だけでうまく表現していることが印象的です。
外連味たっぷりの演技
セリフについて出色なのは、「タイムライダーズ」を招集する謎の男、冒頭の紹介では「メフィストフェレス」と比ゆ的に表現しましたが、特に序盤はどうにも胡散臭いフォスターを演じる山崎たくみさんの声。
作品中でフォスターの容姿を説明するナレーションは一切ない(フォスター自身が「ただの老人だ」いうのが数少ないヒントでしょうか)のですが、この声だけで十分怪しい雰囲気が伝わってしまいます。
ナレーションが全くない以上、声質やしゃべり方でキャラクターを表現することは必須。
はっきりいってかなり過剰な演技ですが、この作品にはこれくらいでちょうどいいと思います。
塩沢兼人さん、懐かしい…
それにしても山崎さんの声を聴いていてふと思ってしまったのは、「(若くして亡くなられた)塩沢兼人さんに似ているなあ」ということ。
常に似ているわけではないのですが、時々、「すごく気取った声を出しているときの塩沢さん」とよく似た雰囲気の声になります。
調べてみると、山崎たくみさんは塩沢さんの死後、その持ち役の多くを引き継がれた方とか。
NHK-FMはアニメ畑の専業声優さんをあまり使わないのですが、塩沢さんは1980年代から1990年代までずいぶんとNHK-FMに重用されていました。
「妖精作戦」、「サラマンダー殲滅」、「マージナル」、「オルガニスト」などなど懐かしい作品が目白押しです。
山崎たくみさんのお声を聴いていて何だかとても懐かしい気分になってしまいました…
こちらも懐かしい
懐かしいといえば、妙に脱力系のエンディングテーマもちょっと懐かしく感じました。
アドベンチャーロード時代にはこういったちょっと軽い感じのエンディングテーマが多かったように記憶します。
本編とはちょっと雰囲気が違う曲を掛けることによってクールダウンの効果があったような気がしますね。
特に最終話は、最後の場面から出演者紹介にうまく音楽がつながっておりなかなか印象的でした。
本作品の音楽を担当している山本清香さんがそこまで意識していたかはわかりませんが。
礼儀正しく素直な主人公
さて、出演者の話に戻りますと、その他の出演者さんも、礼儀正しく責任感の強い元客室係リアム・オコナー少年役の吉永拓斗さん(青春アドベンチャー初主演!)、世慣れたプログラマー(趣味はハッキング)のマディ・ガーター役の占部房子さん(泥の子と狭い家の物語、ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂなど)などキャラクターの色分けが見事。
特にまっすぐな性格で仲間思いでもあるリアムが主人公であることが、吉永さんの素直な声と相まって、この作品をとても気持ちの良いものにしていると思います。
女性陣は次作に期待
強いて言えば、マディ役の占部さんと、インド人少女(2026年出身)サリーナ・ビクラムを演じる磯部莉菜子さん(「マドモアゼル・モーツァルト」や「あでやかな落日」の磯部勉さんの娘さんとのこと!)の声としゃべり方にもっとはっきりとした差を付けてよかったような気はします。
ただ、残念ながらこの「タイムライダーズ」の3人の中では、「実行役」のリアムと、「留守番役」の他のふたりとの間には出番にかなりの差がありました。
キャラ付がはっきりしてくるのは第2作目以降なのかも知れないと思うと、次作を期待してしまいます。
おじさんこそ本作品の魅力
そして、マディとサリーナがいまひとつ印象が強くないのと対照的に、本作品で存在感が強いのは様々なオジサマ方。
先ほど述べたフォスターがまずそうなのですが、他にも、「ベルリンの秋」のシュタイナーや「封神演義」の聞仲が懐かしい大友龍三郎さんが演じた「支援ロボット・ボブ」が準主役といってもよい活躍だったことは「肯定」せざるえをえないところでしょう(笑)。
そのほか、これもおじさんである敵役コンビ、石橋徹郎さん(「晴れたらいいね」の佐治軍医、「獅子の城塞」の次郎左)が演じたクレイマー博士と、信太昌之さん(「笑う20世紀part3」主演)が演じたカールのドラマも本作品のもうひとつの聴き所といってもよいと思います。
そういえば、実在の人物であるアドルフ・ヒットラーを演じた酒向芳さんも、「闇の守り人」のジグロ役で印象的な方でした。
この方面ではずいぶんと豪華な配役です。
結局、タイムライダーズって?
それにしても全15話を聴き終わって残った最大の謎は、そもそも「タイムライダーズ」とは何なのかということ。
作中ではスポンサーや設立経緯などは全く明かされませんでした。
役割の重要さから言って、国家規模、あるいはそれ以上(全人類規模)のバックはあってもおかしくない割には小規模な?組織。
この辺は第2作目を聴けば明かされるのでしょうか。
やはりこれは2作目に期待せざるを得ないところです(追記参照)。
NHKらしい、終戦記念日前後に放送された「戦争を考える」系統の青春アドベンチャー作品の一覧はこちらです。
(2018年12月5日追記)
本作品の続編「タイムライダーズ 紀元前6500万年からの逆襲」の放送が発表されました。
放送日は2019年1月7日から同1月18日。
放送回数は本作品より5回少ない全10回です。
楽しみです。
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