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静かな生活 作:今井雅子(FMシアター)

  • 作品 : 静かな生活
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : B+
  • 分類 : 日常
  • 初出 : 2015年8月1日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 今井雅子
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 植村宏司

ようやく手に入れた静かな生活。
新しく引っ越してきたマンションは、1階の保育園から園児の声が聞こるものの、ヘッドホンをして翻訳の仕事に集中していれば全く気にならない。
少なくとも以前、勤めていた会社に比べればノーストレスと言っていい。
入居早々、管理組合の理事長を引き受けざるをえなかったのは誤算だったけど、マンションの住人はいい人ばかりなので問題ない…はず。
問題ない?
いや、実際は問題、大アリだ。
それというのも、隣室の駒元(こまもと)なるおばあさんが「保育園の音がうるさい」、「保育園を追い出せ」、「理事長は住民の静かな生活を守る義務がある」などと大騒ぎを始めたのだ。
「駒元さん、あんたが一番うるさいよ!」などと言えたらどんなにいいだろう。
そんなこと、気の小さい自分に言えるわけがない。
ああ、考えただけで、胸が苦しくなってきた…


本作品「静かな生活」は、コピーライター出身の脚本家・今井雅子さんによるオリジナル脚本の作品で、マンションの騒音問題を取り上げたラジオドラマです。
今まで今井さんが関与したNHK-FMラジオドラマはこちら(外部リンク:ご本人のブログ)のとおり、青春アドベンチャーで3作品、FMシアターで6作品あります(2009年の札幌局の「友子とモコ」は別人?)。
個人的には、青春アドベンチャーでは希少なミュージカル風の作品だった「走れ歌鉄!」が印象的ですが、原作付き作品を「脚色」することが多い青春アドベンチャーより、オリジナル脚本が基本のFMシアターが、やはり今井さんにとっては主戦場なのでしょう。
いずれにしろ「年に一度ラジオドラマを作れたら幸せだねえ」といって頂けるのはラジオドラマファンとしては嬉しい限りです。

待機児童問題

さて、近年、深刻な待機児童問題の解決のため、各自治体とも保育園の増設を進めているわけですが、それにつれ保育園を迷惑施設ととらえるトラブルも急増していることは皆様ご存知のとおりです。
これについて今まで自分の住居の周辺に保育所がなかったこともあり、あまり真剣に考えたことがなく、東京都の環境確保条例が改正されたのが2015年であることも知りませんでした。
そもそも「声」を騒音ととらえるかは、多分に属人的あるいは文化的な側面もあり、一概に規制の対象から外せば良い、あるいは規制すれば良い、という単純なものではないのだと思います。

何となく釈然としない・その1

本作品においても、保育園排除を主張する駒元さんの発言には、彼女の人生経験に基づく理由があるわけで、駒元さんは一方的な悪者には描かれていません。
ただし、個人的にはこの駒元さんの主張にはあまり共感することはできませんでした。
正直なところ、冒頭の粗筋にも書いたとおり「駒元さん、あんたが一番うるさいよ!」(作品中では大学教授の**の発言)というのがベタな感想。
最終的に、何だか妙にいい人とされて終わった駒元さんの扱いについて納得できなさが残りました。
それにしても良くも悪くもこれだけ駒元さんが印象に残るのは、「東の国よ!」でもそうでしたが、松金よね子さんのキンキン声のインパクトあればこそでしょう。

何となく釈然としない・その2

…などと長々と駒元さんの主張について書いてしまいましたが、実は本作品は待機児童問題そのものがテーマとなっているわけではなく、保育園問題を通して自分の人生に向き合い、他人との関わりに一歩踏み出していくという主人公の成長こそがテーマなのだと思います。
その面では、最初は気弱ですぐ過呼吸になる有村康平(演:植村宏司さん)が、なけなしの勇気を振り絞り一歩進んでいく様はなかなか聞き応えがありました。
ただ、康平の行動にケチをつけるつもりはないのですが、そもそもこういう状態の人は「不動産を買う」という選択をしてはいけないよなあ、と思わざる得ません。
ついでにいえば、きちんと避妊もした方がよいと思います。
という訳で、登場人物たちの行動にここでも何となく釈然としないところは残りました。

大林隆介さんに注目

そのほかの出演者は、岡田達也さん、大林隆介さん、岡田さつきさん、秋山エリサさん、酒巻誉洋さんといったところ。
このうち大林隆介さんは個人的には「機動警察パトレイバー」の後藤警部補が印象的なのですが、本作品始め多く出演されているNHK-FMのラジオドラマ(「本覚坊遺文」、「さくら、ねこ、でんしゃ」、「海に降る」「シュレミールと小さな潜水艦」などなど)では、それとは全くわかりませんでした。
演技の幅の広さ故だと思いますが、素直に後藤警部補みたいな役も聞いてみたい気がします。
さて、大林さんついでに最後にもう一言だけ。
本作品とは全然関係ないのですが、TVアニメ版「恋は雨上がりのように」の近藤正己役は大林さんが良かったと思うのは私だけでしょうかねえ。


本作品は当ブログが2015年に実施したFMシアター人気投票で第3位でした。
このアンケートの結果をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。





Hirokazu

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