- 作品 : 迷走
- 番組 : FMシアター
- 格付 : A+
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 2015年1月24日
- 回数 : 全1回(50分)
- 原作 : 長岡弘樹
- 脚色 : 長岡弘樹
- 演出 : 倉崎憲
- 主演 : 市原隼人
患者を乗せサイレンを鳴らしながら、病院の周囲をひたすら周回する救急車。
まさに迷走だ。
一体、室伏隊長は何を考えているのだ。
確かにこの患者は、隊長にとっても、自分にとっても因縁浅からぬ相手ではある。
隊長の娘 -自分の婚約者でもある- を一生車いすの生活にしてしまった男。
如何に仕事とは言え、寄りにもよってこの男を助けなければいけないことに色々思うところがあったとしてもおかしくない。
しかし、それにしてもこの行動は意味がわからない。
いや、そもそも室伏隊長は、仕事に対してひたすら一徹な人間だったはずだ。
恨みのある相手だからといって、仕事を復讐の手段にするような人間ではなかったはずなのだが…
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ミステリー作家・長岡弘樹さんの同名の短編小説を、長岡さん自らが脚本化したのが、このラジオドラマ「迷走」です。
長坂さんは山形県出身・山形県在住(本作品はNHK山形局製作です)の作家さんで、代表作は2014年の「このミステリーがすごい!」で第2位を取った「教場」でしょうか。
ちなみに本作品は短編集「傍聞き」(かたえぎき)に掲載されている短編を原作としています。
FMシアターでは珍しいサスペンス
さて、本作品は純文色の強いFMシアターでは珍しい、サスペンス調の娯楽作品です。
経過時間で見ると救急車が患者を搬送するわずかな時間がそのほとんどであり、舞台は救急車の中に終始します。
登場人物も、その救急車に同乗する、患者、救急隊員、すなわち隊長の室伏、隊員で室伏の義理の息子(予定)の蓮川、運転手の長野を中心に、救助電話の要請先である増原医師を加えた5人だけで、ほとんどの物語は進行します。
室伏隊長の選択した「迷走」にどのような意味があるのか、それを書いてしまうと本作品のミステリー要素はほとんどネタバレになってしまうため、書けないのが残念ですが、音のドップラー効果を交えた演出はラジオドラマならではであり、緊迫感のある展開でした。
ミステリー色もある
また、序盤に紹介される室伏隊長の昔のエピソード、例の病院に応援の医者が来ていたという情報などが、ちゃんと前ふりになっているのはさすが本職のミステリー作家の脚本だと思います。
ただ、本作品、基本的には蓮川視点で、室伏隊長の気持ちがわかない体裁で作られているのですが、個人的にはもっと室伏隊長のどろどろとした感情を描いて欲しかった。
というのも、それがないことにより、結局室伏隊長は人を傷つけることはないのだろうという、悪い意味でので安心感が強く感じられ、それが少し本作品から緊張感を失わせたような気がします。
事実は小説よりも…
また、肝心の迷走の理由が、聞いているうちに何となく想像できてしまうのが少し残念なところ。
やっぱり作り事の限界だなあ、と思いながら聞いていたのですが、作中指摘されていることが正しいのであれば、この作品のキーとなっているできごとは現実にも起こったことがあるようです。
これについては、事実は小説よりも奇なりということなのでしょう。
市原隼人さん主演作
さて、本作品を語る上で外せないのが出演者。
主役の救急隊員・蓮川を演じているのは若手人気俳優の市原隼人さん。
市原さんの来歴はもはやここで述べるまでもないと思いますが、2008年~2009年にかけて放送・上映された「ROOKIES」が有名ですね。
本作品は市原さんのラジオドラマ初出演作品なのだそうです。
本作品、モノローグも含め市原さんの台詞量がとても多いです。
正直なところ、市原さんの台詞部分の話し方と、ナレーション(モノローグ)部分の話し方にあまり差がなく、少しわかりづらいようには感じました(逆に言うと他の作品の出演者は差をつけていることに今、気が付きました)。
もちろん、演技自体に不満はないのですけどね。
準主演は大地康雄さん
また、もう一人の主役とも言える隊長・室伏を演じているのも、これも言わずと知れた日本を代表する名脇役・大地康雄さん。
室伏は基本的に無口な役なので台詞はそれほど多くないのですが、しゃべるだけで思い出される大地さんの容貌と相まって、頑固な救急隊員が目の前にいるかのようです、
それにしてもこの室伏、責任を自分で取るという覚悟はいいとして、もう少し信用して打ち明けてもらえないと部下としてはたまったものではないなあ、というのも正直な感想です。
本作品は当ブログが2015年に実施したFMシアター人気投票で第3位でした。
このアンケートの結果をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
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