- 作品 : 白狐魔記 洛中の火
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B
- 分類 : 伝奇(日本)
- 初出 : 2015年1月19日~1月30日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 斉藤洋
- 脚色 : 藤井香織
- 音楽 : 日高哲英
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 成河
人間に興味を持ち、仙人のもとで修行をするうちに、様々な力を持つに至った狐、白狐魔丸(しらこま・まる)。
思いもよらない力を発揮して元の大軍を覆滅してしまい、大きな後悔を胸に眠りについた彼が、次に目を覚さましたのは51年後だった。
京の都で聞いたところによると、天皇の反乱という前代未聞の事態こそ幕府によって鎮圧されたものの、天皇のシンパである楠木正成なる人物が、圧倒的な数を誇る幕府軍を繰り返し撃退しているという。
再び戦乱の世が近づいているのだろうか。
人間はお互いに争うことをやめられないのだろうか。
続編が制作されないことも多い
本ラジオドラマ「白狐魔記 洛中の火」を放送したNHK-FMの「青春アドベンチャー」という番組は、1回15分の放送枠で2週間(全10回)程度、すなわち15分×10回で1作品を放送することが通常の番組です。
そして、好評だった場合などには、改めて同程度の枠を使って続編が制作されることがあるのですが、長い原作がある作品でも、多くは1作(合計して2作)程度しか続編は制作されません。
シリーズが継続しなかった例
例えば田中芳樹さん原作の「夏の魔術シリーズ」(4作品)、上橋菜穂子さん原作の「守り人シリーズ」(「精霊の守り人など」など10作品+α)、喜多嶋隆さんの「CFギャングシリーズ」(「CF愚連隊」など19作品)、春江一江さんの「プラハの春」シリーズ(3作品)、折原みとさんの「天使シリーズ」(「夢みるように愛したい」など6作品)などが、3作目の壁に阻まれました。
そもそもシリーズ中、1作品しかラジオドラマ化されなかった作品も多く、「バッテリー」(あさのあつこさん原作)、「新宿鮫」(大沢在昌さん原作)、「ダーク・ウィザード」(寺田憲史さん原作)、「バイオレンスジャック」(永井豪さん原作)など死屍累々の状況です。
ついにシリーズ第3作
そのような中で、この「白狐魔記」は、2015年1月についに第3作目のラジオドラマ化が実現しました。
白狐魔記の原作はまだストックがあるようなので、どこまで続くのか興味津々ですが、それはともかく3作目突入を記念して、当ブログでは、過去の数少ない3作目突入作品(「黒いユニコーン ランドオーヴァーpart3」、「ドラマ古事記~愛憎篇」、「封神演義 第3部 易姓革命」)を紹介しています。
本記事と併せてご覧下さい。
付き合う人間を間違えている
さて、本作品で白狐魔丸が目覚めたのは鎌倉時代末。
そして時代は南北朝動乱期へと移っていきます。
いつの時代でも白狐魔丸は、武士を見ては「何で人間は戦をやめられないんだ~」と嘆くのですが、その割には、なぜか彼は武士ばかりを友人にします。
当時の人間の大半は農民か町人のはずなので、そんなに嘆くなら武士以外と友人になれば良いものを、好奇心に惹かれるまま、権力者にばかり近づいてしまうのが、狐の浅知恵といったところでしょうか。
楠木正成は武士か
そんな彼が、今回友人になる歴史上の有名人物は楠木正成。
源義経(源平の風)に続き、日本史上でも有数の戦上手の登場です。
どうせなら義経、正成と並ぶ、日本史上3本の指に入る戦上手、真田昌幸にも登場してほしいところですが、今後はどうなるのでしょうね。
なお、作品中では彼をちょっと変わり種の武士、といった扱いをしています。
しかし、楠木正成は、皇統に連なる源氏と平家を頂点とする由緒正しい「武士」というよりも、いわゆる「悪党」の系譜に連なる人間のハズであり、十把一絡げに「武士」という概念で扱うのは違和感があります。
ケーン!
それはさておき、出演者について書きますと、まず、主役の白狐魔丸役は前作・前々作と同じ成河(ソンハ)さんが演じています。
正直、成河さんが放つ「ケーン!」という狐の鳴き声のインパクトは強烈で、個人的な感想としては「旅猫リポート」での細見大輔さんの「にゃおーん」に匹敵する気恥ずかしさがあるのですが、3作品目なのでもう慣れました…
本作品では坂本真綾さんの「コーン!」もありますしね。恥ずかしがってもいられません。
渡辺徹さん登場
そして本作品最大のゲストは楠木正成役を演じる渡辺徹さん。
渡辺徹さんといえば、往年の名刑事ドラマ「太陽に吠えろ」のラガー刑事殉職シーンで、死体のお腹がエレベーターの自動扉に当たって開いたり閉じたりしているギャグのような殉職シーンを鮮明に覚えているのですが、本当にそんなシーンだったのでしょうか?私の記憶違い?
このイメージがあまりに鮮明のため、渡辺さんが演じているとどうしても楠木正成が小太りの姿で脳内再生されてしまいます。
何はともあれ、渡辺さんは当時はアイドル的な人気がある方でしたが、もともと新劇出身の舞台俳優さんで、その後も継続して舞台での活動を続けてきたそうです。
アイドル俳優→コメディ俳優、みたいな失礼なイメージしかなかったのですが、地味な活動からバラエティまで活動範囲は広い。
そういえばNHKのドキュメンタリ番組でナレーションもされていますよね。
歴史上の有名人物…ではなく
ただ、本作品での楠木正成の出番は実はそれほど多くなく、俳優・山口馬木也さんが演じる忍び笑いが印象的な忍びの者(駄洒落じゃありませんよ)・大和十蔵(やまと・じゅうぞう)またの名を淵辺義博(ふちべ・よしひろ)が正成以上の主要登場人物になります。
この辺、源義経ではなく佐藤忠信がメインだった「源平の風」、北条時宗は登場すらせず竹崎季長が大活躍した「蒙古の波」と似たような構成です。
雅姫にクローズアップ
そして、本作品では、このふたりの男たち以上に坂本真綾さん演じる雅姫(つねひめ)が出番の多いキャラクターになっています。
本作品の後半にはこの雅姫も「恨み」という負の感情に執着するようになり、本シリーズの基本構図である「白狐魔丸が人間にあきれつつ人間観察を続ける」という基本構図にやや変化がみられるようになります。
総じてみると本作品は白狐魔丸、雅姫、十蔵、楠木正成の4人(性格には2人と2匹)がバランスよく登場する作品です。
そしてそのキャストも、若手俳優、アニメ声優、時代劇中心の中堅俳優、人気のベテラン俳優とバランスが取れているのが、作品を魅力的にしていると思います。
とくに本作で妖狐として大活躍する雅姫を、人気声優の坂本真綾さんが演じているのが、なかなか絶妙な配役です。
雅姫は前作「蒙古の風」が初登場で、この時点ではあまり出番がないためピンと来なかったのですが、本作をにらんだ配役だったのかもしれませんね。
スタッフ紹介
最後にスタッフについて紹介すると、演出は3作続けて担当されている藤井靖さんと、前作「蒙古の風」から引き続き登板の藤井香織さんのコンビ。
また、本シリーズは日高哲英さんのオリジナル音楽が一貫して使用されており、日高さんの音楽だけで、すっと作品世界に入ることができる統一感が魅力の一つです。
そういえば、このシリーズの第1作は全5回と短めの作品だったのですが、この時点から日高さんのオリジナル音楽が付いていたわけで、最初からシリーズ化を目論んでいたのだと思われます。
【白狐魔記シリーズ】
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