紫色の時差 原作:ユング・ホルツ(ふたりの部屋)

格付:A
  • 作品 : 紫色の時差
  • 番組 : ふたりの部屋
  • 格付 : A-
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 1981年10月26日~10月30日
  • 回数 : 全5回(各回10分)
  • 原作 : ユング・ホルツ
  • 脚色 : 高垣葵
  • 演出 : (不明)
  • 主演 : 山田康雄、田坂都

本作品「紫色の時差」はユング・ホルツさんの小説を原作とする1話10分のショートショートSFラジオドラマで、NHK-FMの「ふたりの部屋」で放送されました。
なお、番組内で作品タイトルを「紫色の時差」と明示することはなく、「SFショートショート集」や「ユング・ホルツ作、『紫色の時差』から『●●』」などと紹介されるのですが、本記事では第1回の掌編のタイトルかつ原作単行本のタイトルから「紫色の時差」を作品タイトルとしました。



15分SFは意外と難しい

さて、原作の小説集のうちこの作品でラジオドラマ化されたのは以下の5篇。
いずれもSF的な小ネタが面白い作品ばかり。
特に第1話が気の利いた話だったので期待したのですが、それ以降はやや期待外れでした。
なおこの5篇の他、「予言企業」、「白いボートとブランデー」、「下北再生園」、「人をくった話」、「かたみ」、「誤算」、「第二のアダム」、「耳たぶの血」、「賭け」、「てがら」、「うつろなる記録」、「キング・オブ・キングス」、「五百億年動く時計」、「ある富豪の話」、「別荘コメット」を含め、原作小説には20篇の作品が納めれているようです。

◇第1夜 「紫色の時差」 (分類:SF(宇宙)、格付:AA-)


ケンタウロス座プロシマ星まで往復1年間の宇宙旅行で地球では10年間が経過してしまう。しかし私は出発前に手を打っていた。


いわゆる「ウラシマ効果」がテーマだが体内時計がずれる理由がよくわからない。男性中心のストーリーなのが難だが「ウラシマ効果」がうまくオチに取り入れられている。

◇第2夜 「遅すぎた流行」 (分類:SF(その他)、格付:B)


第三次世界大戦により絶滅の危機に瀕した人類は人類の量産に乗り出した。その第1号は絶世の美女に生まれ大人気になったが…


人工胎盤で生まれた人類にはアレがない、というワンテーマをドラマ化した作品。発想を驚きにつなげられたかは微妙なところ。

◇第3夜 「紫の山」 (分類:SF(海外)、格付:B)


ニューギニアの奥地に身長4mの巨大原人が生息するという情報が入った。探検隊に指名されたわしは20年ぶりに現地に向かう。


テーマがいまいちわからないし、オチもどう考えればよいか…シソは紫外線で光合成しないよね?

◇第4夜 「人体実験第一号」 (分類:SF(日本)、格付:A)


ついにUGFの純粋結晶の分離に成功した女性研究員。しかし結婚相手に別の同僚を選んだ共同研究者の教授に対して彼女は…


後述のとおり実は本業はバイオ研究者だった原作者らしいテーマだが、オチはバイオSFというよりミステリー的。

◇最終回 「新茶とぞうり虫」 (分類:SF(日本)、格付:B)


注目を浴びたノーベル医学賞授賞式。研究内容は不老不死。登場した85歳の大学教授は確かに30歳そこそこにしか見えない。


これもバイオSFだが、結末はちょっとホラー風味。もう少しSF的な仕掛けが欲しかった。

どこの国の方?

さて、本作品の原作者とされている「ユング・ホルツ」ですが、「ユングホルツ」といえばオーストリアの地方の名称。
観光地としても有名なので人名としては妙だなあと感じる方も多いと思うのですが、実はこれ日本人のペンネームです。
作中では「ある一流企業の副社長」、「医学博士で制癌剤の研究をしている人」と語られ実名は明かされないのですが…
本作品の放送から約40年、今となってはこの程度の情報で検索するだけであっさりご本人の情報が集まってしまいました。

他にも著作あり

キーとなったのは県立秋田高校の同窓会だより。
これによればユング・ホルツ氏の本名は若木重敏氏で、秋田高校卒業後、九州大学農学部及び京都大学理学部を卒業したとのこと。
さらに今度は若木氏のお名前で検索すると、協和発酵工業(現、協和発酵キリン)の元副社長で、2016年に100歳の時に老衰で亡くなられているようです。
このブログスタート時(2012年)にはまだご存命だったんですね。
なお、若木さんの著作としては「2101年 ユング博士のバイオ大予言」、「ニューバイオテクノロジー産業-企業サイドからみたマーケット予測」、「原爆機反転す-広島は実験室だった」、「広島反転爆撃の証明」の4冊が出てきました。
最初の2冊は若木さんの専門分野であるのに対し、後の2つは少し専門外かと思いましたが同一人物です(「広島反転爆撃の証明」の著者紹介で確認)。
海軍時代は広島分遣研究所所長として特殊火薬類の研究に従事し、原爆を体験されたのだそうです。

山田節全開。ほぼルパンだけど。

最後に本作品の出演者について少し。
本作品は基本的に山田康雄さん(ルパン三世)と田坂都さんのふたりがすべての役を演じる作品で、第3話のみ松坂隆子さんが参加されます。
実は山田・田坂コンビの出演は、この作品の直前に放送されたは「男と女の殺人百科」と同じキャストで、作中でも先週に引き続いての出演であること、先週はミステリーだったけど今週はSFであること、などが紹介されています。
その意味で「男と女の殺人百科」と本作品はひとつながりの作品ということもできます。



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