クジラの歌を聴かせてあげる 作:桜田ゆう菜(FMシアター)

格付:A
  • 作品 : クジラの歌を聴かせてあげる
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A+
  • 分類 : 職業
  • 初出 : 2023年3月4日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 桜田ゆう菜
  • 演出 : 堀越未生
  • 主演 : 山﨑夢羽

子どもの頃からのクジラ推し。
クジラの言葉を解明したいという一心で函館海洋大学に入った。
念願かなって4月からはクジラを研究している岡崎教授の研究室に入る予定だ。
…だったのだが、初研究のチャンスは思いがけない形でやってきた。
早朝にかかってきた電話。
研究員の目黒と名乗った女性はいきなり言った。
「今からクジラにあわせてあげる。」
慌てて駆け付けた先にいたのはツチクジラ。
でもこのツチクジラ…死んでる?


淀ちゃん

この記事をアップする4日前の2024年2月19日。
かねてより大阪湾に迷い込んでいた体長約15mのマッコウクジラが死亡していることが確認され、大阪府は埋立地に埋設することを決定しました。
大阪では2023年1月にも大阪湾にマッコウクジラが迷い込み、通称「淀ちゃん」などと呼ばれて騒ぎになりました(主に処理費用の面で)。
これらの件はマッコウクジラという大型のクジラであったこと、大阪湾という地域性から話題となりましたが、実は日本におけるイルカ・クジラ類のストランディング(漂着、座礁、湾への迷い込み)の4分の1は北海道で起きており、その件数は年間100件に昇るそうです。

ストランディング調査?

本作品「クジラの歌を聴かせてあげる」はNHK北海道局制作のオーディオドラマで、クジラのストランディング調査を行う大学生及び大学の研究員を主人公にした作品です。
もともとは本作品のディレクターである堀越未生さんが北海道大学松石研究室の学術研究員である松田純佳さんの著書「クジラのおなかに入ったら」を読んで興味を持ち、松田さんとその後輩である北方生物圏フィールド科学センターの特任助教の黒田実加さんに取材して、「礼文バージンロード」脚本の桜田ゆう菜さんとともに制作したものです。
以下のNHKのホームページにその時の取材記録が載っており、ストランディング調査中の写真なども掲載されています。
絵のないオーディオドラマの補完として必須の内容かもしれません。

(外部サイト)https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n8238d5183a60

モデルとは

ちなみにこの松田さんと黒田さんは北海道大学の以下のホームページではこの作品のモデルとされていますが、実際のお二人は1歳しか離れていないのに対し、本作品の主人公・結城春香(20)と先輩のポスドク・目黒佐智(34)はかなり年齢・経験に差があるので、ここでいう「モデル」はあくまで広い意味での表現だと思います。

(外部サイト)https://www2.fish.hokudai.ac.jp/other/24313/

ポスドク問題

さてここでポスドクと書いたのですが、本作品は実はクジラの生態について深く描く作品ではなく、むしろ研究者を取り巻く環境、研究者の生き様等について描く作品です。
ポスドクとは博士号取得後も大学に残り、任期付きで研究を続ける研究員のこと。
昔であれば博士課程修了後、助手などの定年まで勤められる職に付き、助教授、教授へとキャリアを進めていくことが通常でしたが、最近は期限付きの研究員という不安定な立場で将来への不安を抱えながら研究を続けざるを得ない体制になっていることはご存知の方も多いと思います(いわゆる「ポスドク問題」)。
NHK-FMのオーディオドラマではすでに2013年の「星を掘れ!」で取りあげていますが、本作品もこれを正面から取りあげた作品です。

社会問題とオーディオドラマ

将来ある研究者の処遇がこのように貧しいことはわが国の科学技術の新興、特に人材育成の面で誠に由々しき問題ではあります。
本作品はその一つの出口としてNPO法人による事業化を示してはいますが、それは研究者(あるいはマニア)個人にとってひとつの出口ではあるとしても、社会としてのあるべき姿を模索するという点からは物足りないものではあります。
ただ、いちオーディオドラマにそこまで求めるのは酷です。
本作品はあくまで研究者個人の生きがい、哀感を描くものとして出来がよいので、まずはそれで十分です。
また、リスナーのみなさんがポスドク問題を考える切欠にはなるでしょうし、少なくとも今後クジラの骨格標本を見る目は変わりそうです。

アイドル山﨑夢羽さん

さて、本作品の主人公・結城春香を演じるのはハロー!プロジェクトのアイドルグループ「BEYOOOOONDS」のメンバーである山﨑夢羽(やまざき・ゆはね)さん。
舞台経験は結構あり、映画「あの頃。」に松浦亜弥役として出演したようですが、テレビドラマへの出演経験は少しだけ。
ただ、本作品の春香は割と元気でちょっとエキセントリック(一種のクジラオタク※)なわかり安いキャラクターだということもあり演技経験の少なさを感じさせない気持のよいキャラクターになっています。

※最初の解剖でクジラの内臓をガン見していたり、クジラの折れた肋骨を見て「くじらの生き様が感じられますね」などの発言していたり。

一方、先輩の目黒を演じる瀧内公美さんはすでに多くの受賞歴もある女優さんでとても安心して聴ける演技です。
FMシアターでは2022年の大作「ヘルプマン -俺たちの介護物語-」で熱演されていたのが記憶に新しいところです。


【2023年リスナー人気投票上位作品】
当ブログ主催の2023年FMシアター/特集オーディオドラマ・人気アンケートで、当作品が第1位の得票を得ました(ロゼットの朝、コクハラと同率首位)。
詳しくは別記事をご参照ください。


コメント

  1. きまぐれ より:

    こんにちわ

    この作品、聴きました。このサイトの事は知らなかったので投票はしてないですが、いい作品だと思います。

    ところで、2023年度BKラジオドラマ脚本賞最優秀賞作品「あの子の風鈴」が3月2日に放送されました。さすが最優秀賞だなあと思いました。
    何を思ったか、この作品を聞いた後、子供の貧困の本などを読みました。

    この作品ですが、作者は東京新聞の記者さんだそうです。

    FMシアターは意味不明な作品もありますが、心揺さぶられる作品にも出会えるので、私は細く長く付き合っています。

    今年の投票には参加したいと思います。

    • Hirokazu Hirokazu より:

      きまぐれさま

      コメントありがとうございます。
      FMシアターは基本的にまじめな作品が多いのであわないとなかなか辛い時間を過ごすことになります…
      ただあたりもあるんですよねえ。
      視聴がやめられない所以です。

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