アディオス・ケンタウルス! 原作:若居亘(スペース・ファンタジー)

格付:A
  • 作品 : アディオス・ケンタウルス!
  • 番組 : スペース・ファンタジー
  • 格付 : A-
  • 分類 : SF(宇宙)
  • 初出 : 1986年1月4日・1月5日
  • 回数 : 全2回(各回60分)
  • 原作 : 若居亘
  • 脚色 : 野田英夫
  • 音楽 : マジカル・パワー・マコ
  • 演出 : 千葉守
  • 主演 : 斉藤由貴

2011年4月、オハイオ州シェパード宇宙センター。
日米共同の宇宙空間での天体観測プロジェクト「コペルニクス計画」はついに打ち上げの時を迎えた。
例によってソ連はこの計画を宇宙の軍事利用を促すものと批難。
また、日米クルー間の不協和音を憶測する者もいたが、唯一の日本人クルー「ミッションスペシャリスト」のユキは選ばれたことへの自信と高揚感のただ中にあり、そのようなことはさほどの困難にも当たらないと考えていた。
そう、彼女はまだ知らなかったのだ。
確かに、このミッションがそのような些事など吹き飛ばすような大事件に遭遇することになることを。



「ケンタウルス」(あるいは「ケンタウロス」)とはギリシア神話に登場する、上半身は人間、下半身は馬という怪物です。
正確には個体名ではなく種族名であり、個体としてはヘラクレスやアキレウスといったギリシア神話有数の英雄たちの師匠として知られるケイローンが有名です。
…というわけで、「アディオス・ケンタウルス!」という作品名から、本作品は一見ファンタジーのようにみえるのですが、実際は神話におけるケンタウロスとはほとんど関係なく(接近してくる未確認物体に「ケンタウルス」という名前を付けるだけ)、本作品のジャンルを端的に言うと「ファーストコンタクトもの」のSFです。

ハードSF

ファーストコンタクトものとは、宇宙人との初接触をテーマとした使ったSFで、映画で言えば「未知との遭遇」や「E.T.」などが有名です。
NHK-FMのラジオドラマであれば、古くは「太陽の簒奪者」(2006年)、最近では「UFOはもう来ない」(2017年)がこれに該当します。
本作品はこのファンタジック?な作品タイトルや、当時はまだアイドルとして売っていた斉藤由貴さんが主演で、しかも主題歌を歌っちゃったりしていることもあり、聞いたことがない方にはかなりライトな作品と思われがちですが、聞いてみると意外と硬派なSF作品なのです。

用語もSFぽい

具体的には、打ち上げのシークエンスも本格的ですし、「極軌道」などの専門用語も頻出。
現実世界では4年後の1990年に「ハッブル宇宙天文鏡」(スペースシャトル・ディスカバリーが運搬)が打ち上げられるタイミングであったので、リアリティもあります。
なにより作品冒頭の以下のような登場人物紹介でも明らかです。

  • HLLV「オハイオ号」機長:エドワード・バクビー(演:大林丈史さん)
  • HLLV「オハイオ号」ミッションスペシャリスト:キャサリン・ツバルコブスキー(演:川島なお美さん)
  • 宇宙船「ヘラクルス号」船長:ローレンス・シャーマン大佐(演:石田玄太郎さん)
  • 宇宙船「ヘラクルス号」ペイロードスペシャリスト:ナツメ・アキラ(演:矢島健一さん)
  • 宇宙船「ヘラクルス号」ミッションスペシャリスト:チャールズ・ベンソン(演:田辺宏章さん)
  • 宇宙船「ヘラクルス号」ペイロードスペシャリスト:ユキ(演:斉藤由貴さん)

ちなみに、「HLLV」とは”Heavy Lift Launch Vehicle”の略で重量物打ち上げロケットのこと。
ね?SFぽいでしょう?

原作小説は見当たらない

それにしてもこの企画、一体どのようにしてできたのでしょう?
NHK-FMのラジオドラマは「原作」とされている場合、通常、元となった小説があるのですが、本作品の場合、いくら「アディオス・ケンタウルス!」や原作者の「若居亘」さんで検索しても同名の原作小説らしきものがヒットしません。
若居さんについては、「宇宙開発ジャーナリスト」とか「宇宙開発研究家」なる肩書きが出てくるので小説家ではなく、本作品はラジオのオリジナル企画なのかも知れません。
詳しくはわかりませんが、作中のクレジット上では「音楽」となっているマジカル・パワー・マコさんのプロフィール上では本作品を「企画、音楽」としているので、マジカル・パワー・マコさんを中心に企画されたオリジナル作品なのだと思われます。
考えてみれば、主役の「ユキ」は斉藤由貴さんの「宛て書き」と思われますので、やはりオリジナルなのでしょう。

トップアイドル

そう、本作品の最大の売りの一つがやはり斉藤由貴さんの主演でしょう。
1885年のTVドラマ「スケバン刑事」でトップアイドルへ上り詰めた斉藤さんですが、本作品が放送された1986年1月のわずか3か月後である1986年4月から朝の連続テレビ小説「はね駒」に主演する直前のタイミングでの本作品に出演されたことになります。
この「はね駒」は平均視聴率40%を超える大ヒット作となり、後の「女優・斉藤由貴」の出発点となります。
また、サブヒロイン的位置づけのキャサリンを演じているのは女優の川島なお美さん。
元々女子大生タレントの走りだった方ですが、本作品出演時はやや不遇な時期。
TVドラマ「失楽園」で大ヒットを飛ばし再ブレイクを果たすのは本作から約10年後の1997年、そして54歳の若さで逝去されるのは約30年後の2015年ということになります。
当時、25歳のはずですが、後のセクシー女優のイメージから想像する以上に可愛い声です。

後半はやや残念

本作品、60分×全2回のなかなかの大作なのですが、前半のSF的に丁寧なつくりに対して、後半は大雑把な展開が続くのがやや残念。
宇宙人がなぜか人間と同じ手足2本ずつだったり、各国政府やシャーマン船長の対応があまりにステレオタイプだったり(明らかに科学技術が上の相手に対してあの対応はないだろう…)、何より斉藤由貴さんが劇中歌まで歌ってしまったりして、興ざめな面もあります。
ただ、池田昌子さん(メーテル!)のナレーションなどを含め、楽しい娯楽作品としてそれなりに聞ける作品にはなっています。
ちなみに本作品が好評だったからか、翌1987年の1月にもアイドルだった伊藤つかささんを主演に据えた「ビバ!スペース・カレッジ」が放送されることになります。


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