東アフリカ某国の中央銀行総裁に就任せよ。それは嘘のような本当の話。「ルワンダ中央銀行総裁日記」(服部正也)

ドラマ化希望作品

【特集:ラジオドラマ化推薦作品21】服部正也「ルワンダ中央銀行総裁日記」

NHK-FM青春アドベンチャーでラジオドラマ化されたらいいなあ、という作品を取りあえげていくこのシリーズ。
今回はちょっと変わり種なのですがノンフィクションの「ルワンダ中央銀行総裁日記」をご紹介します。
この本は1972年に発刊したかなり古い本ですが、2009年に増補版が出版されたロングセラー。
2021年3月にNHK総合の「おはBiz」で取り上げられるなど今でも人気のある書籍ですので、ご存じの方も多いと思います。

嘘のような本当のアドベンチャー

内容は、イチ日銀マンに過ぎなかった著者・服部正也さんが、IMF(国際通貨基金)からの派遣でルワンダの中央銀行総裁として過ごした6年間の記録です。
日本銀行職員とはいえ、また極貧の小国とはいえ、いちサラリーマンが突然、独立国の中央銀行総裁に就任したという嘘のような本当の話。まさに「事実は小説よりも奇なり」です。
ただこれって「青春」なの?「アドベンチャー」なの?と思われる方もいらっしゃると思います。

アクションなくてもアドベンチャー

アドベンチャーなんです、実に。
小国とはわかっていたけど辿り着いた首都のあまりの慎ましさまず愕然。
住宅程度の大きさしかない中央銀行の建物に悄然。
ルワンダ経済の貧弱さと国際収支及び政府収支の赤字のすさまじさに呆然。
そして、ルワンダを牛耳る外国人顧問たちのデタラメさに憤然。
しかし、ここまで全てが最悪なら何をやっても今以上に悪くなることはない、思いついたことを順々にやっていけば良いだけ、と切り替えて、「帳簿まで自分でつけている世界でただ一人の中央銀行総裁」である服部さんは猛然と中央銀行の建て直し(実質的には立ち上げ)に取り組んでいきます。

主観的なノンフェクション

その内容がスリリングなのはもちろんなのですが、本作品が青春アドベンチャーに向くと考えたのは、客観的な第三者によるノンフェクションではなくて当事者による報告であること。
筆致は時に感情的になっていきます。
例えばルワンダにただ1行だけの商業銀行から、外貨の持ち高が増えているにもかかわらず外貨の価格も上昇するという不自然な報告を受け、2日考え続けた末に商業銀行が恣意的に通貨の価格を操作している可能性に思い至ったときの表現をそのまま引用しますと…

私は腹が立った。畜生、通貨を玩具にして独占的利益を挙げていやがる。利益のために一国経済のもとである通貨価値を意識的に減価させていることは許せないような気がした。しかしそれにもまして腹が立ったのは、今までこれがわからなかった自分の頭の鈍さ加減であった。

という感じ。

戦う中央銀行総裁

ちなみにこの後、商業銀行の支配人の下に乗り込んで「介入したり規制をしたりするつもりはない」と言いつつ、「このような理由が明らかでない相場の上昇が起ることは、取扱金融機関である商業銀行が独占的利潤を得るために通貨価値をもてあそんでいるとの誤解を招く」とねじ込むシーンなどなかなか爽快です。
その後も大蔵省のベルギー人顧問について「金融のことは勿論、財政のこともろくに知らないヴァンデヴァル風情に中央銀行の仕事をかきまわされてたまるか」と記すなどリアルな感情表現が随所にでてくるのです。

そして青春でもある

また、基本的に強気な服部さんですが、商業銀行とその背後にいるベルギーのランベール銀行との厳しい交渉の中では「はたして自分のとった態度が本当にルワンダのためになったのか、(中略)私は日本人という立場で売言葉に買言葉でルワンダに迷惑をかけたのではないか」などと迷うシーンがあるのもまたリアルです。
冒頭でルワンダの空港に到着したときに戦時中のラバウルの空港を思い出すシーンがありますし、日本人がいるところなら自分だってどこでも生きていけると自負するなど、戦争体験が服部さんの胆力の基礎となっている様に感じます。
しかし、実際の活動では本には書けない苦悩はたくさんあったのだと思います。
確かに服部さんは年齢的には青春ではなかったのかも知れませんが、そういった怒り、戸惑い、苦悩する面を含めてルワンダ時代をきっと自分の青春時代として記憶されていたのではないかと思いました。

ノンフェクションを題材にできるか

ただ、ちょっと気になるのがノンフィクションであることと、ルワンダであること。
青春アドベンチャー系列の番組で過去にノンフィクションを原作とする作品としては「世紀の大冒険レース~アムンゼンとスコット」、「垂直の記憶」、「闘う女。~そんな私のこんな生き方~」、「ふたつの剣」、「1985年のクラッシュ・ギャルズ」など結構、先例はあります。
中にはミステリーの研究本を原作にしてしまった「87分署のキャレラ」の例もあります。
ただ、作中で服部さんが高評価をしているカイバンダ大統領は、経済面はともかく人種政策面では批判もある人物らしく、主観的な「日記」を完全な事実のように放送することには語弊があるかもしれません。
そのため、過去のノンフィクション原作作品がとったように、一部の登場人物を仮名にするなどのやり方はあり得るかもしれません。

客観性?

また、冒頭にイチ日銀マンと書きましたが、服部さんは一高・東大の超エリートですし、日銀マンといえば半ばは役人。
そして、役人でも高級官僚になると政治家的な側面もでてきます。
一般的に政治家の回顧録に100%の信頼性を置くことができないのは当然のことですし、複数の目から記載内容について客観的な批評をしようにも、後述の理由もあり、今となっては1960年代~1970年代のルワンダにおける事績について客観的に分析することはかなり難しいのではないかと思います。

その後のルワンダを知っているだけに…

そう、内容面で特に課題があると思われるのは舞台がルワンダであること。
ご存じのように服部さんが離れた後、ルワンダは中期的に経済発展するものの、カイバンダ大統領は追われ、先鋭化したフツ族により1990年代にルワンダ虐殺が発生し、社会・経済も大打撃を受けることになります。
虐殺前のルワンダ政府(フツ族中心)と強いつながりがあった服部さんの立場も踏まえると、どう総括するのか、なかなかの難題です。
ただ、過去、ODAに絡む汚職をテーマにした「ロロ・ジョングランの歌声」を放送してしまった青春アドベンチャーのこと。
問題提起という側面を含めて、十分にアリな作品だと思います。


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私やリスナーの皆さんが自信を持ってお勧めする作品たち。
小説や漫画など色々な作品があります。
是非ご覧ください。


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