- 作品 : 1985年のクラッシュ・ギャルズ
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA-
- 分類 : スポーツ
- 初出 : 2013年1月7日~1月18日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 柳澤健
- 脚色 : 横田理恵
- 演出 : 一色隆司
- 演出 : 鈴木杏
1985年、後楽園ホール。
フラッシュライトの下、少女たちの喚声と悲鳴が飛び交う中で、長与千種は叫ぶ。
「まだ負けていない!」
バブルへと向かいつつある昭和の日本で、日本中の少女たちを熱狂させたふたりの女子プロレスラーがいた。
長与千種とライオネス飛鳥、タッグ名はクラッシュ・ギャルズ。
全国の少女の夢と羨望を一身に背負い、ライバルたちと闘い、思い通りにならない現実とも闘い続けたふたりの女子プロレスラーの栄光と苦悩の軌跡を追う。
柳澤健さんのノンフェクションを原作としてラジオドラマ化した作品です。
柳澤さんは他にも「1976年のアントニオ猪木」などプロレスをテーマとした複数のノンフェクションを書かれている方のようです。
希少なノンフェクション原作
さて、昔のサウンド夢工房や「ふたり」系列の番組ではエッセイ調の作品が比較的多く取り上げられていましたが、青春アドベンチャーは基本的にはラジオ「ドラマ」(=フィクション)番組であり、特に「アドベンチャー」と名のつく番組でノンフェクションが原作の作品は少数派です。
このブログで過去に取り上げた作品としては「世紀の大冒険レース~アムンゼンとスコット」だけだと思います。
ノンフェクションにスポーツものは多い
ただし、改めて考えてみると、「闘う女。」や「ふたつの剣」といったスポーツ・格闘技・武道に関連した作品にはノンフェクション原作の作品が比較的多い印象があります。
今後、これらの作品を紹介していくために本作から新しい分類ジャンル「スポーツ」をつくってみました。
わかり安いストーリー
さて、本作品の内容ですが、長与千種が上京して女子プロレス団体に入門するところから、1980年代末にふたりが一旦引退するまでの時期について、女性のインタビュアーが現在の長与千種に取材する、という形を模した構成になっています。
ふたりの出会い(起)、レスラーとしての方向性の悩みからクラッシュ・ギャルズの結成(承)、極悪同盟との対決やふたりの間の亀裂(転)、女子プロレスブームの終焉(結)と、起承転結のはっきりしたわかりやすい話です。
知らなくても楽しめる
長与千種の貧しい生活から抜け出すための苦闘、ライオネス飛鳥の理想と現実との間の苦悩、ダンプ松本たち周囲のレスラーとの軋轢、そして女子プロレスラーを商品としか見ていない社長の蠢動など、ひたすら濃い展開が続き、飽きさせません。
私は女子プロレスに全く興味はありませんが、むしろ知らなかったからこそ楽しめる作品だと感じました。
なぜか湿度が違う
ちなみに、青春アドベンチャーには、もう一つ、プロレスを題材にした「ハリーとアキラ」という作品もありますが、こちらは本作品と対照的なドライで明るい話です。
舞台が日本かアメリカかでずいぶん雰囲気が変わるものですね。
若いふたりが主演
出演は主役の長与千種役が女優の鈴木杏さん、ライオネス飛鳥役は佐藤仁美さん。
おふたりとも実際のクラッシュ・ギャルズと比べてかなり若い世代の方です。
特に鈴木さんは1987年生まれですので、何とクラッシュ・ギャルズ活躍当時にようやく生まれた方です。
ちなみにこれは脚本や演出の問題かも知れませんが、ふたりの声質が似てるからか、作品中でどちらが話してるか一瞬、わからなくなってしまう箇所があったことが少し残念でした(私の理解力の問題かもしれませんが)。
注目!おじさんたち
また、本作は女性陣が主役の作品ですが、男性陣の演技も熱い!
社長役の石田太郎さんは青春アドベンチャーでは「有頂天家族」や「三匹のおっさん」でも濃い役を熱演していますが、本作も曲者である社長の役を雰囲気たっぷりに演じています。
また、トレーナー役の金田明夫さんも実に渋い。
普段は会社側の一員として女子プロレスラー達にとりわけ厳しく当たる人物ですが、心の底では格闘技や教え子達を愛していることが伝わってくる演技です。
金田さんが演じる曲者の中年男といえば「ロンリー・ランナー」の熊沢プロデューサー役もなかなかです。
本物のあの方々がご出演!
その他、随所に「本物」が出演しているのも特徴です。
当時、実際に女子プロレスの実況をしていた志生野さんが作品中のすべての試合を実況してくれます。
幼い頃、毎週「びっくり日本新記録」で志生野さんの実況を聞いていた私としてはとても懐かしい思いがしました。
そして、ダンプ松本さんやジャガー横田さんも本人役で出演。
ジャガー横田さんはちょい役ですが、意外とストーリの要所となる部分で出演しています。
一方のダンプ松本さんはクラッシュ達と同期ですので、全編出ずっぱりで主役の二人に続く主要キャストです。
いかにもヒール的に演技をするためからか多少芝居がかり過ぎている印象ですが、さすがにそれを補って余りある本物の迫力があります。
それにしてもどんな気持ちで本人役を演じたのかな…と思ったらこんなの見つけましたよ。
↓(外部リンク:ダンプ松本さんのブログ)
http://blog.livedoor.jp/gokuaku2/archives/52046770.html
本人として出演したダンプ松本さんも納得の作品。
なかなかの感動作です。
追伸
本作の制作経緯は公式のスタッフブログに詳しく語られています。
これによると一色さんはラジオドラマはほぼ始めての演出とのこと。
これは今後が楽しみです。
↓(外部リンク)
http://www9.nhk.or.jp/drama-blog/1360/142491.html
↓(選曲の石原慎介さんのツイートはこちら)
懐かしいなあ。演出の一色氏は大河ドラマや「坂の上の雲」、「精霊の守り人」などを手がける「テレビの人」で、いろいろアプローチが違い、楽しい現場でした https://t.co/CUr4MlCjH6
— 石原慎介 (@absoluteelsewhe) 2017年5月13日
【2013/9/22追記】
本作品で、社長役を演じた石田太郎さんが昨日、急死されたのとの報道がなされました。
本年1月に放送された、この「1985年のクラッシュギャルズ」ではお元気に出演されていたのに。
青春アドベンチャーには本当に多くの作品にご出演された、名バイプレイヤーでした。
ご冥福を祈ります。
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