- 作品 : モンテ・クリスト伯
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : アクション(海外)
- 初出 : 1996年1月15日~2月2日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : アレクサンドル・デュマ
- 脚色 : 高谷信之
- 演出 : 伊藤豊英
- 主演 : 内野聖陽
エドモン・ダンテスが牢獄「イフ城」に収監されて14年が過ぎた。
身に覚えのない罪状で逮捕され、まともな裁判もなくこの絶海の孤島に送り込まれたのが19歳の時。
自らが逮捕された理由も知らず、絶望の未来しか想像できない中で、ただ生き延びるだけの日々だった。
そんなダンテスに、一筋の希望の光が差した。
そう、彼は、自分を陥れた人間の名を知るとともに、脱獄のチャンスをつかんだのだ。
復讐しなければならない、あの3人の男達に。
いわずと知れた、アレクサンドル・デュマ・ペール作の古典的なエンターテイメント小説の傑作を原作とするラジオドラマです。
本作品が放送された1990年代後半期、青春アドベンチャーでは「世界名作シリーズ」と銘打って、本作品のような冒険小説の古典がよくラジオドラマ化されていました。
ちなみにデュマ原作の作品としては「三銃士」も青春アドベンチャー化されています。
多くの作品の元ネタ
さて、この原作は19世紀半ばのフランスで発表された作品ですが、当時のフランスで一世を風靡したのみならず、多くの作家により翻案され、後世のエンターテイメント小説に多くの影響を与えた作品です。
新谷かおるさんの名作漫画「エリア88」もモンテ・クリスト伯をベースにしているそうです。確かに似ている。
青春アドベンチャーでは1994年にジュール・ヴェルヌ原作の「アドリア海の復讐」も放送されていますが、この作品も「モンテ・クリスト伯」の翻案といわれています。
ちなみにヴェルヌはデュマ親子とも懇意だったそうで、青春アドベンチャー版「アドリア海の復讐」でも冒頭でデュマ親子に捧げる旨のナレーションが入ります。
3人のアレクサンドル・デュマ
ところで、今、デュマ親子と書きましたが、この場合の親とは「モンテ・クリスト伯」を書いたアレクサンドル・デュマ・ペールで、子とは「椿姫」を書いたアレクサンドル・デュマ・フィスです。
親子で古典と呼ばれる名作を残していることも凄いですが、実はデュマ・ペールのさらに父親のトマ・アレクサンドル・デュマも、フランス革命期及びナポレオン時代に将軍として名をなした有名な軍人です。
しかもトマ・アレクサンドルは、フランス貴族とカリブの黒人の奴隷女との混血として生を受け、歴史の表舞台を駆け抜けるという数奇な運命を辿った人物です。
トマ・アレクサンドル・デュマに始まる、3人の“アレクサンドル・デュマ”の物語は、佐藤賢一さんの3部作の小説(「黒い悪魔」、「褐色の文豪」、「象牙色の賢者」)に詳しいのですが、正に事実は小説よりも奇なりですね。
復讐するは我にあり
さて、脱線はこの位にして本作品の紹介に戻ります。
本作品のストーリーは、日本でも黒岩涙香さんによる翻案「巌窟王」により超有名です。
そのため詳細は省きますが、脱獄に成功し、ひょんなことから大金を手にしたダンテスが、身分を隠し復讐すべき3人に接近していきます。
長い長いストーリー
一方、復讐の相手である3人、モルセール伯爵(軍隊に入って出世した元恋敵のフェルナン)、ダングラール(会計士から銀行家に転じ男爵)、ヴィルフォール(ダンテスを送検した検事で後に検事総長)が揃いも揃って順調に出世しています。
そのため、ダンテスは慎重に計画を立て「モンテ・クリスト伯」と名乗り、上流社会に食い込んでいきます。
複雑な人間関係、練られた策略、そして復讐を達成するカタストロフィ感など、なるほど受けるよな、と思わせる要素が満載の大作です。
この大作をラジオドラマ化するために、青春アドベンチャーでは通常の10回連続ではなく、全15回連続の長目の枠を用意しました。
全15回ではあるが…
しかし、原作はもともと新聞小説として発表された大河小説です。
本作品は、脚本が良くできており、ダイジェスト的な感覚はあまり受けないものの、15回で納めた結果、描写はやはり淡泊になったと感じざるをえません。
本当は青春アドベンチャー版「封神演義」(15分×20回×3シリーズ)くらいあってもよい大河作品だと思います。
ただし、ラジオドラマの場合、あまりに長いと一気に聴くには負担が大きいので、なかなか難しいところではあります。
勧善懲悪?
なお、ストーリーに関して微妙に納得できないのがダンテスの元婚約者であるメルセデスの処遇。
この作品、基本的に勧善懲悪的で、不正を重ねて良い思いをしてきた悪人は最後に破滅し、途中まで苦労した善人は最後に報われるというストーリーです。
その中で、メルセデスは場合によっては復讐される側であってもおかしくないのに、ダンテスが現れるまでも幸福に過ごし、結末もかなりの緩い扱いです。
デュマは大衆受けをこそ最重要視した人気作家ですので、女性読者を含めてこのストーリーが最も読者受けすると判断したのでしょうが、微妙に納得しがたいです。
私も読めませんでした
本作品における主役であるモンテ・クリスト伯こと、エドモン・ダンテスを演じるのは、元文学座の俳優の内野聖陽さん。
ちなみに内野さんの名前の“聖陽”は、本名及び旧芸名では“まさあき”と読むそうですが、2013年に「読めない人が多かったから」という理由で“せいよう”に変えたそうです。
先物買い
内田さんは今でこそ有名な俳優さんですが、本作品が放送された1996年1月時点ではまだ無名に近い俳優でした。
その後、同年の下期のNHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」に出演する頃から脚光を浴び始め、皆様ご存知のとおり、2007年にはNHK大河ドラマ「風林火山」で主役の山本勘助役を演じられました。
青春アドベンチャースタッフの先物買い勘の鋭さは、原作選択だけでなく、出演者選択にも現れていますね。
内野さんにあっている
本作品は原作が昔の作品ですので、時代がかったやや大げさな台詞が多く、舞台劇のような雰囲気もあります。
そのような雰囲気の作品に舞台出身の内野さんの演技は良く合うと思います。
特に本作品の内野さんは、序盤の若々しい演技と、中盤以降の影のある演技を微妙に変えているように感じられ面白いです。
ちなみに「風林火山」が放送された当時は、青春アドベンチャーは大河ドラマとタイアップし、毎年1月にその年の大河ドラマの舞台にタイムスリップする話を放送するのが恒例でした。
2007年は「タイムスリップ川中島」が制作され、こちらでも当然山本勘助は登場するのですが、演じたのは内野さんではありませんでした。残念。
山像さんに外れなし
一方、ヒロインのメルセデスを演じたのは、内野さんと同じ文学座の山像かおりさん。
青春アドベンチャーでは何と言っても2008年の「ラジオ・キラー」で主役イーラを演じたのが印象的です。
「ラジオ・キラー」以外にも、「着陸拒否」、「封神演義」、「翼はいつまでも」など、山像さんの出演作品には外れがない印象です。
その他、高橋長英さん、勝部演之さんなど渋すぎる出演陣です。
名コンビ
スタッフは脚色:高谷信之さん、演出:伊藤豊英さんのコンビ。
お二方とも1980年代後半から1990年代前半にかけて青春アドベンチャー系列の番組を担当されていましたが、おふたりがコンビを組んだのは「檻」、「アルバイト探偵」など、90年前後が多く、番組が青春アドベンチャーになってからコンビを組んだのは本作品だけのようです。
【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。
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