ミシンの音色を、もう一度 作:清水有生(FMシアター)

格付:A
  • 作品 : ミシンの音色を、もう一度
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2021年12月11日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 清水有生
  • 演出 : 田島薫
  • 主演 : 朝夏まなと

唐津の不動産会社からかかってきた突然の電話は、父の死を伝えるとともに彼の店の片付けの依頼するものだった。
3歳の時に母と一緒に唐津を離れてから30歳の今まで父とは一度も会っていない。全く身内には思えない。
しかし、父に身寄りがないのであれば仕方がない。
幸か不幸か10年勤めたアパレルメーカーを丁度退職したところで時間もあった。
仕方なく赴いた唐津でみどりを待っていたのは、父の遺したミシンと遺品リメイクの仕事。
そして、思いがけない出会いと再会だった。



NHK佐賀放送局開局80周年

本作品「ミシンの音色を、もう一度」はNHK佐賀放送局が開局80周年を記念して制作したオーディオドラマでNHK-FMのFMシアターで放送されました。
佐賀局の記念番組らしく、扱っているテーマは佐賀県(基山町)で実際に行われている遺品リメイク。
そして主役の中村みどりを演じる主演の朝夏まなとさん(元宝塚歌劇団宙組トップスター)も、その母・映子を演じる松尾玲子さんも佐賀県出身です。

遺品かあ…

さて舞台は、遺族の依頼を受けて故人の服やネクタイなどの遺品をバッグや小物にリメイクする洋裁店。
しかも洋裁店の店主はすでに亡く、その店に店主の娘である主人公が店の整理のために訪れるという設定(ちなみに主人公の母はダンナを恨みながらすでに亡くなっている)。
これはもうFMシアターお得意の暗くて地味でマイナスオーラ満載の内向的な話が展開されそうだと思いませんか。
私はそう思いましたし、実際聞いていても中盤まではそういう作品なのだろうと思っていました。

爽やか?

でも中盤を過ぎても不思議といじけた雰囲気にはならないのです。
それは、ひとつひとつの遺品に込められたエピソードが過度に湿っぽくはないことや、作中で起こる不思議な展開にどことなくユーモラスな雰囲気が付与されていることによるのだと思います。
また、主演の朝夏まなとさんは前記のとおり元宝塚の男役で、青春アドベンチャーでは「軽業師タチアナと大帝の娘」や「悠久のアンダルス」といった冒険ものに主演されていることからもわかる通り、外連味のある大きな芝居が得意な方。
いかにも舞台俳優らしい(ある意味、FMシアターらしい)演技をされる周りの役者さんの演技と比較すると、生活感が薄く少し浮いている感も受けるのですが、それがこの作品の軽やかさに良い方向に影響を与えていると感じました。

ファンタジーだけど自然なシナリオ

また、序盤のFMシアター風展開(起・承)からファンタジックな現象の出現(転)への移行が自然で、しかもその現象が仕掛けとなって父母の過去の出来事の解き明かし(結)へも自然につながっていく流れもイイ感じです。
FMシアターらしい重苦しさを期待する方には肩透かしかも知れませんが、終盤の展開は気持ちが良いと思いました。
この辺、ギャラクシー優秀賞受賞、連続テレビ小説「すずらん」・「あぐり」などでも脚本を書いている清水有生さんのお力なのでしょう。
ただまあ個人的には、激甘な終わり方には若干物足りなさも感じました。
私は「故人のネクタイで作ったポーチを結婚式の引き出物で渡されてもなあ」と思ってしまう現実的な人間なので…すみません。

山崎銀之丞さん

さて、本作品の出演者は上で述べたとおりです。
その他では父親の繁をつかこうへい劇団の俳優、山崎銀之丞さんが演じています。
このブログで紹介した作品のうち山崎さんが出演する最も古い作品は1989年放送のアドベンチャーロード「ドラゴン・ジェット・ファイター」なのですが、当時は上京してつかこうへい劇団に入る前。
ラジオのパーソナリティをしながら福岡で自らの劇団「劇団空想天馬」を主催していた頃でした。
また、佐賀局の記念作品らしく、オーディションで選ばれた地元の高校の演劇部・放送部のみなさん(石田みなみさん、上西遥さん、副島葉月さん、福富壮さん)も出演されています。


(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2022年のFMシアターリスナー人気投票で第5位の得票(6票)を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。



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