ベルリンの秋 原作:春江一也(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : ベルリンの秋
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : 恋愛
  • 初出 : 2006年10月2日~10月20日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 原作 : 春江一也
  • 脚色 : 谷登志雄
  • 演出 : 小林武
  • 主演 : 高橋和也

チェコ事件の最中に最愛の女性カテリーナを失い、失意のうちにプラハを去ってから約4年が経過した1973年。
日本の若き外交官・堀江亮介の新しい任地は、東ベルリンと決まった。
命じられた仕事は、新たに設けられることになった、在東ドイツ日本大使館の開設準備。
しかし東ベルリンで待っていたのは新しい仕事だけではなかった。
カテリーナの娘シルビアもまた美しく成長して堀江を待っていたのだった。



本ラジオドラマ「ベルリンの秋」は、同年春に放送された春江一也さん原作の「プラハの春」の続編です。
主人公は前作と同様、高橋和也さんが演じる日本の外交官・堀江亮介。
一方、前作の最後で他界した若村麻由美さんが演じたカテリーナに代わり、その娘のシルビアがヒロインとなります。

ちょっと背徳的…

つまり堀江は前作で恋人だった女性の娘と…
もともと堀江はカテリーナとシルビアのちょうど中間くらいの年齢だったので、それほど不自然なわけではありませんが、でもなんかちょっと…背徳的です。
シルビアは前作にももちろん出演しており、当時の12~14歳のシルビアは後藤果萌さんが演じていた(本作品でも回想シーンなどに後藤さんは出演されています)のですが、本作の大人になったシルビアは女優の高橋かおりさんが演じています。
本作品は基本的に前作と共通のキャストなのですが、シルビアだけは違う訳です。

前作と印象が違う

さて、まず問題なのはこのヒロイン・シルビア。
前作では、母親似の健気で分別もある少女でした。
しかし、その後成長して、容姿については母親そっくりの美人になったものの、どういう訳か性格は随分とわがままに育ってしまっています。
作中でシルビアが祖母に対して「私って悪い娘だよね」というのですが、はっきり言ってその通りです。

釈然としない

母親のカテリーナも意志が強い女性でしたが、意志が強いのとわがままなのは根本的に違います。
シルビアは、強い克己心と思慮深さを併せ持っていたカテリーナとは、かなり違うタイプの女性になっていました。
でも、そんなシルビアにカテリーナの面影を重ねて惚れてしまう亮介。
カテリーナに惚れたのはもちろん美人だったこともあるだろうけど内面も魅力的だったからではないのか、亮介。
結局、顔か、顔なのか…

その他の女性陣も…

また、シルビア以外にもあまり好感を持てない女性が多い。
シルビアの祖母ヘルタ・グレーベも穏やかな老婆と思いきや、シルビアのわがまま菌が感染したかのように、突然、不条理なことを言い出すし、亮介の妻・恵子がこれがまたとても外交官の妻とは思えない、脳内お花畑の女性。
イタリア生まれのファッションデザイナー・ビビアナも、一見親切な女性と思いきや、平然と堀江を地下活動の道具として使うなど、結構、悪質な人物。

堀江自身も…

でも亮介も人のことを言えない人間です。
もともと前作でも亮介は流されるがままの人物でしたが、前作では歴史の流れという抗うすべもない巨大な存在が相手であったため、仕方がないところはありました。
しかし、本作品で亮介が流されるのは周りの人間の思惑。
同じ高橋さんが演じた「赤と黒」の主人公ジュリアンにも似ているのですが、外交官としては致命的に脇が甘く、深くも考えずに、重要な活動に関わることになった挙句「とんでもない計画の一翼を図らずも担ってしまったのだった」って、オイオイ。

日本の外交、大丈夫か?

そして、特にひどいのは女性に流され安いこと。
いくら正常な人間関係をつくるのが難しい東西冷戦下の東側諸国とはいえ、主体性と責任感がなさすぎます。
また、亮介にとって最大の思い出であるはずのカテリーナの最後の言葉まで、終盤には自分の都合の良いように脳内補正してしまう始末。
「赤と黒」のジュリアンも事態をぐちゃぐちゃにしてしまうダメ人間ですが、亮介は受け身一辺倒であり悪い意味で野心がありません。
そんな堀江が終盤、意外と出世してしまうのですが、こんな人間を出世させちゃって日本の外務省は大丈夫なのでしょうか(フィクションですが)。
その他の男性陣をみても、やはり前回から引き続き登場するヒス中佐、じゃなくてヘス中佐はあいかわらず、人格異常としか言えない変質者ですし、どうにもひどい登場人物ばかりです。

シュタイナーすてき

このような中で一服の清涼剤ともいえるのが、シルビアの父親でカテリーナには元夫に当たる秘密警察「シュターゼ」の幹部、ラインハルト・シュタイナー次官。
前作でも元妻であるカテリーナに離婚を突きつけられながら、冷静で粘り強い愛情を示しており、まさに大人の対応でしたが、本作品では、大友龍三郎さんの朗々とした声もあって一層好印象です。
秘密警察の幹部ですので、裏では相当汚いこともしてきたのでしょうが、明らかに社会人としても親としても、そして人間としても本作の登場人物の中で一番まともです。
この作品の良心とすら言えるでしょう。
報われることが少なく気の毒ではありますが。

歴史もの?

さて、それで問題なのは、こんな登場人物たちがどんなストーリーを展開させるのか、です。
前作はこのブログで「歴史時代」系とジャンル区分をしてしまったほど重厚な作品でした。
しかし本作品は良く言ってサスペンス、悪く言うと単なるメロドラマ。
特に中盤くらいまではとにかくドロドロです。

こんな作品ちょっとない

ネットで青春アドベンチャーの感想を読んでいると「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズの中盤以降について「ドロドロで聴く気(読む気)がなくなった」という感想を目にするのですが、はっきりいって本作のドロドロぶりは比較になりません。
確かに、ある意味、こんなドロドロのメロドラマ、青春アドベンチャーではわずかに「赤と黒」が追随するくらいで、他には例がありません。
女性向けの恋愛ものを原作とする「帝冠の恋」なんかよりはるかにドロドロ。
貴重な作品であることは確かです。
特にあんなコテコテの修羅場は青春アドベンチャーではなかなか見られません。

東西冷戦の緊張感?

とにかくそんな感じで万事がグダグダの本作品。
「同じ東西分断をテーマにした作品でも、アクション作品である『A-10奪還チーム出動せよ』や『黄昏のベルリン』の方がシリアスってどういうことだろう」とか、「これはひょっとして良作「プラハの春」にとってはとんだ蛇足だったんじゃないか」などとも思っていたのですが、終盤になってまたちょっと雰囲気が変わりました。

やはり激動の時代ではある

一気に時代が進み1980年代末になるとともに少しずつ「プラハの春」に近い雰囲気に戻っていったのです。
チェルノブイリ原発事故、昭和天皇崩御、天安門事件、そしてベルリンの壁崩壊。
考えてみるととてつもない激動の時代であったものです。
その歴史の重みの前には、ラブロマンスの陳腐さなど小さい話。
ベルリンの壁の崩壊と、亮介たちを待っていた運命の結末はそれなりに感慨深いものであり、やはりこれは続編としてあって良かった作品だと思いました。
ちなみに原作ではさらに続編の「ウィーンの冬」があるらしいのですが、まあ、もう、この辺でヘル・ホリエにはお休みいただいても良いと思います。

林隆三さん出演

おっと、1点忘れていました。
本作品では2014年に亡くなられた俳優の林隆三さんが出演されています。
割と重要な役ではありますが、出演時間はごく短く、顔見せ程度というのが実際のところ。
前作でも津嘉山正種さんがごくわずかだけ出演されていました。
本作品、ドイツ語(キャロリン・サクッマンさんほか)、イタリア語(松田サブリナさん)、ロシア語(イリーナ・藤村さん)にそれぞれ外国語指導が付くなど、真面目なところにもちゃんと力を入れていますが、林隆三さんを出演させるなど、細かいファンサービスがあるところも嬉しいところですね。

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コメント

  1. コン より:

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    Hirokazuさんはこの堀江という人物に対して嫌気が差したみたいですね。確かにこの人は人妻に手を出し、しまいには愛した女の面影が見えるということでその娘にまで手を出してしまいます。卑しいのか純粋なのか分かりませんが、死なれた愛人に未練がましいというのが垣間見えますね。

    「尾行」シーンは緊張感が高まりました。しかし、外交官である堀江も令嬢であるシルビアも何故SPを付けなかったのかのでしょうか。シルビアなんかは前から尾行されていることを知っていたにもかかわらず、そのつけが回ってしまったのか、流産という羽目になります。
    それにしてもヘス中佐の陰湿なところはよかったですね。この人は暗殺者として物語を掻き回す役割をします。何故堀江はこの人物を早く始末しなかったんですかね。外交官の権力を使えばいくらでも駆逐できたはずです。でもこの暗殺シーンがあるからこそスリルがあって物語にのめり込むことができたと思います。

    出演者たちの演技は素晴らしかったものの、主人公の禁断の恋やストーリーの飛躍はよくなかったですね。

  2. Hirokazu より:

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    コン様

    コメントありがとうございます。
    いえ、堀江氏に全然嫌気さしていませんよ。
    極めて人間臭くて良いと思います。
    まあ身近にいると迷惑かもしれませんが。

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