- 作品 : 翼はいつまでも
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : 少年(中高)
- 初出 : 2002年6月3日~6月14日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 川上健一
- 脚色 : 丸尾聡
- 演出 : 松本順
- 主演 : 岩下寛
神山久志。中学2年生、野球部。
意地悪な先輩と高圧的な顧問の教師に玉拾いをさせられる日々。
しかし、そんなつまらない毎日に突然、風穴があいた。
米軍のラジオを聴いていたときにラジオで流れてきた曲。
ビートルズという聞いたことのないバンドの「プリーズ・プリーズ・ミー」。
勇気をだして一歩踏み出そうよ、やりたいようにやろうぜ…
いい青春だったのかどうか。
けれど、目いっぱいの悔いのない青春であったことは間違いないのだ。
いやー青春ですなあ。
まさに「青春」アドベンチャー。
いえね、私の青春にはこんなドラマチックな出来事はありませんでしたけど、やっぱり甘酸っぱくて気恥ずかしく、良いものですな。
ビートルズ+青春
と、冒頭から一人で盛り上がっていますが、今回の記事で取り上げるのは川上健一さん原作の「翼はいつまでも」。
1960年代の中学生を主人公とし、ビートルズの名曲に彩られた青春グラフティです。
作中で特に重要なシーンで使われる曲が、“Please Please Me”(邦題:プリーズ・プリーズ・ミー)と“I Want To Hold Your Hand”(邦題:抱きしめたい )と“All My Loving”(邦題:オール・マイ・ラヴィング)の3曲。
特に“Please Please Me”は本作品を象徴する曲ですが、その他の曲も含めて歌詞の内容がストーリーに反映され、聞かせる話になっているのが本作品の魅力です。
普通の少年の青春
といっても複雑なストーリーや人の生死にかかわるような重要な事件が起こるわけではありません。
また、先生はあくまで頭の固い抑圧者だし、ヒロインは訳アリの美少女であるなど、設定もコテコテ。
主人公だって情けなくもみっともない普通の少年ですし、ビートルズが重要な要素になっているといっても、「青春デンデケデケデケ」のように主人公自らバンドを組むわけでもありません。
でもその普通の少年の青春が十分魅力的なストーリーになっているのです。
若い男性の描き方の違い
ちなみに「情けなくもみっともない」と書きましたが、同じ思春期の少年を主人公とした作品でも、「バッテリー」や「一瞬の風になれ」、「ぼくは勉強ができない」といった女性作家の原作作品と、本作品や「家族ホテル」、「フルネルソン」、「青春デンデケデケデケ」といった男性作家の原作作品では、どことなく主人公の生々しい存在感に違いがあるような気がします。
女性作家の作品の方が、主人公にどんなにみっともないシーンを演じさせても、どことなく清潔感があるというか、生活感がないというか。
男性作家が書く少女と同じようにどことなく理想化されている気がします。
フィクションとしてどちらがすぐれているという訳ではないのですが、有体に言うと「作品に描かれていない時間に実は毎日○○○○(自主規制中)をしている」感がないというか…
すみません、品のない話で。
スポーツと男女交際
さて、それはともかく、本作品の前半は主に野球部を舞台とした先生たちとの相克と仲間たちとの友情の話、後半は主に十和田湖を舞台とした「不純異性交遊」の話です。
前半では、理不尽で横暴な大人たちが如何にも、といった感じで戯画化されて描かれており、ちょっとやりすぎではないかとも思うのですが、全体としては上手く友情の話に着地しており、聴いていてあまり不快には感じません。
また、後半の「不純異性交遊」ですが、「不純異性交遊」とはいっても所詮は○○までの話ですので、「甘酸っぺー!」という感じの内容です。
そして音楽
なお、ヒロインの斉藤多恵がピアノを弾くので、後半はビートルズとともにいくつかのピアノ曲もクローズアップされます。
特に印象的なのはシューベルトの「エレンの歌 第3番」。
一般的に「アヴェ・マリア」として知られる曲ですが、もともとはウォルター・スコットの名高い叙事詩「湖上の美人(麗人)」に曲付けしたものなのだそうです。
そうか!
十和田湖のシーンにこの曲を使ったのはそういう意味もあったのですな。
「フルネルソン」との比較
なお、青春アドベンチャーには、「高度成長期の少年が主人公」、「主人公はスポーツをしているがスポーツ自体がテーマではない恋あり友情ありの日常生活もの」、「父親が自分の青春時代を振り返って息子と語り合っている形式」と、多くの点でよく似た作品がもう一つあります。
永倉万治さん原作の「フルネルソン」なのですが、正直なところ、個人的に両作品を聴いてみたあとの印象がかなり違います。
ほぼ同じテーマなのに、なぜ本作品「翼はいつまでも」の方により魅力を感じるのか、「音楽の使い方の違いか?」「やっぱりヒロインの差か?」などと思いつつも、よくわかないところではあります。
ちょっとうるっと来る
そういえば、本作品は最後の合唱のシーンの印象が良いのは確かです。
永島敏行さんの歌声のバックで合唱している声に若い声が多く、本編で主人公たちを演じた若い役者さんたちが一緒に歌っているのではないかと思うと感慨深いものがありました。
いずれにしろ、この辺は是非皆様にも両作品を聴き比べてほしいところです。
主演は永島敏行さんだが…
キャストに話を移します。
公式ホームページを見ますと、本作品のキャストは「永島敏行 山像かおり 林次樹 岩下寛 相良藍 北尾亘 後藤健流」という順序で書いてあります。
いうまでもなくこの中では俳優・永島敏行さんの知名度が圧倒的に高いわけで、それもあって最初に書かれているのだと思います。
しかし、永島さんは30年後の主人公(神山)の役であり出演時間はかなり限られています。
山像かおりさんもほぼ同様の状況。
実質的な主役とヒロインは若いふたり
実質的な主役は中学生の神山を演じた岩下寛さんであり、準主役はヒロインの斉藤多恵を演じた相良藍さんであるといって良いと思います。
岩下さんは「穴(HOLES)」や「渚にて」、「ジャガーになった男」など、青春アドベンチャーでは割とおなじみの方でしたが主役はこれ1本かもしれません。
また、相良藍さんについては、現時点で検索しても情報がほとんどでてこないのですが、相良さんの佐藤多恵役の演技こそが、本作品の「甘酸っぺー!」後味に大きな影響を与えていると感じます。
なお、丸尾聡さん脚色作品の恒例のとおり、本作品も丸尾さんがカメオ出演されています。
丸尾さんは「青春アドベンチャーのヒッチコック」ですね。
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