- 作品 : 夢みるゴシック それは怪奇なセレナーデ
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B
- 分類 : 幻想(海外)
- 初出 : 2019年1月21日~1月25日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 木原敏江
- 脚色 : 山谷典子
- 音楽 : 日高哲英
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 石川由依
19世紀初頭の英国。
貴族の生まれながら孤児院の育ちで社交界に馴染めない少女ポーリーンは、唯一の貴族の親友グレイスを突然失った。
なぜ、最愛の恋人との幸せの日々を語っていたグレイスが急死したのか。
不信の念を抱いたポーリーンの前に現れたのは2人の青年貴族。
ひとりは当代きっての人気詩人であるが同時に奔放な女性関係でも知られるバイロン卿。
もうひとりは謎めいた美形の青年トレミー伯爵だった。
「木原敏江さんとは、またすごいところを突いてきたなあ」
本作品のラジオドラマ化の一報を聴いた際の感想はそんな感じでした。
「やおい」とか「JUNE」とか
というのも、私が知っている木原作品といえば「摩利と新吾」なわけで、それも栗本薫さんの著作で知ったのが最初なわけで、木原さんって「そっち」方面が濃厚な方なのではないかと誤解していたからなのです。
青春アドベンチャーは2018年に「カーミラ」であっと驚く「あっち」方向のラジオドラマを制作した前科もありますしね。
ただ改めて調べてみると少女漫画としては当たり前の水準で、特に「そっち」が濃厚なわけではないようです。
本作品も特に男性同士のアレがあるわけではなく、多少耽美な傾向があるとしても普通のリスナーがアレルギーなく聴ける作品だと思いますので、ご安心ください。
どこかで聴いたような感
むしろ気になったのは青春アドベンチャーの他の作品との関連性。
まず、ヴィクトリア朝怪奇冒険譚シリーズ(月蝕島の魔物、髑髏城の花嫁、水晶宮の死神)と雰囲気が良く似ている。
同じ19世紀のイギリスが舞台で時代背景が近い(正確には本作品の方が半世紀ほど昔)ことに加え、本作主演の石川由依さんが演じるポーリーンが、上記シリーズでやはり石川さんが演じたヒロイン・メイプルと被る。
伝説的な「怪物」がでてくるプロットも似ていますしね。
フランケンシュタイン
そして本作品放送の約1か月前に再放送された「フランケンシュタイン」(初出2011年)との内容の類似性。
というか本作品は完全にフランケンシュタイン・リスペクト作品です。
Fさん(演出の藤井靖さんでしょうね)のスタッフブログ(外部リンク)によれば、昨2018年はフランケンシュタインの出版から200年だったそうですので、それを意識した作品選択なのだとは思います。
これらに加えて、主要キャストである、バイロン卿役の藤岡正明さんが「暁のハルモニア」、レディ・ジェラルダイン役の野々すみ花さんが「帝冠の恋」や「カーミラ」といった西欧の歴史ものに最近出演していることも、本作品の「何となく聞いたことがある」感に貢献していると思います。
セリフ回しがまさに少女漫画
という訳で、良くも悪くも安心して聴ける本作品ですが、本作品固有の雰囲気を挙げれば、やはり少女漫画ぽいところでしょう。
「つやつやビロード尾羽の大ガラス」とかいう表現からしてすでに少女漫画チックですが、孤児院で育った(でも実は血統は悪くない)元気な少女が、特に際立った個性や能力があるわけでもないのに、遊び人の貴族さまの歓心を買って面倒を見てもらうあたり、少女の妄想が爆発している設定と言っても過言ではないでしょう。
まあ、ヴィクトリア朝怪奇冒険譚が、ある種、おじさんの願望が爆発した人間関係が軸にあることも、気恥ずかしさという面では同種ではありますが。
万人受け
ただ、藤井靖さんの演出や作品全体を包み込む日高哲英さん編曲のクラシック(ショパンの夜想曲第10番、シベリウスの悲しきワルツ)などが上品な雰囲気を醸し出しており、少女漫画チックなあざとさはあまり感じない万人受けする作品になっています。
ただ上品な分、全般に薄味になった感も否めず、どうせならもっとコテコテでアクの強いの少女漫画チックな演出にしてもよかったのかなとも思いました。
数少ない石川由依さん主演作
さて出演者に話を移しますと、主役のポーリーンを演じたのは女優・声優の石川由依さん。
朝倉あきさんや美山加恋さんとともに最近の青春アドベンチャーでは重用されている方です。
「放課後はミステリーとともに」や「風の向こうへ駆け抜けろ」など主演作が多い朝倉あきさんと比較すると、多くの作品に出演している割には主役ではなくヒロイン役が多い印象ですが、本作品は「砂漠の歌姫」以来久しぶりの主役です。
藤岡正明さんの今後に期待
一方、主人公の相手方のバイロン卿(かの有名な詩人のバイロンです。)を演じたのは俳優の藤岡正明さん。
青春アドベンチャーでは2018年の「暁のハルモニア」へ出演されましたが、2018年の人気投票で見られたファンの皆様の団結力が印象的でした。
本作品のバイロン卿はかなり気取ったキャラクターで「暁のハルモニア」のイザークとはかなり違います。
いずれのキャラクターも巧みに演じているとは思いますが、何となくですがまだポテンシャルを全開にしていないというか、藤岡さんにぴったりあった役、ベストアクトはこれから先に眠っているようにも感じます。
2019/5/7追記
本作放送からわずか4カ月後の2019年4月に続編の「夢みるゴシック それは常世のレクイエム」が放送されました。
コメント
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石川由依さんというと、やはりメイプルの印象が強いですね。しかも今回は舞台設定が近いので尚更。
漫画原作とフランケンシュタインの組み合わせは、じっくり味わおうという世界にはなりませんね。あっさり終わったという感じでした。
ただ、こういう外国設定は好みです。以前、FMシアターでやっていたような海外文学シリーズとか青春アドベンチャーでもやってくれるといいのにな。
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優やん
漫画原作は難しいって、スタッフブログで藤井靖さんご自身が書いていますね。
全く同感です。
この辺のチャレンジ精神は買いたいと思います。
良く知らない国の、聞いたことのない作家の作品も期待したいですね。
私にとっては「カモメに飛ぶことをしえた猫」あたりはそんな感じでした。名古屋局ですけど。