- 作品 : 夢みるゴシック それは常世のレクイエム
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A-
- 分類 : 幻想(海外)
- 初出 : 2019年4月29日~5月3日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 木原敏江
- 脚色 : 山谷典子
- 音楽 : 日高哲英(編曲)
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 石川由依
19世紀初頭のイギリスはロンドン。
レミントン家のポーリーンは孤児院育ちのお転婆令嬢。
そんなポーリーンを、当代きっての色男バイロン卿はブンブンうるさい「クマンバチ」と揶揄しながらも目が離せない。
ある日、ポーリーンにアルパグレンモアの領主、エドレッド・リッズデイルなる男性が近づいてきた。
生気のない黒い瞳と蝋人形に見える青白い美貌、そして赤すぎる唇。
折しも世間では体中の血を抜かれる奇怪な殺人が起きているというが…まさか吸血鬼?
今は中世ではない。
バイロン卿の好むゴシックロマン小説ではあるまいし、蒸気機関車が走ろうというこの時代にそんなことがありえるのだろうか。
本作品「夢みるゴシック それは常世のレクイエム」は、NHK-FMの青春アドベンチャーにて2019年4月末から5月初頭に掛けて(すなわち平成から令和に掛けて)放送されたラジオドラマです。
わずか3カ月での続編放送
前作である「夢みるゴシック それは怪奇なセレナーデ」が放送されたのが2019年1月末ですので、わずか3カ月しか経過しておらず、これは、最近では「源平の風」(2014年7月)から「蒙古の波」(2014年9月)までわずか約2カ月のインターバルで放送された「白狐魔記」シリーズとともに希有な例外です(昔まで遡れば「アルバイト探偵」(1989年)や「赤と黒」(2014年)など例はそれなりにありますが)。
ただし、結局合計6作品が作られた「白狐魔記」シリーズと比較すると、この「夢みるゴシック」シリーズの原作ストックはこの2作だけです。
厳密には、原作にはこのあと「日本編」があるのですが、舞台が全く別らしいので、少なくとも石川由依さんが演じるポーリーンと藤岡正明さんが演じるジョージ・ノエル・ゴードン・バイロン卿に会えるのはこれで最後なのでしょう。
青春アドベンチャー定番の吸血鬼もの
さて、本シリーズ、19世紀はじめのイギリスを舞台とした作品であり、前作では人造人間、今作では吸血鬼を扱っていることから「ゴシックホラー」と銘打たれています。
ちなみに過去、青春アドベンチャーでは吸血鬼伝説を下敷きにした作品が数多く取り上げられています。
まさにその典型とも言えるブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」(1995年)やファニュの「カーミラ」(2018年)のほか、本作品と同じ日本人によるライトな冒険ものである「髑髏城の花嫁」(2013年)、「カルパチア綺想曲」(1994年)、SF作品である「レッドレイン」(1998年)など。
ホラーとは言いづらい
これらの作品は王道のとおり「ホラー」として作られている作品と、あくまで設定や雰囲気だけ吸血鬼要素を取り入れている作品に分けられます。
実は史実のバイロン卿自身が吸血鬼をテーマにした作品を発表しているほか、「吸血鬼」を書いたポリドリ(怪奇の館・欧米編)と交流があるなど吸血鬼とは縁が深い存在なのだそう(参考:外部リンク)ですが、本作品はあまり本格的なホラー作品ではありません。
一応、吸血鬼退治の顛末はホラーものぽくもあり、サスペンスぽくもあるのですが、なぜ吸血鬼に聖水に浸した杭が効かないのか(あるいは効くようになるのか)などわかったようなわからないような理屈ですし、そんなことより何より「これといった特技のない少女(でも実は結構美少女)が、情熱的かつクールな社交界の寵児に一方的に言い寄られる」というあたりの、少女の夢全開の展開がもたらす少女漫画ぽさの方が遙かに作品全体の雰囲気に影響を与えています。
両脇役の存在感
ただ、そうはいいつつも、本作品は音だけのメディアであるラジオドラマとしては意外と格調高く良い雰囲気の作品に仕上がっています。
その最大の要因は、やはりエドレッド・リッズデイル卿を演じた鈴木幸二さんと、モーヴ女王を演じた野々すみ花さんの存在感だと思います。
野々さんは前作にも出演されていたのですが、前作や「雨にもまけず粗茶一服」、「カーミラ」のような優しげな、あるいは気弱な役よりも、本作品や「帝冠の恋」のような自己主張が強い役の方があいます。
さすが元宝塚のトップ娘役ですよね。
短いなりに頑張っている
また、作品構成的にも、前作で主人公ポーリーンが孤児院を出た経緯やバイロン卿との出会いが描写済みであることから、本作ではそれらの説明を最低限で済ますことができ、全5回分を丸々、事件の内容に充てることができたことも、描写が丁寧になった原因と感じます。
そして、終盤、藤岡さんが朗々と読み上げるバイロンの詩が、石川さん演じるポーリーンのモノローグの中で、作品タイトルに結びついて上手く締められておりなかなか良いエンディングでした。
その他、雰囲気と言えば日高哲英さんが編曲したクラシック(ショパン「夜想曲第10番」、サンサーンス「死の舞踏」、シベリウス「トゥオネラの白鳥」)も前作以上に効果的に使われ作品を盛り上げていると思います。
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