- 作品 : 春を待つ音
- 番組 : FMシアター
- 格付 : B
- 分類 : 家族
- 初出 : 2017年7月8日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 葉月けめこ
- 音楽 : 小六禮次郎
- 演出 : 小見山佳典
- 主演 : 横田美紀
母の遺品の中から見つかった1枚の写真。
「糸島にて家族写真」とメモされたその写真には、亡き母と3歳の私、そして見知らぬ男性が写っていた。
父は私が生まれる前に死んだ、母からそう教えられてきた。
そういえば体調を崩した母が唯一行きたがっていたのは福岡県の糸島だった。
そこに何があるというのだろうか。
本作品「春を待つ音」は福岡県北九州市出身の脚本家・葉月けめこさん作のラジオドラマで、この脚本は第45回創作ラジオドラマ大賞の佳作受賞作です。
糸島市とは
舞台は福岡県の糸島市。
この糸島市は福岡市の西側に隣接する町ですが、2009年に合併してできたばかりで、合併前は前原市(まえばるし)・二丈町(にじょうまち)・志摩町(しままち)でした。
よって「いとしま」のうち「いと」の部分は旧市町名にはなかった訳ですが、この地域は古代の律令制の頃から、怡土郡(いとぐん)・志摩郡(しまぐん)と呼ばれていた地域で、しかもこの「いと」は魏志倭人伝に記述される「伊都国」(いとこく)に比定されているそうです。
いまさらリゾート開発?
とてつもなく長い歴史を持つ同地域ですが、現在では、旧前原市域を除けば、よく言えば風光明媚な、悪く言えば鄙びた漁村です。
隣接する福岡市西区に九州大学が移転してきたため、糸島市にも多少は開発の波が及んでいるのかもしれませんし、公民連携で脚光を浴びている側面もあるようです。
ただし、平成30年地価公示における糸島市の平均地価上昇率はわずか1.14%/年。
糟屋郡(福岡市東側の粕屋町・志免町など)や筑紫郡(福岡市南側の那珂川町)の上昇率からは遠く置いて行かれています。
本作品の中でリゾートホテルの建設に固執するデベロッパーが登場したりもするのですが、バブル期ならいざ知らず、このような形での大規模開発はいささか時代遅れのように感じました。
FMシアターらしいストーリー
さて、作品の内容に移りますが、はっきり言って本作品のストーリーは冒頭に書いた粗筋から概ね想像できるとおりです。
自分の出生の秘密を求めて地方に旅立った女性が、そのキーとなりそうな男性に出会って話し合う。
そして、ふたりの長年のすれ違ってきた思いが次第に明らかになっていき、最終的には主人公が前へと進み始める……というアレです。
FMシアターらしい登場人物
また、人物造形についても、正直、感情的でわが儘な主人公・永海(彼氏が気の毒…)には共感は持てませんし、いつまでも「しょうちゃん、しょうちゃん」って、生きる目的を(たぶん)死んだ友人に被せる中年男にもあまり共感が持てません。
ふたりとも、吐露した長年の思いが結局、単なる愚痴ってどういうことなのでしょうか。
そもそも永海の「私のためだけに母は生きて死にました」って、母親の意思を無視した傲慢な発言ですよね。
そしてふたりとも、数時間言うこと言っただけで、すっきりしちゃうのは釈然としません。
まあ、FMシアターの50分枠で解決するにはこの程度でまとめざるを得ないでしょうけど。
「私小説」としては悪くない
と、随分否定的なことを書いてしまいましたが、このブログの評価は意外と悪くない「B」としました。
よくあるテーマで、展開も意外性がなく、登場人物たちに共感もできないのですが、それでも登場人物の心の動きは丹念に描かれていて、その点では違和感はありませんでした。
最近のFMシアターは「FM私小説」といっても良いくらい、実際、この手の地味な作品をリピートしがちです。
正直、この手のテーマの作品を毎週聞かされたらたまらないのですが、本作品については、飽きずに聴ける作品で、脚本の賞を取ったのもわかるような気がします。
横田美紀さんと福岡出身者
そして、出演者の熱演も評価の高いポイントだと思います。
主演は女優の横田美紀さんで、準主役級の男性役が川原和久さん。
横田さんは青春アドベンチャーでは「シブちゃん」でヒロイン役でしたね。
一方、川原さんは、テレビドラマ「相棒」で、主人公の相棒コンビにいつも嫌みな台詞を投げかける7係の伊丹巡査部長役の方ですが、もともと北九州市出身です。
北九州と糸島とを福岡弁でひとくくりにするのはやや乱暴ではあると思いますが、一応ネイティブ。
そのほかの出演者の皆様も横田さん以外のほぼ全員が福岡弁で演技される作品です。
私はてっきり福岡局の作品かと思ったのですが、どうも本局の作品のようで、ちょっと意外でした。
本作品は当ブログで実施した2017年のFMシアター・特集オーディオドラマの人気投票で第1位になりました。
詳しくはこちらをご覧下さい。
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