- 作品 : ノストラダムスと冷静な航海士たち
- 番組 : FMシアター
- 格付 : AA-
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 2020年4月25日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : ナカガワマサヒロ(A.S.)
- 演出 : 松本仁志
- 主演 : 蟷螂襲
6年前に始まった世界恐慌は思わぬ影響をもたらした。
経済が混乱し、不要不急とされた世界中の天文台が閉鎖された結果、地球に衝突する彗星「アンゴルモア」の接近を見過ごしてしまったのだ。
早めに気が付けば全人類が力をあわせて何らかの対処ができたかもしれなかったが、すでに手遅れ。
何もできないうちに時間は経過し、あと2日で地球が終わる日を迎えてしまった。
世界中が大混乱に陥る中、警視庁公安総務課の久地(くじ)は旧知の官房長官より極秘任務を受ける。
アンゴルモア対策室から盗まれた機密文書を取り返せというのだ。
この文書にはわれわれの子や孫の未来がかかっているという。
しかし、あと2日で終わる世界にどのような未来があるというのだろうか。
2020年4月にFMシアターで放送されたナカガワマサヒロ(A.S.)さん脚本のラジオドラマの紹介です。
なぜ1年後の今?という疑問もあろうかと思いますが、単に現在、青春アドベンチャーで再放送されている「人喰い大熊と火縄銃の少女」に合わせただけです(タイトルが「AとBの(な)C」という形)。すみません…
終末期SF
さて、本作品、このブログでは「サスペンス」に分類しましたし、冒頭のあらすじもそんな感じで書きましたので、エンターテイメント性の強い作品だと思った方も多いと思います。
実際、過去にもエンタメ色の強い「ふたりの部屋」や「青春アドベンチャー」で天体衝突直前時の日常生活を描いたSFラジオドラマが制作されてきました(「ひとめあなたに…」や「終末のフール」、「世界の終わりのカレーライス」など)。
社会風刺
しかし、そこは文芸色の強いFMシアターのこと。
本質的にはハラハラドキドキを主目的とするエンタメ作品ではなく、現状維持バイアス(※)が強く有事の対応力が極めて残念な日本に対する社会風刺が主眼の作品なのだと思います。
その面で「逆シン・ゴジラ」的であり、あまりに政府の対応がお粗末なコロナ禍の時期に制作されたことも影響しているのかもしれません(そういえば、本作品における天文台の閉鎖と大阪維新の会によるコロナ前の保健行政も被る…)。
(※)変化や未知のものを避けて現状維持を望む心理作用
エンタメ作品として評価
しかし、そういった社会風刺をただ生真面目に主張するだけでなく、サスペンス作品といってもよいくらいのスリリングな作品としていることに拍手を送りたいと思います。
結局面白くないと作者の言いたいことは伝わりませんからね。
本作品、例えば、最後の主人公の「発見」は結局あまり意味がなかったのではないか?(どうせ数日でわかること)とか、世界恐慌が起きたくらいで本当に世界中の天体観測がストップするのか?とか、天体観測がすべてストップしていたはずなのに彗星衝突が発表されるなりいきなりそれが真実として受け入れられるものなのか?など、細かい疑問点はいろいろありますし、折角の設定もSF的な深掘りが一切されていないのは残念ではありますが、関心を途切れさせずに聞き切れることができる良作だと思います。
スタッフ・キャスト
さて、本作品の脚本を書かれたのは作家・画家・劇作家・演出家のナカガワマサヒロ(A.S.)さん。
「極限状態にある人間の話」を書くとの評があります(別サイト)が、まさに本作品はそのようなシチュエーションの作品ですね。
また主役の久地を演じたのは俳優・劇作家の蟷螂襲(とうろう・しゅう)さん。
脚本家として第45回・第47回岸田國士戯曲賞の候補に挙がったこともあります。
また、準主役の北沢刑事を演じる渡猛(わたり・たけし)さんも脚本・演出もされる方です。
本作品が演劇IQの高い方によって演じられていると感じたのはそういうところにも原因があるのかもしれません。
本作品は当ブログが実施した「2020年FMシアター人気投票」の第4位の作品です。
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