ひとめあなたに… 原作:新井素子(ふたりの部屋)

格付:A
  • 作品 : ひとめあなたに…
  • 番組 : ふたりの部屋
  • 格付 : A
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 1982年12月13日~12月24日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 新井素子
  • 脚色 : 森浩美
  • 演出 : (不明)
  • 主演 : 熊谷真実

昨夜は飲みすぎた。記憶は曖昧。
それは飲みすぎるよ、カレに「自分は癌だ、だからほっておいて欲しい」なんて言われたら。
ショックのあまり何も言えなくても、男友達と一晩飲み明かすことになっても仕方ないじゃない。
それにしても度が過ぎたかも。
記憶がないどころか、ありえないニュースまで記憶している。
「地球に隕石が衝突するので人類の絶滅まであと1週間」とか、随分とひどい妄想だ。
…あれ?朝のニュースでも同じことを言っている?
まさか、まさか、本当なの?
でも、もし本当ならこんなところでグズグズしてはいられない。
こんな別れが最後になるなんて絶対イヤ。
せめてひとめ会ってもう一度だけでも話がしたい。
行こう、カレが住んでいる鎌倉まで。



本作品「ひとめあなたに…」は、SF小説家・新井素子さんが1981年に発刊(双葉社)した同名の小説を原作とするラジオドラマで、NHK-FMの「ふたりの部屋」という番組で小説発刊の翌年1982年に放送されました。
原作はすでに40年近く前の小説ですが、1985年に角川文庫で、2008年に創元SF文庫で再刊されていますので入手は比較的容易だと思います。

練馬だけが舞台ではない

さて、新井さんといえば東京都練馬区生まれで地元愛が強い方として有名です。
少女作家として有名になった1977年のデビュー当時は都立井草高校(隣接区の杉並区)に在学していましたし、本作品の執筆時もやはり隣接区である豊島区に所在する立教大学生でした。
その他、舞台が練馬区の作品も多数あります(例えば「いつか猫になる日まで」は練馬区の都立石神井公園が舞台)。
当然、本作品も旅のスタートは練馬区なのですが、その後、荻窪(杉並区)、砧(世田谷区)、田園調布(大田区)、武蔵小杉(川崎市中原区)、横浜と通って最終的には鎌倉へと辿り着く、一種のロードムービー?的な雰囲気もあります。

終末直前SF

今、ロードムービー的と書きましたが、作品のジャンルは、いわゆる終末もののSF。
ただし終末の直前の世界が舞台で「終末の出来事」及び「終末後」は描かれません。
終末が近いことを知ってしまった人間が残された日々をどう生きるかがテーマで、最近の青春アドベンチャーでいうと伊坂幸太郎さん原作の「終末のフール」(2010年放送)や石原理恵子さん作の「世界の終わりのカレーライス」(2019年)と同じです。
ただ、「終末のフール」は舞台が固定され各話ごとに主人公が変わっていく構成であるのに対し、本作品はひとりの主人公が旅をしながら様々な舞台を移動していく構成です。
終末前と終末後という決定的な違いはありますがどちらかというとむしろ「風の名はアムネジア」(1988年放送)に近い雰囲気と言ってもよいかも知れません。

新井素子作品にほの見える狂気

もうひとつ他作品との類似性を言うなら「狂気」という側面です。
新井さんと言えば割とほんわかしたイメージがありますが、本作品では暴走ライダーやエセ宗教家といったいかにも終末ものにふさわしいキャラクターに加え、従順だった妻が終末に夫を襲う話や、人類が滅亡するのに受験勉強を続ける少女など、ダークな側面が色濃い。
ダークと言えば、途中で登場し、食料や燃料を用意してくれる完全に善意の人間に対して主人公が心の中で「不気味の一言に尽きる」、「人生の傍観者」、「人生を生きとらん人間」など評するなど、結構辛辣です。
実は本作品の10年以上後に放送された新井素子さん原作のサイコホラー「おしまいの日」(1993年)が異質なのだと思っていたのですが、本作品を改めて聞いて、もともと新井さんにはそういうダークな側面もあったのではないかと思いました。

熊谷真実さん主演

さて、出演者については、まず主役の圭子を演じたのは熊谷真実さん。
1979年前期のNHK連続テレビ小説「マー姉ちゃん」に主演された女優さんで、すでに紹介済みの作品では「サウンド夢工房」の「無印OL物語」でも主演されています。
本作放送当時は23歳だったのですが、実は熊谷さんは1980年から1982年にかけて劇作家のつかこうへいさんと結婚されていたため(結婚早い!)、本作品は離婚前後に制作された作品ということになります。
遠い距離を歩いて恋人に会いに行く、という本作品の内容を考えるとなんとも皮肉です。

原作者自身がご出演

また、準主役ともいえる配役で原作者の新井素子さんご自身が出演されています。
一応、役としては圭子が連れ歩いているぬいぐるみの「ダナ」ということになるのですが、このダナは圭子との会話役で第三者と話すことはありません。
いわば、「もう一つの圭子の内心」であり、圭子の分身とも言える役です。
ダナの出番になると、なんとも言えないファンタジックな音楽が流れた後に台詞が始まります。
常に「○○なんダナ」と話す不思議系のキャラで、声や話し方もあえて地声と変えているので、素人がやってもあまり浮いてしまわない(というか最初から浮いている)仕組みになっています。
ただ、意外と悪くなく、特に後半はどんどん熟れていく印象です。
正直「絶句」(1984年)や「ザ・素ちゃんズ・ワールド」(1986年)ではあまり上手だとは思わなかったので少し意外でした。

その他のキャスト

なお、本作品は「ふたりの部屋」という番組名にもかかわらず、多数のキャストが登場する作品。
主人公の相手役(恋人)である「朗」(ろう)を演じる木下弘之さんのほか、加藤善博さん、土井美加さんなども出演されています。

是非ご協力を

最後に一言だけ。
この作品、第4話だけ聞いたことがないのですよ~
砧ファミリーパーク編の完結編だったはずなのですが…
お聴かせ頂ける方がいらっしゃいましたら是非是非ご連絡ください。
よろしくお願いいたします。

【新井素子原作の他の作品】

コメント

  1. あきな より:

    SECRET: 0
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    初めまして。コメント失礼致します。
    切実にこちらの作品の音源を探しているのですがお聴かせ頂くことは可能でしょうか?
    突然のコメントで無礼は承知しておりますが何卒宜しくお願い致します。

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