- 作品 : 背中あわせのハート・ブレイク
- 番組 : サウンド夢工房
- 格付 : AA-
- 分類 : 少年(中高)
- 初出 : 1991年12月2日~12月13日
- 回数 : 全9回(各回15分)
- 原作 : 小林信彦
- 脚色 : 宮崎由香
- 演出 : 笹原紀昭
- 主演 : 毛利賢一
終戦から4年、カルチャーギャップに戸惑っている大人たちを尻目に、俺は文京区の高台にある高校でどっぷりアメリカに浸る青春を謳歌していた。
同級生の3分の2は東大を受験する学校で、俺は早々に東大受験を放棄。
将来は趣味に生きることを決めていた。
クラブ活動は映画研究会。
とりあえずの目標は校庭に部室をつくっちまうことだ。
小説家で評論家の小林信彦さんの同名の小説を原作とするラジオドラマです。
小林信彦さんと言えば「オヨヨ」シリーズなどのユーモアあふれる小説と、文学を始めとする大衆文化全般に対する評論で知られた方。
何度も直木賞や芥川賞の候補になりながら結局、受賞できなかった経緯自体を鋭い評論にもされていました。
NHK-FMの帯ドラマとしては「ふたりの部屋」時代に「ちはやふる奥の細道」が採用されています(1989年にFMシアターで「ちはやふる奥の細道’89」も)。
軽めのタイトルだが…
さて、本作品の原作小説が発表されたのが1988年で、このラジオドラマの放送が1991年。
このバブル真っ盛りの時期に制作された作品のタイトルが「背中あわせのハート・ブレイク」である時点で、アメリカの空気感が漂う青春小説(片岡義男さんとか喜多嶋隆さんとか)や、アイドルが歌う爽やかなポップス、あるいは夜9時くらいからやっているトレンディドラマを想像してしまうのも無理からぬことだと思いませんか?
ところが、聴いてみてびっくり。
なんと舞台は終戦のわずか4年後。
確かに高校生の青春物語ではあるのですが、焼け跡がまだ残っていたり、時代遅れの高圧的な教師がいたりで前々トレンディではないじゃん!とまず1回驚きました。
戦後だけど悲惨ではない
しかも実際聞いているとまた印象は変わります。
何となく漂うハイソなそして余裕がある感じ。
とても「火垂るの墓」と同じ国の話とは思えない。
それもそのはず、舞台は山の手の有名進学校。
主人公こそ下町の金物屋の息子であるものの、同級生たちは役人か幹部社員の子弟なのです。
結果として本作品は設定の時代が10年後でもおかしくない雰囲気になっています。
これって筑附だよね
ちなみにこの有名進学校。
ラジオドラマでは実名は出ませんが、「文京区の高台」「附属中学」「隣に女学校」、「学習院との定期戦」ということから、これはもう明らかに筑波大学附属中学校・高等学校(当時は東京高等師範附属から東京教育大学附属への過渡期)です。
今年、某親王殿下が進学されたことでも話題となった都内屈指の伝統校。
最近流行りの「面倒見がいい進学校」や「帰国子女に人気の進歩的な教育プログラムの進学校」とは違う、生徒の質が高いことを前提にした放任主義的な「自主、自律、自由」が売りの名門校です。
閑話休題
ところで話が逸れますが、かの親王殿下は、曲がったことが大嫌いな性格とか。
今回の御入学に関しては様々な意見があるようですが、あのような特殊な入学の仕方で殿下ご本人のプライドが大丈夫なのか、他人事ながら心配です。
どこまで事実?
さて、本作品はそんな筑附のイメージが良く表された作品です。
というのも原作者の小林信彦さんご自身が筑附(当時の高等師範附属)のご出身で、同校の映画研究会の立ち上げメンバーとか。
つまり自伝的な小説なのです。
さすがにアメリカ人の血の入った遠縁の美少女とかは創作なのだと思います。
また、渡り廊下の床板をはがして○○に流用とか、○○○の本を売却して資金調達とか、最後に部室が○○するとかも多分フィクションなのでしょう…フィクションですよね?
青春の喧騒と苦さ
本作品はそういった上流階級寄りのお坊ちゃんたちの上品な暴走を、終戦直後から朝鮮戦争へと移り変わっていく世相を背景に描く青春物語です。
太平洋戦争直後の悲惨さを感じさせるものではないものの、再び社会の情勢が不穏になっていくにつれ、彼らの青春や恋も必ずしもハッピーエンドではない方向に向かっていきます。
こういった爽快感と裏腹のある種の痛みは、時代や主人公達の置かれた立場こそ異なれ「都会島のミラージュ」や「翼はいつまでも」、「レヴォリューションNo.3」といった同種のハイティーンものラジオドラマにも通じるもの。
「人生はハッピーエンドじゃなきゃいけない」のかも知れませんが、そうでないのもまた青春なのでしょう。
ケニー大倉とスケバン刑事と欽どこ
さて、本作品の主人公、三村隆を演じたのは毛利健一さんという方。
どんな方なのだろうと思って調べてみると、現在はケニー大倉という名前で歌手活動をされているとのこと。
しかも、なんと矢沢永吉さんと一緒に伝説のロックバンド「キャロル」をやっていたジョニー大倉さんの息子さんだとか。ちょっと驚きました。
また、ヒロインのケイを演じたのは当時アイドル歌手だった大西結花さん。
彼女の出世作にして代表作であるTVドラマ「スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇」から5年後に本作品に出演されたことになります。
さらに、意外なキャストといえば岡を演じた藤本正則さん。
藤本正則さんって「欽ちゃんのどこまでやるの!?」で見栄晴をやっていて、後に芸名も見栄晴にしちゃった役者さんですよね。
調べてみるまで気が付きませんでした。
びっくりするほどの違和感
最後に一つだけ。
本作品を放送した「サウンド夢工房」という番組は、作品の前と後に作品と関係ない番組テーマ曲をかけることが多い番組でした。
本作品の時期のエンディングテーマ曲は谷山浩子さんの「忘れられた部屋で」。
不倫をテーマにしたとっても暗い曲で本作品の雰囲気に合わないこと著しい!
サウンド夢工房はこういうことが割と多い困った番組だったのですが、さすがに最終回は「忘れられた部屋で」はなく、伊藤守恵さん選曲の雰囲気のあったBGMで終わります。
よかったよかった。
【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
演出作品はこちらに一覧を作っています。
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