さらば国分寺書店のオババ、かつをぶしの時代なのだ 原作:椎名誠(ふたりの部屋)

格付:C
  • 作品 : さらば国分寺書店のオババ、かつをぶしの時代なのだ
  • 番組 : ふたりの部屋
  • 格付 : C+
  • 分類 : エッセイ
  • 初出 : 1981年10月5日~10月16日
  • 回数 : 全10回(各回10分)
    再放送: 1982年8月2日~8月13日

  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 椎名誠
  • 脚色 : 津川泉
  • 演出 : (不明)
  • 主演 : 伊武雅刀

エッセイストで小説家の椎名誠さんによる「さらば国分寺書店のオババ」(1979年)と「かつをぶしの時代なのだ」(1981年)を原作とする作品です。



2部構成?

原則として、毎回、番組の冒頭で「かつをぶしの時代なのだ」から取った短編を、中後半で「さらば国分寺書店のオババ」を原作とする連続作品を放送するスタイルでした。
放送されたのはNHK-FMの「ふたりの部屋」という番組です。
主にラジオドラマを放送している番組でしたが、本作品のようなエッセイをそのまま演じる作品も多かったようで、椎名さん原作の作品は他にも「気分はだぼだぼソース」が放送されています。

複雑な出自

ところで、この「ふたりの部屋」は今から30年近く前の1985年4月に、「カフェテラスのふたり」という新番組に衣替えする形で終了した番組です。
最初の作品は1978年10月に放送された「銀河鉄道999」。
当初、10分番組として始まり、1982年4月から15分番組となったようです。
ネットで検索した内容及び放送中の伊武雅刀さんの発言から推測すると、本作品は当初、10分番組の時代の1981年に「さらば国分寺書店のオババ」部分が単独で放送され、その後、15分番組になって以降の1982年に再放送される際、「かつをぶしの時代なのだ」部分が追加されたようです。
経緯を調べ出すときりがありませんね…

スーパーエッセイとは?

さて、本作品の原作2作品は、いずれも椎名さん自ら「スーパーエッセイ」と名付けたジャンルの作品です。
特に「さらば国分寺書店のオババ」は、椎名さんの文筆家としてのデビュー作で、その後、TVなどのメディアに積極的に出演し有名となる椎名さんの原点です。
ちなみに本作品第10回に収録されている椎名さんご自身の発言や以下のURLによれば「スーパーエッセイ」の「スーパー」は、「スーパーマーケット」の「スーパー」であり、大衆的だったり価格破壊だったり、そういうイメージを込めたネーミングなのだそうです。

(外部リンク)http://www.shiina-tabi-bungakukan.com/bungakukan/archives/3370

脱線アリアリ

本ラジオ版「さらば国分寺書店のオババ」は、国分寺にある古本屋・国分寺書店の店主である頑固老人「オババ」の言動をスパイスとしつつ、電車内の風景や車掌の制服、タクシーとの確執、警官の職務質問などの身の回りの様々なこと、特に「紺の制服」にかなりこだわりを持って、椎名さんの独特な感性や角度からで切り取って解説していく作品です。
国分寺書店内が舞台となる時間はそれほど長くなく、話はポンポンと自由自在に飛んでいきます。
その自由奔放でセンスあふれる話題選択、垣間見える独特の感性、流れるようでどこか泥臭い文体など、当時全てが新鮮で、後進のエッセイストに多くの影響を与えたようです。

まさかの関連?

そういえばこのブログも、基本的にはラジオドラマの紹介をするブログですが、作品の考察はあまりせず、原作やその他諸々の連想される物事にポンポンと話題をずらしていくことを旨としています。
そういう意味では椎名さんの影響を受けているのかも知れません。こじつけですけど。

良かったような悪かったような

ところで、以上のように書くとオババはあまり出てこない作品のようですが、実はこれでも原作に比べると格段にオババの出番が多い脚本になっています。
原作では特定の話にしか出ませんから。
原作はどちらかというと制服の話を執拗に続けており、かなりアナーキーな主張の強い作品です。
作品全体が椎名さんが独白する形の主張で構成されており、文章は読者に語り書けているような調子です。
ただこうしてラジオドラマにしてしまうと、ラジオではDJはリスナーに語り掛けるなんてことは当たり前のことなので、よく言えば全く違和感を感じない、悪く言えばあまり新鮮味はないように感じました。
この辺、ラジオとは相性が良いようでよくない作品だった気がします。

意外とちゃんとしたエンディング

何はともあれ、エッセイ、特にこういう性格のエッセイについて、ストーリーを紹介するなんて野暮、野暮。
だから、内容紹介はこの辺にしたいと思いますが、最後に2点だけ紹介したいと思います。
まず1点目は、ストーリーなどあってなきごとくの本作品ですが、第10回は思いもよらないような、しんみりする内容で、きちんとエンディングを迎えること。
この辺は意外な展開でした。

椎名誠さんご自身がご出演

また、冒頭に書いたように本作品は、「5分間のかつをぶし」+「10分間のオババ」が基本フォーマットなのですが、第9回と第10回だけは異なります。
「10分間のオババ」のあとに5分間、主演の伊武雅刀さんと原作者の椎名誠さんの対談コーナーがあるのです。
原作者本人が登場するレアな作品という訳ですが、特に第10回では実在する人物だというオババについての衝撃的な事実が打ち明けられるので必聴です。
正直このコーナーが本作品で一番楽しい部分だった、といったら言い過ぎでしょうか。

椎名誠=伊武雅刀

最後に出演者を紹介しますと、本作品の出演者は伊武雅刀さん、武知杜代子さん、佐々木允さんのお三方。
伊武雅刀さんは最近の青春アドベンチャーでは「クリスマス・キャロル」に出演されていました。
本作品では伊武雅刀さんが、椎名さんの立場に立っておりエッセイの「地の文」を担当しています。
本作品、エッセイですので、ラジオドラマ風の登場人物同士の掛け合いよりも朗読調の部分が多いため、伊武さんはほぼ出ずっぱりです。
特に「かつをぶしの時代なのだ」の部分は音楽や効果音が入るものの、基本的には朗読です。
なお、伊武さんの当たり役と言えば「宇宙戦艦ヤマト」のデスラー総統。
本作品は劇場用アニメ「さらば宇宙戦艦ヤマト」(1979年公開)から約2年後の作品にあたり、伊武さんもデスラー総統役からの脱皮を図っていた時期だと思います。

武知杜代子=オババ

一方、オババ役を演じたのが武知杜代子(武知豊子)さん。
戦前は「女エノケン」と呼ばれた超人気女優で、戦後を含めて日本を代表する名バイプレイヤーだった方です。
本作品時点では実際に73歳の老婆だったそうですが、もともと猛烈な老婆役が有名で、しゃがれ声だったこともあって30代から老婆の役をやっていたのだそうです。
オババ役にぴったりですね。
ちなみに伊武さんがはじめてデスラーを演じたのも25歳の時。
若くから貫禄のある役をやっていたという点では伊武さんと武知さんは不思議な共通点がありますね。

固有名詞はマイルドに

最後にこの作品にはNHK独特の固有名詞の言い換えがたくさんあります。
原作はエッセイであるため商品名などの固有名詞がふんだんに使われているのですが、このラジオドラマの脚本はそもそもそういう部分は最初から端折って面倒が起きないようにしているようです。
ただし、どうしても残ってしまった部分は言い換えで対応しているようです。
例えば「小松右京の沈没日本」など。
これの元の表現が何かはこちらの記事をご覧下さい。
でも真面目な部分では「海音寺潮五郎」とかしっかり実名で言っていたりもするのですけどね。

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