- 作品 : ジグが来る
- 番組 : アドベンチャーロード
- 格付 : A-
- 分類 : アクション(海外)
- 初出 : 1989年11月6日~11月24日
- 回数 : 全14回(各回15分)
- 原作 : キャンベル・アームストロング
- 脚色 : 佐々木守
- 演出 : 笹原紀昭
- 主演 : 沖田浩之
「ジグ?ジグが来るというのか!」
その言葉に4人の男たちは思わず顔を見合わせた。
元上院議員、合衆国ユニオンの指導者、大企業の経営者、大統領の弟の企業家。
4人はアイルランドを祖国とするアメリカ合衆国での成功者であった。
そしてアイルランド統一運動を陰から支える資金提供者でもある。
しかし、アイルランドは今回の資金強奪事件に4人のうちのひとり、あるいは複数の者が関与していると考えているようだ。
つまり、祖国は彼らの大義への志を信用していない。
確かに今回奪われた資金はIRA(アイルランド共和国軍)の1年分の活動資金にあたる。被害は甚大だ。
しかしよりにもよってジグを送り込んでくるとは。
ジグ、それはIRAが誇るテロリストの通称。
顔もわからない。本名も知らない。
狙った者は決して逃がさない。
そして狙った者以外は決して傷つけない。
ある意味、アーティストといってよい最強の殺し屋。
本作品「ジグが来る」は、スコットランドで生まれ、アメリカやイギリスで小説家あるいは教員として活躍した後、アイルランドで亡くなったキャンベル・アームストロングの同名の小説(原題は「Jig」)をラジオドラマ化した作品です。
原作が刊行されたのは1987年、日本語版が1989年発行ですので、その直後にラジオドラマになったことになります。
第2次大戦後を代表するテロ組織
内容はアイランド統一運動に絡めたポリティカルサスペンス…といいたいところですが、実際のところはアクション要素が強いスパイものといった感じ。
IRAと聞いて予想される通りの内容です…と書いてふと思ったのですが、今の若い人ってIRA(Irish Republican Army=アイルランド共和軍)って知っているのかな?
IRAは分断されたアイルランド(アイルランド共和国とイギリス領北部アイルランド)の統一を目指して武力闘争を続けていた組織で、第2次世界大戦後の世界において有数のテロ組織でした。
フィクションの世界でも大活躍
そのためアメリカのCIAやソ連のKGB、イスラエルのモサドや英国のMI6などといっしょに、多くのスパイ小説・冒険小説の題材としても取り扱われました。
青春アドベンチャーでいえば名作「鷲は舞い降りた」でIRAの活動家・デブリンが登場しますね。
結局、テロ組織の常でもある内部分裂の末、主流派であったIRA暫定派が(そのフロント組織であるシン・フェイン党とともに)イギリス政府と和解して2000年以降はテロ組織としては存在感がなくなりました。
本作はそのIRAがまだ元気だった時代の作品です。
プロ対プロ?
さて、本作品ではそのIRA内部のもめ事を解決するために、IRA切っての腕利き・ジグがアメリカへと派遣されます。
ただアメリカへとやってくるのはジグだけではありません。
ジグの逮捕を宿願とするスコットランドヤードのフランク・ペイガン、IRAの宿敵であるアルスター義勇軍の大立者アイヴァー・マッキネスなどもアメリカ入りし、国家権力と闇の組織の暗闘が描かれるのですが…
なんか…素人臭い?
うーん、なんだろう。この違和感は。
プロフェショナル同士の緊張感あふれる騙しあいになると思いきや、意外とストーリーは荒っぽいというか設定が雑というか。
ジグが来ると聞いただけで怯えて行動が滅茶苦茶になってしまう“成功者”の方々、犯行声明が出ただけでIRAが犯人と決め付けてしまうFBI(連邦捜査局)と米大統領、証拠隠滅もまともにできないテロリスト、詳しい情報を与えずにジグを送り出すIRA幹部(しかもいつの間にか暗殺されている)…
どうにもプロフェッショナル感がありません。
本当に腕利きなのか?
何より一番拍子抜けなのがジグ。
凄腕の工作員かと思ったら、いきなり武器の受け取りに失敗したうえ、金を奪った犯人を捜すも行動はいきあたりばったり。
そのうえ、宿敵のペイガンをあっさり信用したり女性に騙されたり…
「暗殺のソロ」のミカリにあったような狂気も感じられない。
なんとも締まりません。
挙句、撃たれた後は弱気になってしまうし、最終回に至っては二言三言しかセリフがない始末。本当に主人公か?
しっとりとしたエンディング
と言う訳で、あまりにもふがいない登場人物たちにかなりトーンダウンしていたのですが、最終回を聞いて少し考えを改めました。
悪役はちゃんと悪役しているのです。
まあ、どうみても極悪人の大量殺人者と、まともな感情を持ち合わせていないサイコパスのコンビなんですけどね。
そうか狂気はここに宿ったのか…
(なお、後者は生育環境によるものと説明されており厳密にはサイコパスではないです)。
また、最後をしっとりとペイガンが締めるのが悪くない印象を与えます。
ジグの最後の意地を含め、最終回がしっかりしていたのが好印象でした。
出演者紹介
さて、本作品の主役ジグこと、パトリック・ケアニーを演じるのは俳優の沖田浩之さん。
いわゆる竹の子族の王子様として熱狂的な人気のあった方ですが、若くして自ら命を絶たれました。
また、その宿敵ペイガンを演じたのは森本レオさん。
アドベンチャーロードでは沖田さんには「銀河番外地 運び屋サム」、森本レオさんには「摩天楼の身代金」という良作があり、期待しすぎていたのかもしれません。
その他、ペイガンの協力者でFBI捜査官のズーボリックを演じる武田国久さん、パトリックの父ケアニー元上院議員を演じる斎藤隆さん、その妻(後妻)であるセレスタインを演じる鈴木弘子さん、マッキネスを演じる高木均さん、語り手の岡部政明さんあたりが主な配役です。
全14回
なお、本作品は数少ない全14回で制作された作品です。
丁度10回目が第2週の終わりで、かつ第13回の最後に金曜日の最終回をお楽しみにといっていますので、第3週の木曜日(11月23日)、勤労感謝の日が特別番組で放送がなかったのではないかと思います。
【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
演出作品はこちらに一覧を作っています。
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