お父さんの会社 原作:草上仁(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : お父さんの会社
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : スラップスティック
  • 初出 : 1996年4月1日~4月12日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 草上仁
  • 脚色 : 辻洋
  • 演出 : 川口泰典
  • 主演 : 小須田康人

1996年。人類はついに完全なる仮想空間を実現した。
コンピューターネットゲーム「カイシャ・クエスト」のプレイヤーの一人である村田。
仮想の会社世界を満喫していた彼は、ある日、奇妙なことに気が付く。
それは、自分がゲーム内でつくった資料が、現実世界の販売会議で使用されていること。
そして、様々なプレイヤーが残業疲れを癒すためのささやかな娯楽としてプレイした内容が、主催者の手によって現実社会における換金手段として用いられていること。
それが、このゲームの恐るべき全貌であった。
村田は、いち早くこのゲームの“真実”を受け入れ、この真実に気づいた他のプレイヤーとともに、終わりの見えない死闘に身を投じていく……。
そう、この時から、村田にとってカイシャ・クエストはゲームであっても、遊びではなくなったのだ。

……「ソード・アート・オンライン」のファンの皆さま、関係者の方々、ご容赦を。



本作品「お父さんの会社」は、ハヤカワ文庫収録の草上仁さんの小説「お父さんの会社」をラジオドラマ化した作品です。
草上さんは全部で5作品が取り上げられた青春アドベンチャー有数の人気原作者さんでした。

20世紀のVRMMO?

本作品は当記事のアップ時点からは約20年前のSF作品ですが、SF的なギミックとしてVRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)RPGが使われており、冒頭の作品紹介文は、同じ題材を使った現在の代表的なライトSFである「ソード・アート・オンライン」の紹介文をパロった形で書かせてていただきました。
ちょっとしたジョークです、リスペクトです、すみません。

悲壮感はない

ただ、同じVRMMOネタでも、仮想世界から脱出できなくなりデスゲームに参加せざるを得なくなる「ソード・アート・オンライン」と、会社から帰宅後に毎日深夜にちょっとだけゲームをプレイする本作品とは、シチュエーションや悲壮感が全く違います。
むしろ「ソード・アート・オンライン」を初めて見たときに連想した作品は、佐々木淳子さんの漫画作品「ダークグリーン」(1984年~1988年)でした。
「異世界で戦士になる」「異世界から戻れなくなる」「異世界での死は現実での死を意味する」という設定の類似性が、既視感を感じた原因だったと思います。

昔は「夢」、今は仮想空間

ちなみに、1980年代に発表された「ダークグリーン」が舞台としたのが「夢」の世界でしたが、1990年代に書かれた本作品はコンピューター上の仮想世界が舞台になりました。
そういう意味で、本格的な仮想現実ものである「ソード・アート・オンライン」が2000年代に入ってすぐに登場する下地は、すでに20世紀のうちにできていたということでしょう。
実際、本作品ではすでに「VRヘッドセット」などという用語も使われていますし、NPC(※)が、ある程度の意志を持つキーになる存在として描かれるなど、なかなか野心的な試みがすでに行われています。

(※)Non Player Character。ゲームに参加しているプレーヤーの分身としての「キャラクター」ではなく、ゲームをコントロールするコンピュータが自身が操作するキャラクター。本作品では単に「キャラクター」と呼称。

真面目なお仕事ものではない

さてさて、「剣で闘うファンタジー世界」が舞台の「ソード・アート・オンライン」と異なり、本作品でプレイするのは「カイシャ」を舞台とした出世ロールプレイングゲームです。
というと「剣と魔法の世界」よりは随分と現実的な、あるいは無味乾燥な話かと思いきや、さにあらず。
ストーリーは良く言えばエキサイティングな、悪く言えば荒唐無稽なものです。
そもそも全体のテーマ曲がクレイジー・キャッツの「ドント節」であることからも、コミカルでライトな作りであることはわかると思います。
結局、「剣」どころからもっと凄いものまででてきてしまったりして…
ネタバレになるのでこの辺にしておきましょう。

むしろ別世界に旅立ちたい…

しかし、終盤で出てくる某巨大省庁関係者の、自省の権益拡大へのあくなき情熱や、公益と私益を混同し自己の行動を正当化する様など、妙にリアルな部分もあったのが印象的でした。
そもそも、サラリーマンにとっては、「ソード・アート・オンライン」や「ダーク・グリーン」のように現実に帰ることができなくなるシチュエーションも切実な状況ですが、ゲームが自分のリアルな生活、仕事と切り離せなくなってしまうことも、別の意味で痺れる状況といえるかも知れません。
仕事の合間に巨大な陰謀に挑む。日本のサラリーマンにそんなゆとりがあるのか?
それは聴いてのお楽しみということで。

それにしても、個人的には最近は某巨大省庁との接点もなくなってしまい、彼らの様子はさっぱりわからないのですが、省庁再編を経て、彼らの体質も少しは変わったんでしょうかね。

川口泰典作品の名脇役

話は変わって本作品の主演は、青春アドベンチャー草創期、特に川口泰典さん演出作品の多くに出演されていた小須田康人さん。
今日は一日ラジオドラマ三昧」で川口さんは小劇団の俳優さんを中心に起用したと話していらっしゃいましたが、小須田さんも、鴻上尚史さん主宰の「第三舞台」の旗揚げスタッフにして看板俳優でした。
くたばれ!ビジネスボーグ」、「霧隠れ雲隠れ」、「スピリット・リング」、「ジュラシック・パーク」など、多くの作品で様々なタイプの役を快演(一部、怪演)されていた小須田さんですが、青春アドベンチャーでの主演作品は本作品くらいかもしれません。

【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。



コメント

タイトルとURLをコピーしました