愛する心に手錠して 原作:林葉直子(サウンド夢工房)

格付:B
  • 作品 : 愛する心に手錠して
  • 番組 : サウンド夢工房
  • 格付 : B+
  • 分類 : スラップスティック
  • 初出 : 1990年10月29日~11月2日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 原作 : 林葉直子
  • 脚色 : 内田史子
  • 演出 : 川口泰典
  • 主演 : 金子真美

ただいま~
すっかり遅くなっちゃった。
これでもし高志と一緒だったなんてことがお父様にばれたら、もう偉いことに!
「お嬢様、お電話です。お父様から。」
もしもし忍です。
なあにお父様?ディナーパーティー?
当然、総理大臣の娘として出席するんでしょう?ごめんなさい、ちょっとそれだけは…
だった退屈なんだもん…!!!
そうだ!
お父様!行ってもいいわよそのパーティー。
あたしもたまには親孝行しないとね!それじゃ!
…そうだ出席する代わりにボディーガードに絶体、高志を。嫌とは言わせないから!
お父様が高志との仲を認めてくれさえすれば…



林葉直子さんの少女向け小説「新とんポリ 愛する心に手錠して」をラジオドラマ化した作品です。

続編≠第2作

その名のとおり前週に放送された「とんでもポリスは恋泥棒」の続編ですが、実は原作第2作のラジオドラマ化ではありません。
なんと原作ではこの2作品の間に7作品も挟まっています。
なぜ第2弾(というか10話放送の後半)がこの作品だったのか定かではありませんが、ひょっとしたらこの「愛する心に手錠して」をやりたかったがための組み合わせなのかもしれません。

ガンガンとばす

さて、7作品も飛ばしたこともあって前作(前週)終了時点では曖昧だった主人公・忍とその思い人・松前高志の関係も、本作ではスタート時点からすでにラブラブ状態です。
何となく違和感を感じざるを得ないのですが、この「飛ばしたことによる違和感」は作中でも続きます。
すなわち「重要なシーンを描写せずに飛ばしてそこで起きたことを後で登場人物のモノローグやセリフの中で喋らせることによって補う」という、前作でも行われていた手法が本作でも頻出するのです。

シチュエーションの把握が困難

特に本作では主人公・忍がトンポリ国の王女とそっくりで暗殺を避けるために入れ替わるのですが、これに加えて恋人の高志も王女の親衛隊のポプリ副隊長とそっくり(ただし墨を塗って顔を黒くする必要あり)でこれに入れ替わったりします。
さらに諸事情から高志はそもそも変装してパーティ会場に警備に向かっているので、素顔、変装後、ポプリに変装後の3パターンで登場します。
かつ、忍と高志はそれぞれこのパーティーに行くことをお互い知らない一方で、いくつかのヒントから「ひょっとしたらこのパーティーにお互いがいるのかもしれない」と混乱状態になります。
わかりますか?
わかりませんよね…
つまり作中の登場人物たちも混乱しているのですが、リスナーからみると一層、説明不足。
複雑さは増してしまうため、聴いていてどうしても混乱してしまうつくりなのです。

トンポリ国って…

また、設定があまりにお手軽なのもちょっと。
王女の銃撃を狙う暗殺者がイチャイチャするカップルであふれる公園内で王女の姿がプリントされた缶相手に射撃の練習をするもんですかね。
他にも、変装の手段が「付け鼻+壜底めがね+ドーラン」だし、そもそも「トンポリ国」というネーミング…
この辺は一種のギャグなんでしょうけど、北大路欣也さん主演で「おろしや國酔夢譚」を制作した川口泰典さんの作品にしては、あまりに雑過ぎるように感じました。

スピード感についていければ

ただこの軽やかさ、スピード感、そして関係性の複雑さが生む、すれ違いや勘違いによるとんでもない展開こそが、この作品の魅力なのだとは思います。
確かにこの辺は前作以上に面白い。
ただ、やはり15分(サウンド夢工房はエンディングテーマがあるのでネットの時間はもっと短い)×5回ではあまりに駆け足でした。

最強の女流棋士

さて、最後に本作品の原作者の林葉直子さんについて少し。
中年以上の人であれば覚えていると思いますが、林葉さんは一世を風靡した女流棋士でした。
アイドル的な扱いもされましたが、1982年から1991年まで女流王将を10連覇した間違いなく当時最強の女流棋士のひとりで、その功績から女流棋士として初めてのクイーン称号「クイーン王将」を受けています(日本将棋連盟を脱退したため現在は名乗れない)。

マルチな才能

同時に文筆活動でも有名で、本シリーズ(とんでもポリスシリーズ)を始めとして主に少女小説の書き手としてベストセラー作家でもありました。
その後、不倫スキャンダルで世間をにぎわしたり健康問題が取りざたされたりもしましたが、現在は健康を取り戻されているそうです。
ちなみに漫画「しおんの王」の原作者「かとりまさる」が林葉さんのペンネームであったことは今回調べていて初めて知りました。
凄いマルチな才能ですね。
ちなみに林葉さんのお父様は警察官だそうで、それが彼女がデビュー作の舞台に警察を選んだ理由なのだそうです。

【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。こちらをご覧ください。傑作がたくさんありますよ。



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