七帝柔道記 原作:増田俊也(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 七帝柔道記
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : スポーツ
  • 初出 : 2016年5月30日~6月10日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 増田俊也
  • 脚色 : 池谷雅夫
  • 音楽 : おかもとだいすけ、川崎良介
  • 演出 : 吉田浩樹
  • 主演 : 柄本佑

七帝柔道とは!?
旧7帝国大学、すなわち北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学で現在も行われている寝技中心の柔道のことをいう!!
寝技は練習量がすべてを決する。
才能がなくても練習量を増やせば必ず強くなれる。
しかし、その実態は、男同士が来る日も来る日もくんずほぐれつ畳の上をのたうち回る毎日。
押さえられ、締められ、落とされる。
キツイ、苦しい、女子マネージャーすらいない!
これが七帝柔道だ!!
しかし、その男は七帝柔道をやるために二浪して北大に入学した、といった。
水産学部だが、柔道場に通い続けるために4年間留年を続ける覚悟とも。
だが、先輩はおろか、同期の沢村にも全く勝てる気がしない。
実際、試合でも負け続けだ。
それでも彼は青春のすべてを掛けて七帝柔道を続けることを選んだ。
この男はなんだ!?
もうおわかりであろう、この男こそ本編の主人公である。
リスナーを、汗と涙と笑いの世界に連れて行ってくれる不屈の闘志を持っているかもしれない男だ。
それがこいつ。
その名も隼人!!
松田隼人だっ!!
(参考:島本和彦「逆境ナイン」)



ノンフェクション「木村正彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で知られる作家・ノンフェクションライター増田俊也さんの自伝的小説「七帝柔道記」をラジオドラマ化した作品です。

松田=増田?

原作では主人公の名前も原作者と同じ増田なのですが、このラジオドラマで柄本佑(えもと・たすく)さんが演じる主人公は「松田」と変えられています。
原作が「原作者=主人公名」の場合に主人公名を変えることは「闘う女。~そんな私のこんな生き方」でも行われていました。
なぜNHKがこのようなことをするのかはよくわからないのですが、架空の人物にすることによって実在の人物への影響を抑えようとしているのかも知れません。

唯信=唯心ほか

主人公以外にも、実在の人物がモデルになったキャラクターが登場されているからか、例えば「竜澤宏昌→渡部豪太」、「和泉唯信→小泉唯心」など適宜、原作と名前が変わっています。
(この辺の話の続きについては関連作ともいえる「北海タイムス物語」の記事も参照ください)

ノンフェクション原作が多い

さて、青春アドベンチャーでは過去に意外と多くの格闘技を扱った作品を放送しています。
これらの作品には、番組初期に制作された「ハリーとアキラ」(プロレス)は完全なフィクションですが、その他の作品、すなわち「ふたつの剣」(剣道・フェンシング)、「闘う女。」(キックボクシング)、「1985年のクラッシュ・ギャルズ」(女子プロレス)はいずれもノンフェクションを原作としているという際だった特徴があります。
本作品の原作は一応小説ですが、かなり私小説的な内容なので、ノンフェクションに近いものといえましょう。

ドラマチック、情念、非合理性

これは、スポーツ、特に格闘技がフィクションにするまでもなく事実自体がドラマチックであることの証明といえると思います。
特に格闘技の場合は、人を痛める付けるという、本質的に反社会的、動物的な衝動を内包する競技であり、独特の情念、ウェットさが加味されます。
また、そもそも格闘技をスポーツではなく武道と考えると、スポーツとはまた違った、非合理性、情緒性がつきまといます。

団体戦

さらにこの「七帝柔道」は格闘技でありながら団体戦でもある、という特殊な競技です。
すなわち一試合が15人対15人の団体戦であり、勝ちを狙ってポイントを獲得する「抜き役」と、強敵相手に引き分けで凌ぐことによりチームに貢献する「分け役」をどのような順番に並べてチーム全体として勝つかという競技なのです。
この辺、陸上という個人競技でありながら、4×100mリレーという団体競技を中心に据えることにより盛り上がりを作ることに成功している「一瞬の風になれ」に近いものがあります。

多士済々な仲間たち

団体競技となると、やはり重要なのは、主人公以外の脇役の個性です。
本作品では、まず松田の同期としてクローズアップされるのが、九州・佐賀出身で過酷な北大柔道部の練習すら生ぬるいと批判的な沢村誠二(演:松田悟志さん)、ロン毛でドライヤーを持ち込み問題視される矢澤義郎(演:渡部豪太さん)、そして初心者の飛雄馬(演:寺部智英さん)。
その他、1年時の主将で松田に目を掛け彼をしごく金井(演:古河耕史さん)、2年時の主将の広島弁丸出しの小泉唯心(演:政岡泰志さん)あたりも見せ場の多い役です。

言葉も様々

そういえば、本作品、佐賀弁、広島弁と方言が印象的な作品ですが、佐賀弁についてはNHKらしくちゃんと「佐賀言葉指導」がついているのに、広島弁にはない。
なぜだろうと思って調べてみると、演じた政岡泰志さんは広島ご出身とのこと。
ネイティブスピーカーでしたか。
また、ネイティブといえば(?)、本作品には本当の「北海道大学柔道部のみなさん」が協力されているとのこと(スタッフブログ(外部リンク参照))。
主に試合のシーンの審判などのようですが、そもそも寮歌を歌うシーンの多い本作品は、本家の協力なくして成立しなかったものと思います。

勝負の熱

さて、物語は主人公松田が1年時と2年時の2回の「七帝戦」を中心に進みます。
物語が「スポーツを舞台にした青春もの」になるか「スポーツもの」になるかは、やはり「練習」や「勝負」のシーンの熱、特に試合の熱の入り方によると思います。
青春アドベンチャーでもスポーツが前面に出ている作品でありながら、「武蔵野蹴球団」や「フルネルソン」はどうしてもジャンル「スポーツ」に分類することはできませんでした。
その点、本作品の熱さはかなりのもので、青春アドベンチャーでは「ごくらくちんみ」、「スペース・マシン」などのナレーションもしている銀河万丈さんのナレーションも熱い。
「人生そのもの」と称される七帝柔道に対する本作品の「熱さ」はまさにスポーツものの真骨頂です。
それは以下に書いた各回のサブタイトルを見てもわかると思います。

各回のサブタイトル

  1. 寝技ってなんだ?
  2. われら一年
  3. カンノヨウセイ
  4. 柔道ってなんだ?
  5. いざ七帝戦
  6. 絶対に辞めるな
  7. よみがえれ北大柔道部
  8. 新時代の幕開け
  9. 友よ
  10. つながる思い

実は結構コミカル

ところで、ここまでこの記事の書きぶりだと、本作品、常に真剣勝負のガチな作品のように読めるかもしれませんが、かならずしもそうではありません。
主人公の柄本佑さん(俳優の柄本明さんの息子さんとのこと)のトホホ感満載の演技といい、柔道部の奇習(?)「カンナヨウセイ」といったコミカルな要素といい、適度に力の抜けた内容になっています。
徐々に真剣さが強調されていく後半にも、第8回というコメディ色が強い回があったりします。

スタッフ紹介

スタッフは、脚色の池谷雅夫さん、演出の吉田浩樹さんのコンビで、池谷さんは青春アドベンチャー初登場、吉田さんは名作「ふたり」以来久しぶりの青春アドベンチャー登場です。
硬軟取り混ぜた脚色、演出です。

それにしてもこの作品、ここでお終いなのでしょうか。
あと2年分、描いてほしいなあ。


コメント

  1. コン より:

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    柔道のサークルに入るために大学に行ったってすごいですね。日本では大学よりサークルを優先して入ることってしばしばあるのでしょうか?まるで柔道をやるために大学を入ったような話に聞こえて本末転倒という感じがしました。
    正直、こういう格闘技を扱った話はラジオドラマ向きではないと思いますね。試合の様子を音だけで表現するのはやっぱり無理があります。緊迫とかそういうものが一切感じられません。そして試合の内容が短すぎます。

    「据えする」という誤字がありますね。修正お願いします。

  2. Hirokazu より:

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    「まるで柔道をやるために大学に入ったよう話に聞こえて」ではなく「柔道をやるために大学に入った」のです。
    しかもサークルではなく体育会系の運動部ですので、普通の学生が学問をするよりはるかに真剣だと思います。
    それが普通だとは思いませんが、そういう人もいるというだけの話だと思います。
    これは、別に日本に限った話ではなく、アメリカのカレッジスポーツなどは日本以上に人気ですし、イギリスのオックスフォードとケンブリッジの対抗戦の話などを聞いていると、文武両道というか、そもそも大学は学問だけしてればいい場ではないというのが、むしろ世界標準の考え方なのかもしれません。
    ただ、この作品の舞台はマイナー過ぎますね。
    格闘技でもボクシングなどであればラジオドラマ向きかも知れませんが、さすがに寝技主体では…

    誤字のご指摘はありがとうございます。
    修正しておきます。

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