珊瑚の島の夢 作:伊佐治弥生(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 珊瑚の島の夢
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2011年8月1日~8月5日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 作  : 伊佐治弥生
  • 演出 : 佐藤譲
  • 主演 : 黒川芽以

就職活動でのストレスから、体調が悪くなり1か月以上入院中のユキコ。
自らに対する不甲斐なさに加え、同室のおばあさん達の会話の煩わしさもあり、ストレスは溜まる一方だ。
ある日、彼女はふとした切っ掛けで珊瑚のかけらを手に入れる。
そして、その珊瑚のかけらを持って眠ると、楽園のような南国の島を舞台にした夢を見るようになる。
夢の中でユキコは、南海子(なみこ)・珠子(たまこ)・マリーという三人の少女と出会い、彼女たちや南海子の家族と共に、心癒される生活を送るのだ。
しかしユキコは次第に、この夢に出てくる島がおとぎ話にでてくるような架空の場所ではなく、現代のどこかに実際に存在する場所でもなく、太平洋戦争前のサイパンであることに気がついていく。


伊佐治弥生さん作のオリジナル脚本のラジオドラマです。
2013年2月に放送された脚本家競作の短編シリーズ「新・動物園物語」で、伊佐治さんが第1話と最終話を担当されていた関係で取り上げてみました。

数少ない複数オリジナル脚本作家

こちらの記事でまとめたように、青春アドベンチャーでは小説等を原作とする作品が多く、1週間又は2週間単位で放送される長編のオリジナル作品は年1~2作品程度です。
そのため、オリジナルの長編が複数取り上げられた脚本家さんはごく僅かです。
このような状況で、伊佐治さんは本作と「オーバー・ザ・ハポン」の2作が取り上げれているめずらしい脚本家さんです(もちろんFMシアターなど他の番組でも多数取り上げられています)。

全5回の内容

さて、本作は全5話と比較的短い作品で、各話に以下のサブタイトルが付いています。

  1. かみさまの洞窟
  2. 満月の祝福
  3. 南洋の東京
  4. あめりか丸
  5. 玉砕の島

青春アドベンチャーの標準フォーマットは全10話(15分×10話)であり、全5話(15分×5話)の作品は短い部類に入ります。
そのため、原作付きの作品だと上手く原作の内容を消化しきれないことが多いのですが、本作はさすがにオリジナル脚本だけあり、情景描写のナレーションがダラダラと続くこともなく、ストーリーも短いながら起承転結をきちんと描ききっており、良くできた作品だと思います。

癒し作品ではなかった

ストーリーについては、冒頭の作品紹介と上記のサブタイトルを読めば何となく展開が読めてしまうと思います。
ちなみに、私はこのような予備知識が全くない状態で聴きました。
そのため最初は、「現代社会に疲れた女性が、優しい南の島でちょっと不思議な体験をして癒される」的な良くあるファンタジー作品だと思い、「期待できそうもないなあ」と思いながら聴いていたので、実際はタイムトラベルSFに近い展開になったのは嬉しい誤算でした。
とはいえ、展開はともかく「サイエンス」の要素が全くないことから、ジャンルは「SF」ではなく「タイムトラベル」としています。

ユキコ、無知すぎ?

本作を聴いてちょっと気になったのが、特別に頑張って(しかも医学部に行けるくらい優秀だった姉を差し置いて)大学に入ったはずのユキコが、サイパンが戦前、日本の統治下(正確には委任統治)にあったことを知らなかったこと。
最初は気がついていないだけだと思っていたのですが、どうも本当に知らなかったという設定のようです。
バンザイクリフを知らないということはあり得るかもしれませんが、さすがに大学生が戦前の日本が南洋に植民地を持っていたことを知らないというのは、いくら何でもないでしょう。

夏に放送する意義

それとも、ひょっとして今の若者は本当に知らないのかな。
確かに私も既に親の世代が戦争を語れる世代ではなく、戦争に関連する体験を聞いたのは主として祖父母世代からでした。
今の子供達はそれすら難しいのかも知れません。
身内の実体験と結びつかないと、歴史で習ったとしてもなかなか現実として覚えられないのかも知れませんし、耳障りの良いことだけを言う人たちを信じてしまうのかも知れません。
そういう意味でこのような作品を現代に流す意義があるのかも知れないと思いました。
とはいえ、この話って結末だけ見ると、ユキコが就職活動のストレスから立ち直るだけの話とも言えるんですよね。
そんなに堅苦しく聴かなくても良いのかも知れません。

主演は黒川芽以さん

主役のユキコ役は女優の黒川芽以さん。
青春アドベンチャーでは本作の他に「G戦場ヘヴンズドア」や「僕たちの戦争」、「ゼンダ城の虜」など多くの作品に出演されています。


NHKらしい、終戦記念日前後に放送された「戦争を考える」系統の青春アドベンチャー作品の一覧はこちらです。


コメント

  1. コン より:

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    Hirokazuさんお久しぶりです。

    「ふとした切欠」ではなく「ふとした切っ掛け」ではないでしょうか。
    私の好きなタイムトラベル作品ですね。このラジオドラマを聴いてサイパン島で起きた悲劇を知りました。日本人居留民たちがバンザイクリフやスーサイドクリフから海に飛び込み自決するシーンの描写が足りてなかったと思います。戦争による緊迫した雰囲気があまり伝わってこなかったですね。だから5話構成ではなく、10話構成にしてほしかったです。
    とは言え、バイノーラル録音なのでヘッドフォンで聴くと臨場感を味わえるし、主人公が歴史を変えてしまうのではとハラハラドキドキしながら聴きました。これがタイムトラベル作品の醍醐味ですよね。

  2. Hirokazu より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コン様

    ご無沙汰しております。
    ご指摘ありがとうございます。
    修正させていただきます。

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