近藤史恵さん原作「昨日の海は」の真相を妄想で勝手に補足する企画。真犯人は「○○の○」?

作品紹介の補足

【ラジオドラマのストーリーを勝手に裏読みする企画・第2弾。「昨日の海は」について妄想がたどり着いた結論は?】

最近、ランニング中にラジオドラマを聞き返すことが習慣になっています。
ランニングの時間は、短いときで30分くらい、長いときは1時間半くらい。
これだけ長い時間となると、音楽だと何度も同じ曲を聞くことになり、いい加減飽きてくるんですよね。
その点、放送時間が長いラジオドラマはちょうど良いのです。

妄想垂れ流し企画第2弾

ただ、一種の催眠状態(ハイウェイ・ヒプノーシス?)になるのか、ランニングで変なホルモンが出ているのかよくわかりませんが、余計なことも考えてしまうのも事実。
深読みをも超えた、もはや妄想としかいえないような想像をしてしまうこともあります。
今回の記事はそんなランニング中の妄想を記事にしたものです。
以前、「冷凍人間の復活」でも深読みを拗らせた真相(?)の記事を書きましたが、その記事と同様、あくまでお遊びとしてご笑覧いただけましたら幸いです。

今回のお遊びタネは「昨日の海は」

さて、今回取り上げる作品は、近藤史恵さん原作の「昨日の海は」(2016年1月初出)。
まずはストーリーの概要をご紹介します。
別記事の冒頭に書いた粗筋をお読みの上、以下にお進みください。
なお、完全にネタバレですので、お覚悟のある方以外はこの記事を読むのはここまでにしてください。

祖父母の心中事件の直前に、誰かを背負って歩く人間が目撃されていた。
つまり祖父母は心中ではなく、どちらかがどちらかを殺したうえで、残った一方が自殺した無理心中だったらしい。
となると、祖父母のどちらかが相手を殺し、娘たちを捨てて自殺したことになる。
では殺したのは祖父・高郷庸平と祖母・華子のどちらなのか。そして、なぜ殺したのか。
カギとなるのは心中事件の直前に計画され、開催できなかった東京での祖父・庸平の写真展。
当初、写真展の開催に失敗し借金を背負ったことを苦にした庸平が犯人とも、庸平の写真のモデルとなってヌード写真を世間にさらすことを嫌がった祖母・華子が犯人とも思われた。
しかし、光介がたどり着いた結論は、実は写真展に展示される写真のモデルとなっていたのは光介の母の夢(ゆめ)であり、自分がさらし者になることは耐えられても娘を同じ境遇にすることは耐えられなかった華子が苦肉の策として犯した行動であるということ。
子どもを見捨てた思われていた華子は、実は子供のことを思うからこそ犯罪を犯していた。
そして庸平が愛するものしか写真に撮らない写真家である以上、庸平もまた娘たちを愛していた。
そういった真実を知り、光介はひとつ成長した。

登場人物の言動には「嘘」がある?

といったところでしょうか。
実際のラジオドラマでは結末がややわかりづらかったため原作小説まで読んだのですが、正直、少し前なので、詳細は忘れてしまいました。
ただ、概ね上記のような真相だったと思います。
これはこれで納得していたのですが、再聴していて実は主要な登場人物にはそれぞれ、作中で開示されていない「嘘」、「嘘」というのが言い過ぎなら「黙っていること」があるのではないかと思うに至りました。

きっかけは小城氏の言葉

そのきっかけとして、最初に違和感を覚えたのが、光介が真相を探るために訪れた東京の「目黒フォトミュージアム」の小城氏の言葉。
小城氏は、写真展で展示する写真のモデルが誰かは知らなかったと言っている一方で「もしこの個展が実現していたら転機になる写真展になったと思いますよ」と最大級の賛辞を贈っています。
彼は祖父・庸平を良く知っており、祖母・華子が祖父の唯一のミューズ(女神)であったことも知っていますので、写真展の写真で初めて違うモデルを使ったことに相当、驚いたはずです(それが「転換点」という言葉に結び付いていると想定される)。
そのため、モデルが祖母・華子でなかったことを忘れているとはとても思えません(実際、写真展自体については昨日のことのように覚えていると言っている)。
となると、写真のモデルを本当は覚えていたのに、光介には黙っていた。
これがまず最初の「黙っていること」です。
ただし、これはひょっとしたら小城氏に対して、光介が身分を隠していたことが裏目に出たのかもしれません。
身内と知っていれば話してくれた可能性もありますね。

芹か夢か

では、なぜ彼は黙っていたのか。
これはやはり誰かに口止めされていたと考えるのが自然でしょう。
となると、口止めしたのは誰か、ということ。
事の性格からすると、それは身内しかありえません。
となると、芹(せり)おばさんか母親の夢(ゆめ)のどちらか。
なにせ身寄りのない姉妹ですので、どちらかしかいないのです。
ではどちらかというと、目黒という立地を考えると、両親の死後すぐに東京に出てきて、以降、長い間、東京で暮らしていた芹おばさんと考えるのが自然です。
当時、夢はまだ高校生でしたし、活動的な芹と比較する比較的おっとりとした性格として描かれていますので、東京までひとりで出てきてミュージアムの人と交渉して、口止めをするとは思えません。
一方、芹は、光介が親に黙って東京に行ったということを聞いてすぐに光介の本当の目的に気が付きました。
これは彼女自身が目黒フォトミュージアムに赴いたことがあるからだと考えれば納得できます。
よって芹の「黙っていたこと」は過去に目黒フォトミュージアムで写真展の真相を聴き、それを口止めした、ということです。

夢の怯え

さて、口止めしたのが芹だったとしても、夢も光介が親に黙って東京に行ったという段階で目黒フォトミュージアムへ行った可能性に気付いたのではないかと思います。
というのも、光介が親に黙って東京に行ったことを知った時の夢の反応が異常だからです。
確かに親に黙って遠出をするのは良くないでしょう。
でも、光介だって高校生の男の子です。
作中で光介はかなりの進学校に通っていると描写されている、しっかりした少年です。
性格的にもごく素直で心根も優しく、実際、親子間には相当の信頼関係があるようにも見えます。
それなのに、帰ってくるなり学校へ行く以外すべての外出を無期限で禁止…って厳しすぎないですか。
光介の思わぬ行動力に夢が心底怯えている様子が見えます。

夢は知っていた?

ところでここで一つの疑問が湧きます。
物語中盤の芹が写真を焼きながら泣いているシーン。
芹が真相をとうの昔に知っていたのであれば今更、アレはないはずです。
あのシーンを素直に解釈すると、芹はあの時初めて真相を知ったことになります。
ここに矛盾が生じるわけですが、「芹は写真集のモデルが母(華子)ではないことは知っていたものの、それが夢とは思っていなかった(自分だと思っていた)」と考えればこの矛盾は解けます。
しかし、開かれなかった写真展の図録は、写真展中止直後に磯ノ森へ送られたことになっていますので、芹がそれをみていれば、はるか昔に芹はモデルが夢であることに気が付いていたはずです。
それができていないということは、芹は図録を見ていない、ということになります。
つまり、図録を処分したのは夢です。
夢こそすべての真相を知っていながら、芹に告げていなかった張本人です。
これが夢の「黙っていたこと」です。

芹の涙の理由

さて、ここでもう一度、芹の泣いた意味を考えてみましょう。
芹はどんな感情に突き動かされて泣いたのか。
妹・夢がひとりで抱えてきた苦しみを思って泣いた?
いやいや、それだけではないでしょう。
芹はその時まで写真展の写真のモデルは自分だと思っていたことになります。
となると、「母は自分を守るために殺人を犯したと思っていたのに、実は妹を守るためだった?」
「父は自分に隠れて自分だけではなく妹もモデルにしていた?」
「しかも、写真展の題材として、自分ではなく妹をモデルとして選んだ?」
「憧れて写真に興味を持つほど父が大好きだった私を差し置いて父が選んだのは、写真に興味もなく、容姿もパっとしない妹?」(実際は夢も芹と同様美人という設定です。夢の方が華やかさには欠けているのかも知れませんが)
そんなドロドロした感情が渦巻いての涙だったのではないでしょうか。
そしてそんなドロドロした感情を当時の母(華子)の感情にまで敷衍してみた芹は、そもそも華子が康平を殺した動機も娘を守るためというより、娘ふたりを慰み者とする(モデルになることを心底嫌っていた華子にはそう見えたでしょう)夫・康平への憎悪あるいは自分から康平を奪った娘ふたりへの嫉妬だったのではないか、そこまで考えたのかもしれません。
どうも本作品の爽やかな読後感を穢すようなことを書いてしまいました。
ファンの皆さん、すみません。

犯人は華子!…ではない?

……と、いうことで妄想は終わるのかと思ったのですが、この結論だとどうしてもいくつか違和感が残るため、更なる妄想を重ねます。
まずは先ほど述べた、光介が黙って東京に行ったことへの夢の過剰反応。
「高校生男子の異常な行動力に対する恐れ」を感じざる得ません。
また、夢が芹の目に一切入らないように図録を処分してしまった件。
確かに自分と父・康平との関係(と書くと何だかいやらしいですが……?……ここを深堀りするのはやめましょう)を姉・芹に知られたくなったのだと思いますが、これもちょっと過剰です。
本作品の登場人物で、事実を最も隠避しようとしているのは夢のように見えます。
そして、通常、事実を最も隠ぺいしようとする者こそ「犯人」です。
となると三段論法でいれば、犯人は………

夢の本当の気持ち

改めて考えてみると、本作品では「心中事件」の真相として、①本当にふたりで死のうとした心中事件だった、②どちらかがどちらかを殺した無理心中だった、というふたつの仮説が示されているのですが、③誰か第三者がふたりを殺した殺人事件だった、という解はありえないのでしょうか。
祖母・華子の容姿は芹に色濃く受け継がれたようですが、内気な性格は夢に受け継がれたように思います。
となると夢も華子と同様にモデルになることを心底嫌がっており、父・庸平の頼みだからいやいや引き受けていたものと思われます。
つまり、夢には父・庸平を殺す動機があります。
そして娘の夢が夫・康平を殺したことを知った祖母・華子が自ら罪を背負って死を選んだ。
娘のために夫を殺すことより、娘をかばうために自死を選ぶことの方が母親にはありうるように思います。
つまり結論は、祖父・庸平を殺した犯人は祖母・華子ではなく、母・夢。
そして祖母・華子は娘の夢の罪を背負うために自殺した…というのはおかしいでしょうか?

真犯人には別にいる?

ただ、これではまだすべての違和感は払しょくできません。
気になるのは心中の際に「誰かが誰かを背負って海に向かった」という目撃証言。
華子にしろ、夢にしろ、女性が男性を背負って海まで運んでいくのは容易なことではありません。
体力のある第三者の介在を考えることは自然なことです。
ここで思い出されるのは夢の「男子高校生の異常な行動力に対する恐れ」です。
事件当時、この件に関係しそうな「男子高校生」といえば…
そう、光介の父・亮介です。
光介の父母は高校時代の同級生だと言及されています。
事件当時すでに付き合っていた可能性が高いとするならば、死体を運んだのは光介の父である亮介ではないのか。
いや、そもそも祖父・庸平を殺したのも、「自分の彼女」である夢の名誉を守るための行動だとしたら…
ずばり犯人は父・亮介なのではないでしょうか。
そう、主要登場人物の中でも、物語の核心に触れるセリフが最も少ない父・亮介こそ、最も重要なことを「黙っていた」のかも知れません。

すべて妄想です

以上すべて、ランニング中、エンドルフィンが出まくっていた?者による妄想であります。
そもそも中盤の写真を焼くシーンで芹おばさんが泣いていたのはラジオドラマオリジナルなので、そこに重きを置いて解釈するのは間違いなのかもしれません。
原作者の近藤史恵さん、そしてラジオドラマ制作者の皆様方、お気に触りましたらご容赦のほどよろしくお願いいたします。


(※)上の作品は「昨日の海は」を改題した文庫版です。

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