- 作品 : イッツ・ア・ビューティフルワールド
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : 幻想(日本/シリアス)
- 初出 : 2021年3月15日~3月26日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 作 : 今城文恵
- 音楽 : 関向弥生
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 美山加恋
人は死ぬと土に還る。
しかし、誰かを強く恨んで死んだ人間は不老不死の怪物となり復活する。
そして恨みを晴らすために執拗に恨んだ相手を付け狙う。
その怪物を「仇者」(アダモノ)という。
…が、そんなことはもちろん知っている。
仇者は有史以来、人類の歴史とともにあり多くの悲劇を生み出してきたからだ。
しかし一女子大生に過ぎない私は本当は何もわかっていなかった。
仇者とはどういう存在であるのか、そして仇者に付け狙われるということが、この社会においてどのような意味を持つのかということを。
どこまで続くのか、青春アドベンチャーのオリジナル脚本攻勢。
2021年、新年の「輪廻転Payうた絵巻」から続くオリジナル脚本ラジオドラマの第5弾がこの「イッツ・ア・ビューティフルワールド」です。
脚本を書かれたのは脚本家・演出家の今城文恵(いまぎ・ふみえ)さん。
青春アドベンチャーでは長編・短編、オリジナル・脚色を問わず、初めて起用された方だと思います。
ゾンビもの?
さて、冒頭の粗筋を読んで皆さん、本作品をどのような作品だと想像されましたか?
アンデットが登場するホラーないしSF作品を想像されたのではないでしょうか。
少なくとも私は公式ホームページの紹介を読んでそんな作品を想像しました。
イメージしたのは「高天原探題」あるいは「エド魔女奇譚」。
人に近いが人とは異なる不可思議な存在との闘いあるいは葛藤が描かれるSF作品又はアクション作品かと思ったのですが…全く違いました。
不思議なリアリティ
どちらかといえば「家守綺譚」に近いのかな。
作品世界における「仇者」は確かに凶暴で異形のゾンビではあるのですが、その世界に太古から当たり前に存在しているため、不思議な存在ではない。
となるとどうなるか。
仇者が社会で排斥されるのは当然として、仇者を生み出すような人間もまた「それほど強い恨みを持たれるような酷いことをした人間」として厄介者扱いされるようになる、というのは不思議なリアリティがあります。
また、仇者はあまりに長いこと人間社会に存在するため、単なる怪異ではなく社会の一部に組み込まれている(社会階層化している)という描写もわずかですがなされています。
そういった背景を踏まえ、主人公とその周りの人間(仇者含む)たちのごくパーソナルな描写が秀逸なのがこの作品の特徴です。
人間と人間社会の業
実際、ストーリーは仇者との戦いという方向に進むことは一切なく、かといって仇者とのお気楽な同居生活を描くほのぼの作品にも終わりません(そういう部分もありますが)。
仇者という「社会のよどみ」を一種の暗喩的に表現する存在を中心に据え、内気な女子大生の生活圏内だけでストーリーは進んでいきます。
と思うと突然、登場人物の過去編が始まり歴史上の人物が登場したり。
何とも形容の難しいファンタジーではあります。
個人的には現在日本を舞台にしたパーソナルなストーリー展開に終始するファンタジーはあまり好きではないのですが、描いているのが人間の欲や恨み、妬み、偏見、差別、といった「業」的なもので、日常系に堕していないことに好感が持てました。
なお、現実的な設定の中に大きな嘘を一つだけ組み込む、というのは作劇上のポイントとして良く語られるところですが、本作品では効果的に機能していると感じました。
まあ、あの設定だと、長期的には日本中、仇者だらけになってしまうんじゃないかあ~とも思いましたけどね。
美山加恋さんと毬谷友子さんに注目
さて、登場人物と出演者へと話を移しますと、ストーリーは主人公の江川葉月(演:美山加恋さん)、その友人の珠子(演:大後寿々花さん)、葉月を付け狙う仇者の梅原トシ(元人間なのでちゃんと名前はあります。演:毬谷友子さん)、そして謎の隣人・弥三郎(演:神農直隆さん)の4人を中心に、というか、ストーリー自体はこの4人だけでまわしていく形です。
このうち主人公の葉月を演じる美山加恋さんは最近の青春アドベンチャーのミューズと言ってもいい方。
とほぼ毎年主要な役で出演されています。
でも本作品の一番の聴きどころはやはり毬谷友子さんでしょう。
元宝塚女優で、「ピエタ」や「帝冠の恋」では上品な貴婦人役だった毬谷さんを不細工で、口もちゃんと回らない中年女役にキャスティングするなんて。
しかもそれが実にそれっぽく(みじめったらしく)き聞えるのが素敵です。
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