成吉思汗の秘密 原作:高木彬光(アドベンチャーロード)

格付:A
  • 作品 : 成吉思汗の秘密
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : 推理
  • 初出 : 1985年12月16日~12月27日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 高木彬光
  • 脚色 : 佐々木守
  • 演出 : 笹原紀昭
  • 主演 : 新克利

名探偵・神津恭介、病に倒れる!
衝撃的な知らせに友人の探偵作家・松下研三は慌てて病院に駆け付けたが、病気は盲腸で、命に別状はないとのこと。
ほっとするとともに普段多忙な神津を休養させるいい機会だと考えた松下だが、無聊を託つ神津は今にも退院してしまいそうだ。
そこで松下は一計を案じ、神津にあるゲームを提案する。
日本史最大のミステリー「源義経=ジンギスカン説」を神津の天才的な頭脳をもって病床にいながらにして解いてみたはどうかと提案したのだ。



名探偵+歴史ミステリー

「神津恭介」といえば、高木彬光さんの手により生み出された名探偵で、わが国では「明智小五郎」(江戸川乱歩)、「金田一耕助」(横溝正史)と並ぶ日本推理小説界を代表する存在です。
TVドラマ版で近藤正臣さんや村上弘明さんが神津を演じられていることから想像できるとおり、6か国語を解し、学生時代の論文で「神津の前に神津なく、神津の後に神津なし」と称された天才(という設定)で、「刺青殺人事件」解決後、東大医学部助教授をしながら警視庁の嘱託として数々の難事件を解決(という設定)。
やや人間味の薄い完璧型・天才型の探偵であり、彼の登場する小説もいわゆる本格派の推理小説が多いのですが、本作品「成吉思汗(ジンギスカン)の秘密」はその中ではやや異色。
目の前で起きた現実の事件を解決するのではなく、歴史文献と想像力を駆使して、いわゆる「歴史ミステリー」を解く作品なのです。

「源義経=ジンギスカン説」

同様の作品として後に高木さんは「邪馬台国の秘密」や「古代天皇の秘密」も書かれるのですが、この分野の嚆矢は、英国の女流作家ジョセフィン・テイの遺作「時の娘」で、これは現代の警官がリチャード3世の犯罪を解明するものでした。
一方、日本の作家である高木彬光さんが自ら生み出した名探偵・神津恭介を使って解こうとしたのはいわゆる「義経北行伝説」そして「義経=ジンギスカン説」。
源義経は通説のとおり平泉で横死することはなく、北海道を経由して大陸に渡りジンギスカン(チンギス・ハン)になった、というアレです。
青春アドベンチャーではこの作品でも取り上げていますね。
実際、東北や北海道の各所には源義経が落ちのびたという伝承が残っているとされ(逃亡中に寺社を建立したり、子どもを作ったり随分のんびりしている気もしますが…)、シーボルトの「蝦夷志」に取りあげられたり、明治時代に小谷部全一郎著の「成吉思汗ハ源義經也」がベストセラーになったこともあり、明治時代の知識人は「そのうちジンギスカンの墓が見つかれな決定的な証拠が出てくるだろう」くらいに信じていたと聞きます。
現代では歴史学的には根拠がないと退けられている説ですが、浪漫はありますよね。
ただ、(本作の中でも触れられていますが)この類の話は、日本政府が対外進出を企図した時期に国民の関心を海外に向けさせるために政治的に利用されたというきな臭い側面もあるようです(「源為朝=琉球王朝始祖説」なども同様)。

ミステリーは解明される?

さて、随分と脱線してしましましたが、本作品は名探偵・神津恭介が、その友人松下研三や、東大文学部井村研究室の助手、大麻鎮子とともに、「義経=ジンギスカン説」を「捜索」していく内容です。
捜索といっても、神津は病巣にありますので資料を運んだり取材に飛び回るのはあくまで松下と大麻。
神津自身はその頭脳を駆使し、資料等の傍証から推理していくだけの展開です。
これではあまりに地味すぎるからでしょうか、本作品ではこのメインの流れのほかに、同じ俳優が役を変えて演じる、原作にはない「ジンギスカンパート」や「源義経パート」が間に挟まりつつ進んでいきます。
この辺、原作とは構成を大きく変えている訳ですが、その他にも細かい点までちょこちょこと改変がはいっており(冒頭、松下が出張している先が関西から九州に変わっていたり、本能寺の変に関する推測が変わっていたり…)、かなり脚本家の佐々木守さんが自由にやっている印象です。
ただ大きな話としては改変のしようもなく、後半は神津の推理の積み重ねにより、徐々に義経=ジンギスカン説が真実味を帯びてくる…といいたいところなのですが、正直、第8回以降の井村教授の反論の切れ味が鋭すぎて、むしろ「神津敗北!」という印象が残ってしまうという、どうにも不思議な幕切れでした。

「源行家=ジンギスカン説」

さて、本作品において、神津恭介=ジンギスカン=源義経の3役を演じたのは俳優の新克利(あらた・かつとし)さん。
誠実なイメージの役が多かった新さんですが、NHK新大型時代劇「武蔵坊弁慶」で演じた義経の叔父の新宮十郎行家はかなりうさん臭い役どころでした。
一方、松下研三役のほか、ジンギスカンパートや義経パートでも武蔵坊弁慶などの重要な役を演じていたのは勝部演之さん。
また、各パートのヒロインを演じていたのは鈴木弘子さん。
このおふたりは洋画吹き替えで有名な方々ですね。
また、ナレーションは玄田哲章さんが担当されています。

全般に漂う昭和感

最後に、今になって聞いてみてどうしても感じざるを得ないのは本作品における女性観の古さ。
静御前(義経の愛妾)やボルテ(ジンギスカンの正妻)といった時代が異なるの女性の描き方が従来のイメージどおりなのは致し方ないと思います。
しかし、数十年前とは言え現代日本に生きている女性たち、東大の研究室で助手をしている大麻の言動や津田塾出身という研三の妻の(特に原作における)扱いが、いかにも女性の社会進出が一般化する直前、という感を受けました。
まあ丁寧なしゃべり方自体は嫌いではないのですけどね。

是非ご協力を

また最後の最後なのですが、本作品、聴くことができたのは第2回・第3回以外の回のみ。
しかもかなり音質の悪い音源でした。
かなり古い作品なので聴くことができるだけでもラッキーではあるのですが、やはり綺麗な音源で全回聞きたいもの。
もし音源をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非お聞かせください。

【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
演出作品はこちらに一覧を作っています。



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