「日本の川を旅する」から カヌー野郎のロンリーツアー 原作:野田知佑(ふたりの部屋)

格付:AA
  • 作品 : 「日本の川を旅する」から カヌー野郎のロンリーツアー
  • 番組 : ふたりの部屋
  • 格付 : AA
  • 分類 : 旅とグルメ
  • 初出 : 1982年7月12日~7月23日(推定)
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 野田知佑
  • 構成 : 倉内均
  • 演出 : (不明)
  • 主演 : 草野大悟

本作品「『日本の川を旅する』から カヌー野郎のロンリーツアー」は、日本のリバーカヤックツーリングのパイオニア・野田知佑さんの代表作「日本の川を旅する」をラジオドラマ風に構成した作品です。
野田さんは椎名誠さんやC・W・ニコルさんとも親しく、カヌーなどに関する著作も多い、その筋では有名な方なのだそうです。
なお、本作品も「ラジオドラマ風の構成」といっても、ノンフェクションである野田さんの原作本の雰囲気を生かし、過度な演出はしていません。
本作品は「脚色」のクレジットがなく、「くらうちひとし」さん(恐らく倉内均さん)が「構成」として紹介されているのですが、それが頷ける作品です。


カヌーやってみようかな…

さて、本作品は、NHK-FMのノンフェクション的なドラマの中でも出色の出来だと思います。
というのも、本作品のような紀行文的な要素が強い作品はやはり読者・リスナーに「行ってみたい! やってみたい!」と思わせてこそ、出来が良い作品といえると思うのですが、その点で、本作品はすばらしい。
私のようなインドア派の人間ですら、「カヌーで川下りっていいんじゃない?」と思わせられる魅力のある作品です。

自然な音、自然な交流

組み立て式のカヌーとわずかな道具だけを持ち込んで川を下る。
時には川に潜って魚を取り、時には鳥の声に耳を澄ませる。
行きあった田舎の人々と自然な交流が生まれ、そして時には自然と人間との関係についての深い思索に沈む。
川ごとに違う景色、違う人情。
こちらのページ(外部リンク)によれば、NHKはこの作品のためにカヌーのロール音や川の音を録音したそうな。
気合が入っている。
特に第8回の球磨川、第10回の四万十川などは切実に行ってみたいと思いました。
まあ実際にはカヌーで漕ぎ出すことはできないのでしょうけど。

各回の概要

さて、本作品は1回ごとに一つの川を下っていく様子が描かれます。
各回で取り上げた川とそれについての一言は以下のとおりです。
概ね北から南に移っていきます。

  1. 釧路川
    北海道の大自然とともに川下り。
    船を下りて牛乳を買いに行き釧路湿原を横断。
    現実の荒野はまずかゆい所、といった発言が生々しい。
  2. 北上川
    北上川は鳥が多く水が美しい川。
    北上川流域が夜這いの本家というのは本当か?
    エスキモーロール、いも煮などの話題もあり。
  3. 雄物川
    東北編第二弾。
    野田さんは7・8回もテントの水没を経験しているらしい。
    この辺を考えるとこのブログでのジャンルは「冒険(秘境漂流)」でもよいのかも知れない。
  4. 信濃川
    日本最長の川で途中で何度も名前が変わる。
    千曲川も信濃川の一部であることをすっかり忘れていた。
    カヌーでは、鳥を見たり水に潜ったりといった寄り道をしながら毎日20~30kmをゆっくりと下るらしい。
  5. 多摩川
    野田さん曰く「多摩川は日本で一番危険な川」。
    コメディ的な要素が強い異色の回で結構笑ってしまったが、実は風刺色が強い回でもある。
    「多摩川名物、釣り人との楽しき交流」。
  6. 長良川
    日本で最も豪快な鮎釣りができる川。
    この回で取り上げられている長良川河口堰は結局、1994年に竣工。
    でも様々な議論を呼び、環境問題の進歩の大きなきっかけとなったよう。
  7. 吉井川
    本作で「下水のような」とまで酷評されている。
    さらに「日本の川を行くのは悲しい。それは失われたものの挽歌を聞くようなものだから」と、日本の川のある種の象徴とまでされている。
    本作から30年経った今では少しは綺麗になっているのだろうか。
  8. 球磨川
    野田さんの郷里の急流の川。
    魚は手づかみで採るのが一番スリリングな採り方らしい。すごい。
    球磨川の川下りが一番で、それに次ぐのが天竜川・木曽川とのこと。
  9. 川内川
    カヌーイストと雨との関係に関する話題が面白い。
    九州の男尊女卑とは女性が男性を操るための手段らしい。
    それにしてもこの回の薩摩弁はさっぱりわからない。
  10. 四万十川
    待ってました!「日本最後の清流」。
    四万十川の水は海に出るまで澄んでいる。
    「よさこい」とは「今夜のみに来い」という意味らしい。
    「老人ばかりの桃源郷」とは今となっては洒落にもならないかも。
    なお、四万十川つながりでFMシアター枠で放送された「交響詩・うるんだ美女~四万十川をさかのぼる」も紹介しています。

方言もいい味

いずれの回も、川下りの途中で出会った地元の人々との交流が描かれ、彼らは当然ながら各々の方言で語りかけてきます。
この辺も雰囲気がでて、とても良いつくりです。

あれから30年

なお、作中、特に中盤(要は日本の中心に近い位置の川の回)で、川の汚染やダム問題がしきりに取り上げられます。
考えてみれば、本作品の原作が出版され、ラジオドラマ作品が放送された1980年代初頭は、日本の川が最も汚れ、一方で生態系の保存にはまだ関心が低かった時代。
今は少しは水質も良くなったのではないかと思いますが、本質的な問題はあまり解決していないようにも感じます。
2015年現在77歳の野田さんが、今、同じ川を下ったらどんな紀行文を書いてくれるのでしょうか(追記に注)。

草野大悟さん主演

最後に、出演者を紹介すると、本作品で野田さんを演じるのは早世された俳優の草野大悟さん(世紀の大冒険レース脱獄山脈)。
その他、今福将雄さん(ぼくは勉強ができない)、山谷初男さん、今井和子さん、千石規子さんなど、実に渋い面々です。

なかなか気持ちの良い作品

ふたりの部屋」は以前紹介した「さらば国分寺書店のオババ」などエッセイ風の作品も多かったようですが、この種の作品、わたしはあまり得意ではありません。
ただ本作品は俳優陣の落ち着いた演技といい、本格的な効果音といい、パッと目を(耳と?)引く派手さはありませんが、なかなかの良作だと思います。


※2020/3/30追記
本作品の原作者である野田友佑さんが27日、84歳で亡くなられたそうです。
ご冥福をお祈り申し上げます。

コメント

  1. Arnold より:

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    A louely travel of a canoemanかぬ

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