面影 作:兵藤るり(FMシアター)

格付:AA
  • 作品 : 面影
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : AA
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 2022年4月16日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 兵藤るり
  • 音楽 : 池永正二
  • 演出 : 原英輔
  • 主演 : 坂井真紀

私の娘は7歳で亡くなった。ほんの一瞬のことだった。
あれから10年。
勤務する特別収容生物研究所に送られてきた新しい怪物の姿を見た瞬間、息が止まった。
怪物に娘の面影がある。
生きて17歳になっていれば、そうなったであろう成長した娘の面影が。



本作品「面影」は脚本家・兵藤るりさんによるオリジナル脚本のオーディオドラマでFMシアターで放送されました。

長編初紹介

兵藤るりさんは東京藝大の脚本領域を修了されている方で2021年の第49回創作ラジオドラマ大賞で佳作を受賞(FMシアター「名もがりの町」)されていますが、活動開始自体が2020年ごろという新しい脚本家さんです。
すでにNHK-FMのオーディオドラマでは何本もの脚本を書かれていますが、本ブログで紹介しているのは「かおる、ストーリーボックス」の中の「二人のかおり」だけで、長編は初めてです。
なお、当ブログ実施の2022年のFMシアターの「FMシアターで脚本を書いて欲しい脚本家」アンケートで1位(4票)を取られています。

SFなのか?

さて、本作品はいきなり、幼い娘を亡くした母親の独白からスタートします。
FMシアターお得意の家族ものかな?と思って聴いていると、少し雰囲気が違う。
「特別収容生物研究所」という物々しい組織名は「巨大不明生物特設災害対策本部」(通称「巨災対」)や「不可識存在問題対処専門委員会」(通称「高天原探題」)を連想させますし、池永正二さんの音楽や常に声にエコーが掛かっている音響表現(収容施設の閉鎖空間を表現している様子)なども含めてどことなくSF的なのです。

科学的根拠の説明は一切ない

ただ本作品がSFかというとそれは違う。
SFとは起こる出来ごとについて科学的な(例えなんちゃって科学だとしても)説明がなされればこそのもの。
本作品では怪物や変異種の正体も舞台背景も一切が語られません。
語ろうとする、あるいは聞き手にそれらを想像させようとする気配すらない。

ストーリーも苦しい

また、ストーリー展開にも無理やご都合主義が感じられます(95%が変異種ってどういう状況?未確認生物の担当官の主たる仕事が食事の提供ってストーリーの都合でしょ?いくらなんでも彼女に赤いボタンを押させるのは無理過ぎない?等々)
設定房ならば全く納得できない構成ですが、本作品の本質はそこにはない。
ではなにが本作品の本質なのか?

説明が難しい

…わかりません。
正直、聞き終えた今も本作品のストーリーやテーマを上手く整理できないし、自分の感情もうまく説明できない。
なにせ子供を亡くした親の話ですからひたすら暗い話ではありますが、救いがないわけではない。
坂井真紀さんの押し殺した演技は印象的ですが無理に感動させようとする作品でもない。
顛末に納得しつつ納得できない。心には残るけど激情に襲われるわけではない。すっきりしたわけではないけどこれで十分とも感じる。
惹きつけられるけど説明が難しい作品です。
まあ聴いてのお楽しみとしか言いようがありません。
ほとんど感想ブログとしての役割を放棄していますね…

「私の運命」

さて本作品で主役の山本右子を演じるのは女優の坂井真紀さん。
終盤以外は常に疲れたように短めに話す役なのですが、その短いセリフのなかで表現される微妙な感情の揺れが本作品の聴きどころです。
そして右子の元夫を演じるのは俳優の東幹久さん。
本ブログでは「鷲は舞い降りた」や「風の向こうへ駆け抜けろ」、「査察機長」でお馴染みですが本作品はやはり子を亡くした父親なので言葉は少なめ(それでも右子にはプレッシャーのようですが)。
この坂井さんと東さんといえば1994年のTBSドラマ「私の運命」でも夫婦役を演じたおふたり。
そういえば「私の運命」の坂井さんもいかにも薄幸そうな役だったなあ。
これは狙ったキャスティングなのかもしれません。
ちなみに坂井さんのTwitterによればなんとその時以来のご共演なのだそうです。

16歳の女優さん

また、毒を吐くという正体不明の怪物(外見は少女風、というか作中の描写では毒があるだけで普通の人間にしか思えない…)である「異(こと)」を演じるのは女優の田畑志真(しま)さん。
本作品出演時16歳!
凄くうまくはないのかもしれませんが、少し不器用に話す様子が却って自然に感じました。

推して大丈夫?

さて、という訳で推したいけど、本当に推して良いの自分でもよく分からないこの作品。
2022年のリスナーアンケートで上位に入ったところを見るとどうも割と推して大丈夫みたいです。
ただ暗い話なのでね。
嫌いな方はご注意です。


(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2022年のFMシアターリスナー人気投票で第3位の得票(7票)を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。



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