金春屋ゴメス 原作:西條奈加(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 金春屋ゴメス
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : アクション(国内)
  • 初出 : 2006年6月19日~6月30日
  • 各回 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 西條奈加
  • 脚色 : 入山さと子
  • 演出 : 川野秀昭
  • 主演 : 高橋一生

21世紀初頭、北関東に金持ちが道楽でつくった老人タウン。
それが全ての始まりだった。
江戸時代を模したその街はロハスな風潮を受けて急速に人気が高まり、21世紀中頃には人口700万人を要する独立国「江戸国」として日本から独立を果たしてしまった。
人々が江戸時代と同じ文化・風俗で暮らす江戸国はまた、江戸時代と同様に鎖国を続けている国でもあった。
そのため、隣国日本からでさえも、江戸国へ入国するのは容易なことではない。
しかし、日本の大学生・辰次郎(しんじろう)は1回の申請であっさりと入国を許可される。
辰次郎の入国の目的は、余命幾ばくもない父の代わりに父の思い出の地に行くこと。
辰次郎の父は以前、江戸国に住んでいたことがあるのだ。
しかし江戸国に入国した辰次郎は自分自身も江戸国の生まれであることを知る。
実は辰次郎には小学校入学以前の記憶が全くないのだ。
辰次郎にはなぜ記憶がないのか…
そもそもなぜこんなに容易に江戸国に入国できたのか…
辰次郎の江戸入りには辰次郎自身も知らない真の目的があったのだ。



西條奈加さんの日本ファンタジーノベル大賞を受賞した小説が原作のラジオドラマです。
青春アドベンチャーでは日本ファンタジーノベル大賞の大賞又は優秀賞の受賞作家を積極的に取り上げています。
今まで本ブログで取り上げた作品に関しては「幻想郵便局」の堀川アサコさんと、「有頂天家族」の森見登美彦さんが、この賞の出身者です。

さすが大賞受賞作

しかし、大賞受賞作自体を原作とする作品を取り上げるのは本作品が初めて。
さすがに迫力が違います。
正直言いまして、私が初めて第1話を聴いた時の素直な感想は「なんじゃこりゃー」。
多種多様な作品が受賞しているファンタジーノベル大賞らしい、奇妙奇天烈な話です。
21世紀に、しかも超自然現象としてではなく現実の存在として成立している「江戸」。
この舞台設定自体も奇抜ですが、作品タイトルにもなっている「ゴメス親分」こと、長崎奉行・馬込寿々(ま「ごめす」ず)の、ほとんど超自然的とすらいえる圧倒的な存在感(立派な人間の女性です)が凄い。

「プリンセス・トヨトミ」と比較

そういえば「現代が舞台で、日本列島にもうひとつの国家が存在する」という設定の作品としては、以前、万城目学さんの「プリンセス・トヨトミ」を紹介しました。
「プリンセス・トヨトミ」では「大阪国」、「金春屋ゴメス」では「江戸国」。
面白い対照ですね。
作品内容は全然違いますが、双方共に何か譲れないものがあって「独立」したという点では同じです。
個人的には日本政府の資金を横流ししてこっそり運営している大阪国より、自らの国の限界を受け入れ堂々と鎖国している「江戸国」の方が潔い感じを受けました。

それでいいのか

しかし一方で、「江戸国」が飢饉、疫病等を運命として受け入れ過ぎている点には素直には共感できない部分もありました。
本作の黒幕達がやったことは一種のテロ行為であり到底、許されるものではないのですが、とにかく自然のままがよい、という考え方は少し危険な臭いがします。
まあ、本作はファンタジーなのであまり目くじらを立てるところではないのかも知れませんし、本作の描き方はそれなりにバランスが取れているとは思います。

鬼赤痢、という設定

さて、ストーリーは江戸国で15年ぶりに流行の気配を示している「鬼赤痢」(おにせきり)という奇病を巡るサスペンスとして展開していきます。
15年前の鬼赤痢の流行の際に辰次郎に何があったのか。
徐々に失われた記憶を思い出していく辰次郎の身に危険が迫ります。
終盤、やや展開が速くて付いていくのが大変ですが、最終的に鬼赤痢を巡る事件の真相と辰次郎の過去の謎が綺麗に解き明かされていくのはなかなか見事です。

疫病のSF的解釈

少し横道にそれますが、本作品と同じように病気を作品世界の重要なファクターとして取り入れている作品としては、よしながふみさんの漫画「大奥」や、小川一水さんの小説「天冥の標」が思いつきます(「天冥の標」についてはこちらの記事で紹介しています)。
前者は「赤面疱瘡」(あかづらほうそう)という伝染病により極端に男性が少なくなってしまった江戸時代、後者は「冥王斑」(めいおうはん)という伝染病により隔離された患者群がつくった特殊な社会が存在する未来が舞台になっています。
「天冥の標」はもともとSF作品なのですが、本作「金春屋ゴメス」や「大奥」といったファンタジーや時代モノであっても、病原体を世界観構築の重要要素にするだけでSF的な味付けをすることができ、奇妙なリアリティがでてくるのが不思議なところです。

科学的裏付けと音響等の効果

本作も一見荒唐無稽なファンタジー調の話ですが、根本には科学的な裏付けがあり、それによる奇妙なリアリティが作品を面白くしている原因だと思います。
そして特に本ラジオドラマでは江戸時代の雰囲気を感じさせる効果音やBGMが効果的に使われており、これもなかなか良い雰囲気です。
本作品、最初はとても理解しがたい話かと思いましたが、思った以上に楽しめた作品でした。

主演は高橋一生さん

出演は主役の辰次郎役を俳優の高橋一生さん。
やる気のない前半の辰次郎と、自らの役割に目覚めて積極的に行動をする後半の辰次郎をなかなか巧みに演じています。
そして怪人?ゴメス親分を演じるのは女優の余貴美子さん。
ゴメスという行動も話し方も非常に癖のある役をケレンミたっぷりに演じています。
また、ヒロイン?の奈美役の渋谷琴乃さんは「天使のリール」では主役の潮里を演じています。

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