- 作品 : タランの白鳥
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : 幻想(海外)
- 初出 : 2015年12月14日~12月18日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 神沢利子
- 脚色 : 長田育恵
- 音楽 : 日高哲英
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 海宝直人
「お前さんは、どこから来なさった?」
オホーツク海に浮かぶ北の島。
雪吹を避けるために寄させてもらった炉端で老婆が語り始める。
「何か話をしてあげよう。この村に伝わる話。オルドンの息子モコトルの物語。モコトルは神と戦い、白鳥に愛された…」
本ラジオドラマ放送時点で91歳(1924年生まれ)。
日本児童文学界の長老のひとりでもある神沢利子さんの児童文学作品を原作とするラジオドラマが、この「タランの白鳥」です。
産経児童出版文化賞から
多くの文学賞を受賞している神沢さんですが、この「タランの白鳥」の原作も1990年に産経児童出版文化賞の大賞を受賞している作品です。
なお、この賞の大賞受賞作が青春アドベンチャーでラジオドラマ化されるのは初めてですが、他の賞や推薦作であれば採用例は多く、「風神秘抄」(JR賞)、「精霊の守り人」(ニッポン放送賞)、「カラフル」・「穴(HOLES)」・「スーツケース・キッド~バイバイわたしのおうち」(賞)、「鬼の橋」(推薦作)と、産経児童出版文化賞関連ですでに6作品も取り上げられており、隠れた青春アドベンチャーの重要供給源となっています。
年末恒例?の児童文学作品
さて、昔は青春アドベンチャーの年末といえば「年忘れ青春アドベンチャー・干支シリーズ」でしたが、2012年の12月第1週に「アンデルセンの雪の女王」が再放送され(ただしこの年はそのあとに「やけっぱちのマリア」があった)て以降は、2013年の「クリスマス・キャロル」、2014年の「びりっかすの神さま」と、質の高い児童文学作品で締めるのが恒例になりつつあります。
その中でも、本作品は、特に年の瀬にふさわしい詩情溢れる、品の良い作品です。
石川由依さんの歌
この品の良い抒情性を象徴するのがヒロイン「むすめ」(結局、最後まで固有名詞は出て来ない)を演じる石川由依さんの歌声。
本作品、分量はそれほど多くはないものの、要所要所に石川さんの歌が挟まります。
これが日高哲英さんの民族音楽っぽいBGMや抑えた効果音とあいまってすばらしい童話世界を構築しています。
それにしても青春アドベンチャーでは「風神秘抄」や「砂漠の歌姫」など、やたらと歌の印象が強い石川由依さん。
本作品を含め3作品とも藤井靖さんの演出作品なので、藤井さんが特別に石川さんの声と歌を買っているのだと思います。
海宝直人さん久々の主演作
その他の演者については、主人公モコトルを演じる海宝直人さんは劇団四季のライオンキング(※)を始めとする多くのミュージカルにも出演経験がある方で、こちらも本作品において歌うようにセリフを話すシーンがあり、ストレートプレイの部分を含めてなかなかの熱演です。
海宝さんといえば、名作「DIVE!!」(2003年)を思い出しますが、あれからもう12年も経っているのですな!
千葉哲也さんの演技も外せない
そして、本作品の出演陣で忘れてならないのは、呪い士(まじないし)マダイタを演じる千葉哲也さんの「呪い」や「恨み」・「嫉妬」などといった負の要素を象徴する寒気がするような演技。
こういった土着的な負の要素もまた童話や昔話には欠かせない要素だと思います。
サハリンの雰囲気?
こういった童話や昔話的な児童文学を原作とする作品、また、キャラクターが突然歌い始めてしまうミュージカル風の作品は、個人的にはあまり好きではありません。
しかし、本作品は、伝統的な暮らしを続ける北方の名もない寒村(作中では明言されていないが原作者の生まれたサハリンを舞台にしていると思われる)の雰囲気づくりに、全5回を通じて成功してます。
また、ストーリー面でも、童話的には結末が最初から見えてしまっている面があるものの、聴いていると場面ごとには先が読みづらい意外な展開が続き飽きさせないものになっています。
期待していなかったのですが、1年を締めくくるに足る、落ち着いた良作でした。
補足:
2015年の年末に1年間の作品の人気投票を行ったところ、この「タランの白鳥」が見事、一位となりました。
詳細はこちらのページをご参照ください。
※2017/5/16追記
海宝さんは「ライオン・キング」には、もともと子役時代に「ヤングシンバ」として出演経験がありました。
しかし、本作品放送の翌年である2016年には成人したシンバを演じられることになります。
これは日本版のライオン・キングでは初めてのことだそうです。
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