ベルリン1989 作:古川健(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : ベルリン1989
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 2019年7月29日~8月9日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 古川健
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 海宝直人

「ベルリンの壁」が崩壊した直後の西ベルリンの医科大学。
医学生のハインツは、指導教官のアルベルト・ギュンター教授から、奇妙な依頼を受ける。
「東ベルリンにあるハンス・アイスラー音楽大学。その構内にある楡の木の根元に埋まっている私の忘れ物を取りに行って欲しい。」
教授は東ドイツからの亡命者だが、壁が崩壊した今となっては東ベルリンに自ら足を運ぶこともできるはず。
一体、なぜ自分などに依頼するのだろう…
あまり気が進まないながらも音楽大学へと出向いたハインツは、そこで憂愁を帯びた表情でピアノを弾くひとりの音大生に出会う。
彼女が弾いていたのは東ドイツ、ドイツ民主主義人民共和国の国歌だった。




本作品「ベルリン1989」は、劇団チョコレートケーキ所属の劇作家・古川健さんによるオリジナル脚本のラジオドラマで、ベルリンの壁崩壊直後のベルリンを舞台にした作品です。

数少ないオリジナルサスペンス

青春アドベンチャーはもともと原作付きの小説をラジオドラマ化することが多い番組で、オリジナル脚本の作品は多くありません。
そして、その数少ない作品も例えば、2019年にすでに放送された「夜のストーリーボックス」(オムニバスの短編ドラマ)、「河童の記憶」(河童の登場するファンタジー)のように、日常を舞台とする身近な題材の作品か、逆に思いっきり非現実的なファンタジー作品が多く、番組四半世紀の作品の中でも当ブログで「サスペンス」に分類したオリジナル長編作品は本作品が初になります。

しかもテーマは極めて硬派

さらにサスペンスと言っても犯罪や心理戦を扱った外連味の強いものではなく、歴史的な事件を背景とした硬派な内容。
なかなかイレギュラーではありますが、考えてみると、青春アドベンチャーはすでに2006年には(原作付きの作品ではありますが)「プラハの春」、「ベルリンの秋」という半歴史物を扱っていましたし、近年では戦後の東欧・共産主義体制の非人間性を扱った「オリガ・モリソヴナの反語法」(2016年)や、第二次世界大戦中の東欧で理想と現実の狭間で翻弄される外交官を主人公にした「また、桜の国で」(2017年)、ODAに絡む汚職を扱った「ロロ・ジョングランの歌声」(2019年)と、立て続けに社会派の作品に取り組んでいます。
その意味では、今回は満を持しての番組オリジナル作品の発表なのかも知れません。

ベルリンの壁崩壊30年

それにしても、ベルリンってこういう作品の舞台にはピッタリです。
実は今年はベルリンの壁が崩壊してから丁度、30年です。
今の若い人でも昔、ドイツが相争う東西二つの陣営により分断されて2つの国に分かれていたことはもちろんご存知かと思いますが、ベルリンという都市自体も2つに分断され、しかもそのベルリンが全体として東ドイツの国の中にポツンと存在していた、なんてことはどうにも信じられないかも知れませんね。
この奇妙な状況を題材にした作品は、青春アドベンチャー系列の番組では何度も取り上げられています。
上記の「ベルリンの秋」もそうですし、「アドベンチャーロード」時代に放送された「黄昏のベルリン」や「A-10奪還チーム出動せよ」もそう。
今思えば冷戦自体が極めて異常な社会情勢でしたが、その縮図とも言えるのがベルリンでした。

もうひとつの驚くべきこと

ところで、上記の「A-10奪還チーム出動せよ」が放送されたのが1987年、「黄昏のベルリン」の放送は1989年。
本作品の「舞台」はそれ以降の年代なんですよね。
むしろ青春アドベンチャーという番組の歴史が異常に長いことこそ、驚くべきことなのかも知れません。
今後も番組が無事に続くのであれば、今、こうして我々が普通に過ごしている2019年も「歴史的な舞台」として青春アドベンチャーに登場する日が来るかも知れないと考えるとちょっと楽しくなってきます。

真面目で丁寧なストーリー

さて、作品は1989年(一部1990年)の出来事を淡々と描いていきます。
主人公達が壁の崩壊に関与するわけではありませんので、派手なアクションシーンなどは一切ありません。
アルベルト・ギュンター教授が主人公のハインツに依頼した内容が謎めいていて序盤はサスペンス的な要素もあるのですが、それも中盤には明らかになります(雰囲気的に近いのは「オリガ・モリソヴナの反語法」や「オルガニスト」の序盤部分でしょうか)。
後半は過去にあったできごとと当時の人たちの心情、そしてそれを受けての1989年時点のハインツの行動を丹念に描写していくのですが、サスペンスというには物足りない内容。
主人公ハインツの性格も素直過ぎますし、個人的にはもう一波乱あってもよかったのかなとも思いますが、エンタメ枠にこういった真面目で丁寧な作品があってもいいのかなとも思いました(多分にFMシアターちっくな作品ではありましたが)。

歌える俳優が歌わない作品

なお、本作品の主演はミュージカル俳優の海宝直人さん。
青春アドベンチャーでは子役時代に「DIVE!!」に主演されたほか、「タランの白鳥」(2016年に人気投票第1位)、「斜陽の国のルスダン」、「暁のハルモニア」(2018年人気投票第1位)と主役、準主役級を歴任。
個人的にはストーリーラインが散漫な印象があった「暁のハルモニア」ですが、最終回の海宝さんの演技は「聞き所」というのにふさわしいものでした。
また、ヒロインのアンナを演じたのは元宝塚の咲妃(さきひ)みゆさん。
最近では、野々すみ花さん(帝冠の恋)、花總まりさん(斜陽の国のルスダン)に次ぐ元トップ娘役の方です。
その他の出演者では島田歌穂さんの存在感がさすがです。
島田さんはNHK-FMのラジオドラマには「人魚の森」以来の出演になるそうです。
「人魚の森」のころはまだミュージカルの分野では「レ・ミゼラブル」くらししかキャリアがなかった島田さんですが、今は堂々としたミュージカル女優です。
それにしてもまたしても歌えそうな出演者を集めておきながら、歌うシーンのない作品になっています。


NHKらしい、終戦記念日前後に放送された「戦争を考える」系統の青春アドベンチャー作品の一覧はこちらです。


青春アドベンチャーアドベンチャーにはなぜかドイツものに良作が多い?まとめたのはこちらの記事です。


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