- 作品 : 手を振る仕事
- 番組 : FMシアター
- 格付 : A
- 分類 : 職業
- 初出 : 2021年4月24日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 足立聡
- 音楽 : 日高哲英
- 演出 : 木村明広
- 主演 : 青木柚
僕は車掌になりたくてこの鉄道会社に入った。
でも会社の同僚たちからイジメを受け体調を崩して、今は線路沿いの建物から電車の乗客に笑顔で手を振る仕事をしている。
「そんな仕事、意味あるのかな」
彼女の最後の言葉が今も頭から離れない。
そんなに僕の仕事は恥ずかしいのかな。
この部署はいらない人間の集まりなのかな。
本作品「手を振る仕事」は、第49回創作ラジオドラマ大賞を受賞した足立聡さんの脚本をラジオドラマ化した作品です。
不思議な仕事
冒頭のあらすじのとおり、主人公の佐藤は鉄道会社で「手を振る仕事」をしているのですが、この仕事は、心身の不調で通常業務ができなくなってしまった社員にあてがわれている仕事。
一応、PR活動の一環という位置づけはあり、いわゆる「リストラ部屋」・「追い出し部屋」というほど会社の悪意は感じないのですが、会社が担当者に仕事の意義をちゃんと説明している様子はなく、担当者はかなり軽んじられてはいるようです。
そこに配属され仕事を続ける意欲を失った佐藤ですが、手を振り返してくれる、ある乗客との出会いや、同じ部署の上司や同僚との関わり合いの中で変わっていく…というような話です。
自分は必要とされているか
それにしても仕事って何なんでしょうね。
もちろん一番は生きていくための糧を得るための手段です。
「自己実現の手段です」などと就活生のような建前を取り繕った回答をするつもりはありません。
しかし、何年も仕事をしていると「あの人がいなくなったらこの部署、大変だよ」といわれていても結局いつも何とかなってしまうのが常であり、実際、替えの利かない人材なんてそうはいないことがわかってしまいます。
結局、何物にもなれず、必要とされている実感も希薄なのが普通だと思います。
人間は社会性生物
でも、昆虫のような真社会性生物ではないにしろ、極めて高い社会性をもつ人間という生物にとって仕事は、存在そのものにかかる決定的な意味はあるはずです。
本作品でそれがわかる…訳ではないのかもしれませんが、少しだけ前を向く力をもらえる作品かも知れません。
それにしても通常の社会性と真社会性を分けるのは「繁殖の分業」らしいのですが、所得格差の拡大が進む日本の現状を見ると人間も社会制度の変容を通じて真社会性生物に近付いているのかもしれませんね(冗談です)。
3人の主要キャスト
さて、本作品の主役である「佐藤君」を演じたのは俳優の青木柚(ゆず)さん。
2001年生まれで、実はNHK-FMのオーディオドラマでは子役時代の「海電(UMIDEN)」(FMシアター、2011年)や「海に降る」(青春アドベンチャー、2012年)から出演経験があります(他にも「また、桜の国で」、「カムパネルラ」なども)。
また、ヒロインのユミを演じたのは女優の中田青渚(せいな)さん。
ユミは神戸出身という設定なのですが、実は中田さんは実際に神戸出身で、作中の関西弁はネイティブです。
また、このふたりに「鈴木さん」を演じる吉見一豊さんを加えた3人を中心として物語は進行します。
元乃木坂46・井上小百合さん
なお、佐藤の元カノの役で元乃木坂46の井上小百合さんが出演されていますが、本作での出演シーンは序盤に限られ、正直なところ顔見世程度。
井上さんがメインで出演する作品は同年12月の青春アドベンチャー「世界から歌が消える前に」を待つ必要ありました。
出演者紹介が面白い
なお、作品最後の恒例の出演者紹介ですが、本作品の場合、作中の印象的なシーンをリプレイしながらの紹介となっています。
ちょっとした工夫ですが、なかなか印象的でした。
本作品は当ブログで実施した2021年FMシアターアンケートの2位(9票)になりました。
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