- 作品 : 王女アストライア
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A
- 分類 : 伝奇(海外)
- 初出 : 1992年5月11日~5月22日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 藤本ひとみ
- 脚色 : 香取真理
- 演出 : 伊藤豊英
- 主演 : 大沢逸美
神々がまだ人間の前に姿を現していた時代。
世界は、神々の住む第一世界、死後の国・冥界を司る第二世界、人間の住む第三世界、そして人間の生命エネルギーを管理する聖なる使者たちが住む第四世界“テーヌ・フォレーヌ”に分かれていた。
ある日、女神ヘラと太陽神アポロンとの密会の現場を目撃してしまったテーヌ・フォレーヌの第三王女アストライアは、罰としてヘラから「愛する者と決して結ばれない」という呪いを受けたうえで、第三世界へと落とされてしまう。
そして、そこでマケドニアの王子アレクサンドロスと出会い、激しく惹かれていくのだが…
藤本ひとみさんによる「テーヌ・フォレーヌシリーズ」の第1作である小説「王女アストライア」を原作とするラジオドラマです。
本作品は、2014年時点で300作品を超える青春アドベンチャー作品の中で3番目という、最初期に放送された作品です。
この作品より前の青春アドベンチャー作品は、谷村志穂さん原作の「14歳のエンゲージ」と、高橋三千綱さん原作の「不良と呼ばれた夏」しかありません。
ちなみにこの2作品とも私は聴いたことがありません。
音源をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非お聴かせ頂きたいものです。
主演はアイドル
さて、本作品のキャスティングは、初期の作品らしくなかなか意欲的です。
まず、主役のアストライア役は、第7回ホリプロスカウトキャラバン(1982年)のグランプリでデビューした歌手・女優の大沢逸美さん。
時々、アイドル的な位置づけの方を起用するのは、青春アドベンチャー系列の番組における、1980年代から現在まで続く、ある種の伝統でもあります。
人気声優
また、面白い配役なのがエリスファルド役の三ツ矢雄二さん。
アニメ「タッチ」の上杉達也役や「さすがの猿飛」の猿飛肉丸役などで人気だった声優さんですが、おねえキャラを演じることが多かったのが三ツ矢さんの特徴でもありました。
どこまでテレビ上の演出かはわかりませんが、三ツ矢さんは顔出しでテレビに出演される際にもおねえキャラであることが多いのですが、本作品もその慣例?に倣い、元男娼の中性的なキャラクターを担当されています。
格さん登場!
最後に、語り手を担当されているのは横内正さんも特徴的。
横内さんといえばTVドラマ「水戸黄門」の初代・渥美格之進(いわゆる「格さん」)役や、「暴れん坊将軍」の初代・大岡忠相(いわゆる「大岡越前」)役といった時代劇で有名な方です。
横内さんはまたNHK-FMの人気深夜番組「クロスオーバーイレブン」のパーソナリティをされていたことからもわかるとおり、渋い、とても良い声をされており、本作品もとても雰囲気のあるナレーションになっています。
若手女優(アイドル)、人気声優、時代劇俳優となかなかバリエーションに飛んだキャスティングです。
相手役はアレクサンダー大王
さて、冒頭の作品紹介のとおり、本作品の主人公は異世界の王女であるアストライア。
ただ架空の世界を舞台にした異世界ファンタジーではなりません。
舞台は歴史上実在した古代マケドニア王国であり、アストライアの相手役はいわゆる“アレクサンダー大王”として有名なアレクサンドロス3世(物語内での通称は「アレク」。演:筒井巧さん)です。
この筒井さんの演じるアレクは、作品中でたびたび称されている美青年という雰囲気ではなく、むしろやや荒々しさが強調されていますが、それはそれでなかなか好感のもてる演技です。
若者たちの物語
加えて、ルーカス(演:安藤一夫さん)、アンリオン(演:松木秀樹さん)、エリスファルド(演:上記のとおり三ツ矢雄二さん)といったアレクの側近の若者たちを中心にストーリーは進んでいき、本格的な歴史ものというよりライトノベル色が濃厚な作品ではあります。
また、正直言って、恋愛体質のアストライアが自分の恋に酔って放つ妄言の数々が少々、うざったい感も受けます。
しかし、冒険あり、恋あり、恋あり、恋あり、友情あり、陰謀ありの正統的な冒険活劇で、なかなか先が楽しみな作品でした。
物語は始まったばかり
ただし、本作品の最大の問題は極めて中途半端なところで終わっていること。
一応の結末はついているのですが、終わったといっても「長い物語の中の1エピソード」といったところ。
また、ストーリー的に中途半端であるのみならず、例えば第四世界“テーヌ・フォレーヌ”に住む人々?がどう普通の人間と違うのか、4つある世界の関係はどうなっているのか、など設定面の種明かしも不十分です。
さらに、作品中の最後のセリフが、女神ヘラの意味ありげな高笑いで終わっているところも、いかにも物語の途中であることを匂わせています。
続編は?
しかし、実際には次に藤本ひとみさん原作の作品が青春アドベンチャーで取り上げられたのは1993年放送の「ブルボンの封印」でした(なお、2020年には「ハプスブルクの宝剣」も)。
これは、本作品とは全く関係ない作品で、この「王女アストライア」の続編が青春アドベンチャーで取り上げられることは結局ありませんでした。
ならば原作で確認と思って調べてみると、続巻として「王都の将アレク」、「テセウスの誘惑」、「水晶宮のエリス」と合計4作品がでているものの、どうも結局、原作自体が未完のままで終わっている様子です。
すっきりしない
シリーズものが未完で止まるのはよくあることで、いろいろな事情があるのだとは思いますが、別レーベルで再刊までしているということはそれなりに人気があったはず。
私、すべての長編が必ずしもきれいに完結している必要はないと思います。
栗本薫さんの「グインサーガ」のように、「全力を尽くし、倒れてしまえばおしまい。」(by橘いずみ「永遠のパズル」)というあり方でよい作品もあると思います。
しかし、それが許されるのは倒れるまで書き続けた場合のみ。
一般的には、ファンがいる限り完結まで是非とも頑張ってほしいものです。
【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。
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