あおなり道場始末 原作:葉室麟(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : あおなり道場始末
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 2017年5月29日~6月9日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 葉室麟
  • 脚色 : さわだみきお
  • 演出 : 吉田努
  • 主演 : 橋本淳

ついに米櫃の米が尽きてしまった。
それはそうだ、最後の門人も先日出て行ってしまったのだから。
このままでは父上の一周忌もできない。
それなのに道場主の兄上は「困ったなあ」と繰り返すばかり。
世間の人たちは、失礼にも兄上を「青瓢箪」と「うらなり」を掛けて「あおなり」などと呼ぶが、これでは評判どおりだ…
姉上は姉上で「こうなったら道場破りをするしかない」などと、脳筋ならではの暴言を吐く始末。
これでは姉上が「鬼姫」などと呼ばれるのも仕方がないではないか。
しかし…道場破り?
意外といいかもしれない。
兄上が得意なものといえば剣術だけなのだから。
こうなったら、この勘六、神童の誉れ高く「天神小僧」の異名をとる末弟様が軍師役を務めて、何とか道場破りを成功させるしかない。
それに道場破りを続ければ、兄上が言う父上の死の謎に迫れるかもしれないし。



本作品「あおなり道場始末」は、「蜩ノ記」で直木賞を受賞した時代小説作家・葉室麟(はむろ・りん)さんの小説を原作とするラジオドラマです。
青春アドベンチャーでは、2012年に「蜩ノ記」もラジオドラマ化していますので、本作品は2作品目の採用作品ということになります。

アニメ化できそう

それにしても、この「蜩ノ記」と「あおなり道場始末」の2作品、同じ江戸時代を舞台とした、同一の原作者による作品なのに、雰囲気が全く違うことに驚きます。
「蜩ノ記」は「時間を区切られた生」という極めて重いテーマを取り扱い、終始重苦しい雰囲気で進む作品です。
それに対して、この「あおなり道場始末」は、一応、仇討ちものではあるのですが、ぽややんとした性格の主人公と、「3回に1回しか成功しない必殺技」という笑える設定のせいで、どうにも緊張感に欠けるストーリー展開になっています。
極端な言い方をすれば、「この作品の原作ってひょっとしてラノベ?」、「これってアニメでも行けるのでは?」と思わせるような軽やかさです。
「蜩ノ記」の重厚さとの落差に驚いても無理からぬところでしょう。

推理要素もあるライトな仇討ちもの

さて、本作品の舞台は豊後国(ぶんごのくに。今の大分県)にある坪内藩(つぼうちはん)。
そこで「神妙活殺流」(しんみょうかっさつりゅう)なる流派の剣術道場を営む3人兄弟(兄・姉・弟)が主人公です。
経済事情からやむなく道場破りを始めた3人ですが、藩内の5つの道場をひとつずつ訪ねていくうちに、やがて1年前の父親の死の真相、そして坪内藩が抱えるお家の事情が見え隠れするようになります。
原作はもともと双葉社の「小説推理」に掲載された作品です。
なので、謎解き要素もあるのか、と思ったのですが、正直言って、この面ではあまり目を見張るような展開はありませんでした。
また、中盤に少しクローズアップされる「身分社会における武士の生き方」とか「藩命の重さ」といった内容も「蜩ノ記」のような深みのある結論にはつながらず。
本作品はあくまで爽やかな兄弟愛、親子愛、そして仇討ちの爽快感を楽しむべき作品なのでしょう。

効果音がややチープ

爽快感といえば、本作品はナレーションの多さと必殺技(「神妙活殺」)のチープな交換音が、チャンバラシーンの爽快さをやや損なっているように感じました。
実写やアニメと違って絵がないラジオドラマは効果音がとても耳に付きます。
縦えば「人喰い大熊と火縄銃の少女」の戦闘シーンの太鼓の音などは今でも耳に残っています。
SF作品でピコピコした電子音を使ってしまうのはそろそろやめにして欲しいといつも思うのですが、本作品の「神妙活殺」の効果音も、もうひとひねり欲しかったと思います。
ただ終盤の対決シーンはなかなかの迫力でした。

主演は橋本淳さん

話を出演者に移しますと、まず主人公の青鳴権平(あおなり・ごんべえ)を演じているのは、俳優の橋本淳(はしもと・あつし)さん。
2007年の朝ドラ「ちりとてちん」や大河ドラマ「軍師官兵衛」などに出演経歴がありますが、読売演劇大賞、岸田國士戯曲賞、紀伊國屋演劇賞、ハヤカワ悲劇喜劇賞、読売文学賞など数々の賞を受賞している舞台俳優さんでもあります。
ちなみに(当たり前ですが)、1990年代の川口泰典さん演出作品に多数出演された橋本潤(橋本じゅん)さんとは別人です。

その他のキャスト

また、姉(権平から見ると妹)の千草(ちぐさ)を木下あかりさんが、弟の勘六を土屋神葉(しんば)さんが演じています。
土屋神葉さんは、朝ドラに主演(「まれ」)され美人女優として名高い土屋太鳳(たお)さんの弟さんにあたります。
「たお」も「しんば」も本名らしいのですが、「しんば」はひょっとして「ライオンキング」由来なのか?などと考えてしまいます。
その他では、新当流・柿崎道場の道場主を演じている吉見一豊さんがうさん臭くてよい感じです。
青春アドベンチャーでは多くの作品にわき役として出演されている吉見さんですが、その剽軽な声で「スタープレイヤー」の“マキオ”以来の印象的な役になっています。

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