- 作品 : 70歳の受験生
- 番組 : FMシアター
- 格付 : A-
- 分類 : 家族
- 初出 : 2018年3月31日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : さわだみきお
- 音楽 : 菅谷昌弘
- 演出 : 佐々木正之
- 主演 : 平泉成
母・洋子の四十九日法要の日、集まった家族に向かって父・誠は宣言した。
「俺ももう七十。残りの人生を自分自身のために過ごしたい。今年から受験生になる!」
驚愕する家族。
特に息子の修一は「年相応の生き方をすべき」と父の行動を全否定。
腹を立てた誠は早速、受験予備校に入学。高校生の塾友と一緒に勉強を始めた。
しかし、現実は勉強勘を取り戻すことに精一杯で、何度模試を受けても志望校の合格ラインには届かない。
やはり無謀な挑戦なのだろうか。
誠はなぜこんなことを始めたのだろうか。
本作品「70歳の受験生」は2018年3月にNHK-FM「FMシアター」にて放送されたオーディオドラマです。
勝手な推測ですが、この時期に本作品が制作されたのは、放送中でも少し言及される大学経営における「2018年問題」に着想を得た側面があるからだと思います。
2018年問題?
すなわち「18歳人口の減少」→「大学受験生の減少」→「老年世代の大学受験」という流れがあったのではないかと。
ただ、この2018年問題、実際には受験生が急減することはなく、しかも首都圏における私大定員の厳格化(これも訳のわからない政策ですよね…)等もあり、杞憂に終わりました。
ただし、今後も若年層の人口が減り続けるのは確かですし、異常に高いわが国の奨学金利用率からすると親の経済力も限界に近づいていると思います。
また、寿命が延びたことにより学び直しの需要が高まることも十分に考えられますので、本作品の誠のようにアッと驚く高齢大学生が増える可能性もあると思います。
というか、日々の生活と仕事で疲れ果てている身にとっては単純にとても夢のある話です。
受験のディテールに拘って欲しい
ただ、本作品はどちらかというと家族の絆を問う家族ものの色彩の強い作品です。
もちろんそれはそれで良いのですが、個人的には老年者の大学受験をディテールに拘って取り上げて欲しかった。
受験という制度にももちろん負の側面はあるでしょうが、受験はそれ自体が人生における一大チャレンジ。
近年、FMシアター、青春アドベンチャーで受験をメインテーマとした作品はあまり記憶にありません。
「さよなら、田中さん」で少し中学受験を取り上げていましたが、負の側面をクローズアップした偏った取り上げ方でした。
新しいジャンル
受験の過程を丁寧に追えばそれだけで立派なエンターテイメント作品になることは、過去多くの小説、ドラマ、漫画など証明してきたところであり、最近でも「ドラゴン桜」や「二月の勝者」のような名作が多くあります(そういえば以前「見捨てられたクラス」をオーディオドラマ化推薦作として挙げました)。
本作も老年者の受験という新しいテーマをもっと掘り下げればパイオニアになれる可能性もあったと思います。
意外と面白いのではないか
実際、「答えがひとつというのは楽」とか「とにかく字が見づらい」とか大人ならではの視点もとり入れられてはいるのですが、さらに経験を積んだ社会人の受験だからこその力もあるはずです。
例えばカタカナ英語が飛び交う職場を経験していればこその英語の語彙力とか、仕事の必要から必至で勉強した経験とか、必ずしもある年に受からなくてもよい立場とか(学生は現役か精々一浪くらいが一般的ですよね)は学生にはないメリットだと思います。
まあ、体力、記憶力が圧倒的に落ちているというデメリットは覆しづらいのですけど。
ライフプランニングについて
あと少しだけ気になったのはライフプランニングの捉え方。
確かにリタイアメントプランニングはファイナンシャルプランニングの重要な分野ではあるのですが、ライフプランニング=終活と捉えられかねない内容はミスリードに繋がりかねないとは思いました。
平泉成さん主演
受験ものという観点から色々と書いてしまいましたが、そもそもFMシアターの50分の枠に多くを求めるのは難しいとも思います。
本作は全般的に気持ちの良い家族ものに仕上がっていますし、往年の名声優さんが多数他界されている昨今、青春アドベンチャーに長年貢献してきた平泉成さんの演技を聞けるだけで大満足ではあります。
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