- 作品 : 五番目のサリー
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 1993年1月18日~1月29日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : ダニエル・キイス
- 脚色 : じんのひろあき
- 演出 : 川口泰典
- 主演 : 前田悠衣
地味で内気なサリーは子どもの頃から頻繁に記憶喪失に陥るため、29歳の今になるまで何をやっても上手くいかなった。
実はサリーの心の中には、デリー、ノラ、ベラ、ジンクスの4人の人格がおり、サリーが精神的に耐えられない状況に陥るたびに、彼らがサリーに代わって事態に対処してきた。
サリーの記憶喪失はその結果だったのだ。
ある日、何度目かの自殺未遂(サリーは知らないが実はペシミストのノラによるもの)をしたサリーは、ついに精神科医アッシュの治療を受ける決心をする。
SF小説の古典のひとつとされる「アルジャーノンに花束を」で有名なダニエル・キイスの小説を原作とするサイコミステリーです。
本作の主題は多重人格です。
ダニエル・キイスは「24人のビリーミリガン」というノンフェクションでも多重人格を扱っていますが、本作は完全なフィクション(小説)です。
中心は診療室の場面
青春アドベンチャーでは、本作品のほかにも、多重人格を取り入れた作品があります(←ネタバレになるのでクリックは注意して下さい)が、本作品は精神科医による多重人格の治療自体に焦点があてられているのが特徴です。
さらに、原作を読んだのがかなり前なのでうろ覚えなのですが、原作では各人格ごとの葛藤や各人格が巻き起こす事件がより多く描かれていた記憶があります。
本ラジオドラマはそのあたりは大胆にカットして、診察室における精神科医アッシュとサリー達との会話・治療に集中した脚本になっています。
渡辺いっけいと5人の女優
そのため、本作品は、渡辺いっけいさん(医師アッシュ役)と、サリーの5人の人格を演じる宝塚出身の5人の女優さん(前田悠衣さん、春風ひとみさん、大輝ゆうさん、仁科有理さん、穂高つゆきさん)との会話の応酬が魅力になっています。
4人の交代人格と対峙し、自分の過去をさらけ出して治療を続ける渡辺いっけいさんの演技も見事ですが、4人の交代人格を別々の女優さんが演じており、とても華やかな作品になっています。
また、最初おどおどとしていた主人格のサリーの性格が、治療の進展で段々と変わっていくのですが、その課程を演じる前田悠衣さんの演技も聴き応えがあります。
特に第三のサリーになった際の口調の変化は、一聴の価値があると思います。
やはり前田悠衣さん
前田悠衣さんは渡辺いっけいさんと同様に、本作が放送された時期の青春アドベンチャーの超常連でした。
しかし、「わたしは真悟」の「まりん」役と「悲しみの時計少女」の「時計少女」役、それに本作品のサリー役と、聞いていて不安感を煽られるような神経質な役が多すぎです。
「サンタクロースが歌ってくれた」、「リプレイ」などでは割と普通の役なのですが、前記の3役の印象があまりに強烈すぎて、前田さんの甲高い声が聞こえるだけで、演じているキャラクターが普通の人間とは思えなくなってしまったくらいです。
じんのひろあきさんの脚色が光る
脚本はじんのひろあきさん。
じんのさんは、ラジオドラマの脚本化するあたり、原作の要素を取捨選択するのが上手いなあ、といつも思うのですが、本作は舞台を治療室に絞ったことで、5人の女性の声の魅力を中心としたラジオドラマ独自の魅力を作り上げていると思います。
なお、本作品では、端役ですがじんのさんご自身も出演されています。
昔、「ふたりの部屋」で放送された「絶句」で原作者の新井素子さんご自身が出演されていました。
新井さんの演技はまあご愛敬という感じでした(ファンとしては新井さんの声が聞けただけで十分です)が、本作品のじんのさんの演技は意外と違和感がありません。
じんのさんは役者のご経験もあるのでしょうか。
名作を作ったトリオ
脚本のじんのさんの他、選曲の伊藤守恵さん、演出の川口泰典さんのトリオは「北壁の死闘」や「わたしは真悟」と全く同じで、出演者もかなり重複しています。
また「悲しみの時計少女」は脚本はじんのさんではありませんが、スタッフ・キャスト共にかなり重複しています。
放送当時の青春アドベンチャーを聴いていた方々にとっては懐かしいスタッフ・キャストばかりなのではないでしょうか。
<ダニエルキイス原作の他の作品>
【じんのひろあき脚本の他の作品】
スピーディーな展開、的を絞った見せ場。
青春アドベンチャー初期の名脚色家・じんのひろあきさんの担当作品一覧はこちらです。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。
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