ヘルプマン -俺たちの介護物語- 原作:くさか里樹(FMシアター)

格付:A
  • 作品 : ヘルプマン -俺たちの介護物語-
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A+
  • 分類 : 職業
  • 初出 : 2022年9月3日・9月17日・9月24日・10月1日・10月8日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : くさか里樹
  • 脚色 : 井出真理
  • 演出 : 吉田浩樹
  • 主演 : 浅利陽介

新宿・歌舞伎町のホストといっても、百太郎(ももたろう)は万年ヘルプだ。
元同級生の仁(じん)は店のナンバーワンになったのに。
しかしある日、百太郎はその仁がホストと掛け持ちで特別養護老人ホームで介護のパートをしていることを知る。
介護?一体、仁はどういうつもりなんだろう?
しかしこれは恩田百太郎がホストのヘルプから介護のヘルプマンへと生まれ変わるキッカケだったのだ。


本作品「ヘルプマン -俺たちの介護物語-」は、くさか里樹さんの漫画「ヘルプマン!」を原作とするオーディオドラマで、2022年の9月から10月に掛けてNHK-FM・FMシアターにて全5回で放送されました。
FMシアターで漫画原作作品が放送されるのはとても珍しいことです。
そして全5回の連続ものも前代未聞。
2022年、というよりFMシアターの歴史に残る作品になりました。

原作は27巻

まず原作作品との関係から。
原作漫画「ヘルプマン!」の連載がスタートしたのは2003年で、本編最終巻となる27巻が刊行されたのは2014年。
日本で公的な介護保険制度が施行されたのは2000年ですので、まさに日本の介護保険制度と共に歩んだ作品です。
この物語は介護施設を舞台にしたストーリーから始まり、在宅介護、認知症、介護虐待、ケアマネといった基本的なテーマから、外国人ヘルパー、介護学生、ヘルパーの待遇、さらには成年後見制度や災害時の介護、そして役所の関わりといった介護に関連する実に多方面の事柄を扱った膨大な物語となりました。

連続5回シリーズ

この作品をオーディオドラマにするにあたり、NHK-FM(演出の吉田浩樹さん)は50分×5回=250分、という形を選択しました。

  1. ヘルプマン、覚醒!
  2. 希望は、あるか?
  3. 極楽へ、行こう
  4. 告発
  5. そして、夢へ

これでも短すぎる

250分という長さは青春アドベンチャーではそれほどレアではありません(15分×15回or20回=225分or300分という作品はそれなりにある)。
しかし単発ドラマで見ると、例えば1993年から1994年に放送された「遠い星から来たノーム」は3作品・合計240分、2005年から2007年にかけて放送された「ドラマ古事記」は3作品・合計220分ですが、これらは特集番組ですし、半年から1年程度の間隔を開けて制作されたもの。
ほぼ連続でFMシアターの通常枠を5回使ったのは前代未聞です(正確に言うと第1回と第2回の間に「雪天神」が挟まっているので5週連続ではない)。
ただしこの前代未聞の枠をもってしても全27巻(続編を含めるともっと長い)の大作をドラマにするにはあまりにも短い。
では本作品はどうしたかというと…

ヘルプマンvsマンモスケア

まず主人公を、浅利陽介さん演じる恩田桃太郎と、渡部豪太さん演じる神崎仁、瀧内公美さん演じる小池桃代の3人に絞り込む。
この3人と数々の名優が演じるご老人方の絡みでストーリーは進行していくのですが、これらのご老人の中でも最大のキーパーソンを、かたせ梨乃さんが演じる新居正美に設定し、巨大介護事業グループ「マンモスケア」との対決をストーリーの縦糸に設定しています。

勧善懲悪的だが筋は通った

エピソード自体は原作の「介護保険制度編」(第1巻)、「介護支援専門員編」(第5~7巻)、「介護職員待遇編」(第13~15巻)を中心にピックアップ。
ただし、原作第1巻では明示されていなかったマンモスケアの影が最初からちらつく展開。
また、原作ではマンモスケア最高顧問として辣腕を振るう姿も描かれている新居正美さんがいきなり認知症が進んだ段階からスタートしています。
これによりいささか勧善懲悪的な一直線のストーリー展開になった感は否めませんが、全5回に背骨を通すことに成功しているとは思います。

原作はもっと多彩なエピソード

ただ原作未読の方に対しては原作漫画「ヘルプマン!」はもっと幅広い作品であることは強調しておきたいと思います
実は中盤以降、百太郎も仁も主役としての出番は少なくなり、むしろ味のある脇役として登場することが多くなるのです。
できれば原作も読んでその幅の凄さを実感して頂けたらと思います。

ナチュラルボーン・ヘルパー

原作との違いということでもうひとつ付言しておきたいのは、主役2人の人物造形。
原作の百太郎は一種のスーパーマンなんですよね。
確かに序盤こそ素人丸出しで失敗ばかりだし、その後も独自の介護理論で暴走したり、給料が少なくて暴れたりもしますし…(あれ?終始問題児?)
ただ、「介護はおもしろい!」の一念だけで突っ走ることのできるナチュラルボーン・ヘルパー。
敢えて似ているキャラクターを挙げるのであれば「岳 みんなの山」の島崎三歩。一種の天才なのです。
また、仁についてはそもそも介護に関わり始めた理由が違う。
オーディオドラマでは恩返しなのですが、原作では介護にビッグビジネスの匂いを嗅ぎつけたから。
もちろん「日本の介護を変える」という熱い信念を持っているのは同じなのですが。
そして仁も(特に原作後半では)幅広い知識と果敢な行動力で、天才・百太郎がもっとも信頼するケアマネとなっていきます。

どうしてもシリアス寄りに

それに対してオーディオドラマ版の百太郎と仁は現実と悩み格闘する段階で終始し、原作のふたりほど突き抜けた地点に到達することはできない。
まあこれはオーディオドラマが原作の序盤のエピソードのみをベースにしているからこそではあります。
ただそのことによって本作品は原作以上にシリアスな雰囲気になったとは感じました(百太郎が一時期介護から離れる描写は象徴的)。
ただ、これはあくまで私がそう感じただけかも知れません。
また、浅利陽介さんと渡部豪太さんの声と演技の原作再現度が高いからこそ、若干のニュアンスの違いが気になってしまったとも考えられます。

驚くべき女優陣

さて、この作品を語る上で絶体に外せないのは、昭和の大女優を多数起用した出演陣。
なんと、かたせ梨乃さん、左時枝さん、市毛良枝さんに認知症の老人を演じさせるという大胆な配役。
かたせ梨乃さん(の演じる役)なんて最後の一部を除いてほとんど奇声しか発しない役ですし、左時枝さん(の演じる役)なんておしっこを漏らしちゃうますし、市毛良枝さん(の演じる役)なんてあの上品な雰囲気(確か「お嫁さんにしたい女優ナンバーワン」とか言われていましたよね)のまま目の前の男性が誰かわからなくなってしまうなんてあまりにも悲しい…(最後に個人的な感情が入ってますねえ)

そうか当事者だったのか

「いや、よくやるなあ」と思って聴いていたのですが、公式HPのお三方のコメントを見て納得。

  • かたせ梨乃さん「私自身両親の介護を始めて7年の月日が過ぎました。自分独りでは出来ないことを助けて頂き、現場の大変さも身をもって体験して参りました。」
  • 左時枝さん「思わず25年程も前の事が私の胸の中で蘇ってきました。私の母のことですが、時間を見つけては母が入居していた施設に1週間に一度洗濯物を取りに行く事が決められていて…」
  • 市毛良枝さん「母の介護で出会った認知症の皆さんは、事情を知らなければご病気とわからない方がほとんどでした。」

みなさんご自身の介護経験を重ねながら演じていらっしゃったんですね。
色々と納得です。
これらに加えて、高橋長英さん(第3話の準主役格)、大方斐紗子さん、片岡礼子さん。
それに津田寛治さんなどの比較的(!)若めの方を含め、ある意味、あり得ない方々の競演作品です。

「介護の面白さ」が足りない

以上から当然格付けとしてもAA以上を付けたいところではあるのですが、本作品には介護の話を5回も連続で聞き続けることの苦しさ(特に第1回にきつい内容が多いので先を聞くモチベーションが湧きづらい)があることは否めないと思います。
特に先に述べたように原作の百太郎がしばしば放つ「介護っておもしろい!」という要素が薄いことが作品をシリアス寄りにし過ぎてしまっていると感じました。
また構成上、仕方がないと思うのですが、あまりに勧善懲悪。
悪役が改心してめでたしめでたしというオチの空々しさがどうしても気になって冒頭の評価にしました。
でも良作です。

構想4年

なお、本作品、演出の吉田浩樹さんと脚本の井出真理さんが4年も前から温めてきた企画とか。
上記のキャストだけではなく、介護指導に2人の専門家(加藤忠相さん、鈴木真さん)、ホスト指導に手塚マキさん(元歌舞伎町のホストクラブのナンバーワンで、介護事業にも関心があり、今ではホストクラブ6店舗のほかデイサービスを含め18店舗を経営する実業家とか)を配するなど、細部まで手が込んでいると思います。

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