防潮門 原作:アリステア・マクリーン(アドベンチャーロード)

格付:A
  • 作品 : 防潮門
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : A-
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 1988年11月21日~12月2日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : アリステア・マクリーン
  • 脚色 : 田辺まもる
  • 演出 : 伊藤豊英
  • 主演 : 東野英心

それはひとつの英語のメッセージから始まった。
「我々はFFF(エフエフエフ)である。
我々は北海に臨む堤防の要衝を爆破する用意がある。
第一の目標はスキポール空港。
洪水は明日11時に起こることを予告する。」
テロリストはオランダという国全体を人質としようというのだ。
国土の3分の1が海抜ゼロメートル以下というオランダを。



「世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った」
本作品「防潮門」を聞いたときに最初に連想したのがこの言葉です。
誰が言い出したのか知りませんが、この言葉ほどオランダの国土を的確に表している表現はないでしょう。

国土の30%がゼロメートル地帯

そもそもオランダの正式名称である「Nederland」(ネーデルランド)自体が、「低地」という意味なのですが、それにしても国土の20%以上がオランダ人自らが干拓事業によって作り出した土地であり、30%以上が海面より低いということは驚くべき事実です。
オランダといえば風車が有名ですが、あの風車は小麦を製粉するためのものでも、ましてや風力発電のためのものでもなく、単に水を汲みだすためのもの。
つまり、不断に水を汲みだし続けないとオランダという国は水没・消滅する運命にあるわけです。

実はオランダだけではない

いきなり脱線気味ですが、脱線ついでに言うと、ニューヨークの地下鉄も常に出水が続いており、ポンプアップを止めるとすぐに水没すると聞いたことがあります。
また、東京東部にも広大なゼロメートル地帯が広がっているわけですが、これは水溶性の天然ガスを採取するために、地下水をくみ出しつづけた結果、地盤沈下したものだとのこと(東京東部の地下に日本最大のガス田「南関東ガス田」があることは意外と知られていない)。
人間の欲求や生存本能というものは恐ろしいものです。

潜入捜査官

さて、この「オランダの存続にとって必要不可欠な堤防を人質にする」という一発ネタにすべてをかけた作品が、この「防潮門」です。
主人公はアムステルダム市警のエッフェン警部。
「警部」といっても彼は普通の警察官ではなく、テロリスト対策の特別捜査官。
その職業ゆえに過去、妻と子をテロリストに爆殺された過去を持っています。
彼はFFFの犯行を受け、即座に自ら潜入捜査を開始。
自分で自分の顔に火傷を付け、「指名手配の爆発専門家」に扮して犯人たちへの接触を図っていきます。

いわゆる警察物とは一味違う

得意なのは推理ではなく行動、というタイプですので、ち密な計算なしで出たとこ勝負でどんどん進んでいきます。
警察官でありながらテロリストの信用を得るために王宮を爆破しちゃうあたり、「暗殺のソロ」のモーガン大佐に勝るとも劣らない暴走ぶりです。
この辺のストーリーの大雑把さ(一応、警官なのに…)は、本作品の魅力でもあり、逆にアラだともいえましょう。
このエッフェン警部の暴走ぶりにつられるように、上司である本部長のド・フラーフ大佐(演:柳生博さん)も、叫ぶ、愚痴る、狼狽する!
この辺も「暗殺のソロ」のファーガスン准将に似た感じです。
それにしてもこのド・フラーフ大佐、警察組織の人間なのに、なぜ「大佐」という軍事組織の階級なのでしょうか。
ご存知の方がいらっしゃいましたら是非ご教示ください。

お嬢様捜査官

一方、ヒロインは女潜入捜査官でありながら実は財閥の令嬢という、属性盛り過ぎのアンネ・マリー。
オーバースペック気味の割には活躍の場は少ないアンネ・マリーですが、声はかわいらしく、いかにもヒロインっぽい感じです。
演じたのは女優の野口早苗さんなのですが、一方のエッフェン警部を演じるのが東野英心さんであるため、正直言って、カップルとしてつり合いが取れていません。
「美女と野獣」? というか「少女とおじさん」?
エッフェン警部、ひょっとしたら原作ではもう少し若いキャラクターなのかもしれません。
ただ、東野英心さんの声を聴くと、つい「あばれはっちゃく」の「父ちゃん情けなくて涙が出てくらぁ」を思い出してしまう世代としては、エッフェン警部をアンネ・マリーの「白馬の王子さま」と呼ぶのは無理があると感じざるを得ません。
やっぱり東野さんは「CF愚連隊」の熊沢(=ギャンブル大好きおじさん)の方があっています。

スタッフ紹介

スタッフは、脚色:田辺まもるさん、演出:伊藤豊英さんのコンビ。
再三引き合いに出した「暗殺のソロ」と同じコンビであり、実質的なこのドラマ枠の第1作である「無頼船長トラップ」のコンビでもあります。
なお、原作者のアリステア・マクリーンは冒険小説で知られた英国(スコットランド)の小説家で、「ナヴァロンの要塞」が有名です。

【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。

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