嘘か真か 作:井上悠介・池谷雅夫(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 嘘か真か
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : スラップスティック
  • 初出 : 2021年5月3日~5月7日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 作  : 井上悠介、池谷雅夫
  • 音楽 : 宮崎誠
  • 演出 : 寺﨑英貴
  • 主演 : 吉永拓斗

高校1年になって早3カ月。現実世界で楽しく生きることは諦めた。
だって俺たちはモブなんだから。
モブだよモブ。つまり名無しの群衆、脇役にも満たないキャラクター。
だから俺は現実の世界で頑張ることを放棄しSNSの世界をエンジョイすることに決めた。
俺の投稿した嘘に一喜一憂するフォロワーたち。
このネット時代、嘘を嘘と見抜けない方が悪い。
だいたい「大通りの某老舗タピオカ屋で、タピオカミルクティのミルクティ抜きのタピオカ増し増しラージサイズを注文すると裏メニューでモーニングスターが貰える」なんてデタラメ、信じる方がどうかしている。
こんなことが現実に起こるはずないじゃないか、嘘なんだから。


本作品「嘘か真か」は2021年5月にNHK-FMの青春アドベンチャーで放送されたラジオドラマです。
この時期の青春アドベンチャーは年初1月の「輪廻転Payうた絵巻」から始まった新作9作品連続のオリジナル脚本攻勢(「負け犬たちのミッドナイト・バス」のみ「原案」付き)さなかにあり、その8作品目が本作品でした。
これらの作品のうち、本作品は続き物では唯一の全5話と短めの作品でしたが、短いなりにスリリングかつスピーディで印象的な作品になっています。

近未来の普通の高校生

作品の舞台となるのは2030年の北海道。
今からおよそ10年後ですが、10年間で世界が大幅に変わった状況にはなく、この年代設定にあまり種や仕掛けはありません。
あえていえば「北の大国」(まあロシアなのでしょうが、なぜか本作品では匿名)の脅威度が現実世界と少し違うということにリアリティを持たせるためだけの設定のようです(※追記をご確認ください)。
主人公・真(まこと)は普通の高校生ですが、現実世界と一本線を引いているようなところがあり、あまりリアリティをもって生きていない少年です。

SNS悪用中!

そんな彼の唯一の趣味がSNS(まあTwitterなのでしょうが、商品名を広告しないNHKらしく匿名※追記をご確認下さい)ででたらめの嘘、妄想、陰謀論を発信すること。
しかし妄想でつくった適当なツイート(とはいっていないけど)を実行したら本当に反応が生じてしまったことから彼を取り囲む状況は一変。
日本と北海道の将来にかかわる陰謀へと巻き込まれていきます。

コメディではないけどドタバタ

…というとすごくシリアスな展開を予想される方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的にはドタバタ劇。
スパイ組織やレジスタンス、プロの殺し屋などがでてくる!といえば、ライトで荒唐無稽で突拍子もない展開が想像できると思います。
近年の放送作品と比較するなら、同じサスペンスでもひたすら陰鬱で重い「ベルリンは晴れているか」ではなく、コメディ要素こそ抑え気味であるものの「00-03 都より愛をこめて」に近いテイストの作品だと思います。
ただ、「00-03 都より愛をこめて」と違うのは単なるドタバタには終始しておらず、一応、少年の成長物語になっていること。
ありきたりの展開とはいえ短いストーリーの中で一応ちゃんと着地する展開はそれなりに好印象でした。

宮崎誠さんの今後に期待

また、本作品は音楽も印象的。
音楽を担当された宮崎誠さんはアニメ「アイドルマスター」やテレビ番組「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」などにも楽曲を提供された方です。
本作品の制作統括をされた藤並英樹さんがやはり制作統括をされたTVドラマ「今だから、新作ドラマ作ってみました 第3夜「転・コウ・生」」(2020年5月)の音楽も担当されていたようですのでその音楽を評価しての起用なのかも知れません。
青春アドベンチャーで音楽を担当されるのは初めてだと思いますが、ドラマチックで印象的なフレーズが多く今後に期待できます。

出演者の紹介

さて、話を出演者に移しますと、本作品で主演されたのは「タイムライダーズ」で主役のリアムを演じていらっしゃった吉永拓斗さん。
リアムがあくまで誠実で真摯なキャラクターであったのと比較すると、本作品の水野真はかなりの無気力キャラですが、これはこれでいい感じです。
一方、女性陣は祷(いのり)キララさんと上坂すみれさんのダブルヒロイン態勢。
祷キララさんはすでに多くの超短編映画に主演されている女優さん、上坂さんは人気の声優さん。
特に上坂すみれさんはロシア人(作中では北の大国の人)であるナターシャを演じているのですが、作中でちょっと素人とは思えない発音のロシア語を披露されており少し驚きました。
それもそのはず、上坂さんは高校時代からロシアや旧ソ連が大好きで、熱望して上智大学のロシア語に入学された方で、人気声優になったあとも、アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」(アナスタシア役)、「ガールズ&パンツァー」(ノンナ役)ではロシア語を披露されているそうです。
青春アドベンチャーでは2013年の「ツングース特命隊」でロシア出身の声優ジェーニャさんを起用したことがあり、これで日本の声優界におけるロシア語を話せる2大声優?を網羅したことになります。

脚本は分担?

最後に本作品の各界のサブタイトルを記載します。
全体で一つのストーリーの作品ですが、放送で確認したところ、第1回・第3回・第5回は井上悠介さんの脚本、第2回・第4回は池谷雅夫さんの脚本とされていますので、ある程度分担されたのかもしれません。

  1. 嘘は真の始まり
  2. スカスカの毛ガニ
  3. 一番小さなマトリョーシカ
  4. 令和のノストラダムス
  5. 嘘から出た真



※2023/7/30追記
こんなことを書いていたら本作放送のわずか9カ月後の2022年2月にロシアがウクライナに進行を始め「北の大国」の脅威が現実のものになってしまいました。これ、再放送できるか?
また2年5か月後の2023年7月にTwitterはXになりました。
2030年にTwitterは存在しないので結果としてTwitterと明示しないのは正解となってしまったわけです。

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